小話:其の九《“あれ”の続き(仮題)》
誰もが気になる“あれ”の――
《“あれ”の続き(仮題)》
ひとりの男が、思い詰めた表情で手にあるモノを見つめていました。そこには腰から引き抜いたベルトがありました。
彼はそのベルトで適度な長さの“わっか”を作ると、それを部屋のドアのノブに引っ掛けました。そしてあらかじめそうすると決めていた動きで“わっか”に首を通し、ドアを背にするかたちで床に腰を下します。けれど腰はギリギリ床に触れません。ベルトが首に食い込みます。のどが圧されて、声の代わりに空気がか細く漏れました。首の血管が圧迫されてうっ血し、みるみる顔が赤くなってゆきます。
これで“いままで”から解放される。そう考えたとたん、男の脳裏に“いままで”がよぎりました。これが走馬灯か、と彼のどこか冷静な部分が思いました。
しばし走馬灯を見やっていたら、ふと男は、“いままで”として思い出された“あれ”の続きが気になりだしました。
誰もが気になる“あれ”の続きですから、この男だって続きが気になって当然です。
男はそのことを考えないように努めましたが、気にしないようにすればするほど、気になる気持ちは強くなってゆきます。
男は考えました。どうせ終わるのなら、“あれ”の続きを知ってからでも結果は同じではないかと。終わりを少し先延ばしにしても、結果は同じではないかと。
そして彼は、ひとつの結論を出しました。
身をよじって、もがいて、男はドアのノブからベルトを外しました。圧迫から首を解放しました。
深呼吸をし、頭の活動を再開させます。
――“あれ”の続きを知るために。