小話:其の九拾弐《参加型の物語(仮題)》
【キャラクター重視の物語】
《参加型の物語(仮題)》
とある時代の、とある国の、とある町の、とある商店街の、とある電器店の展示用のテレビの中で、ひとりのヒトが熱く語っていました。上質そうなスーツに身を包んだそのヒトは、スーツが裂けてしまいそうなほど強烈に、語りに合わせて身振り手振りをまじえます。
そのヒトは、この国の運営の最高位にあるヒトでした。国民からは圧倒的な支持を得ており、人気のある芸能人らのそれと似て、その言動は常に注目を集めます。ともすれば順風満帆のようですが、しかし現在に至るまでには、聞くも涙、語るも涙の、幼少期から続く物語がありました。それを記した自叙伝は大ベストセラーとなっています。
そんな物語が背景にあることも手伝ってか、そのヒトに対する批判的な意見はさほど表に出てきません。出てきたとしても、大多数の国民はまともにそれを受け取りません。むしろその意見を出したモノを糾弾し、そのヒトを擁護したりします。
いま、この国は史上最も国民が政治に関心を寄せていました。
* * *
とある時代の、とある国の、とある町の住宅街にある一軒家で、
「ふーん」
そのヒトはスナック菓子をつまみながら、テレビを見ていました。いまはテレビには、とある国の現状に関するニュースが流れています。
それを見やったそのヒトは、心の底から不可思議そうに顔をしかめました。スナック菓子を口に放り込む合間に、ぼそりと呟きます。
「どうしてこの国の連中は、あんなありきたりな“設定”が書かれただけの“書籍/自叙伝”を買ってまで、テレビの中にも存在しないアニメーションで描かれた“キャラクター/偶像”を支持するんだろう……。中身のあるつまらないヒトより、中身のない愉快なキャラクターのほうが、そんなにいいのかな?」