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小話:其の八拾八《こじらせ(仮題)》

【たまにはそれも――】

《こじらせ(仮題)》


 とある時代の、とある国の、とある町の、とある商店街の魚屋の前で、

「うおおおおおおおおっ! ぐっ、くっ――」

 ひとりのご老体が、苦しそうに左腕をおさえながらもだえていました。

 ――だというのに。

 道行くヒトも、魚屋の店主もお客も、助けようとする気配が一切ありません。昼食の買い物に訪れているヒトがあるので、ヒトが少ないというわけでもありません。

 ヒトとヒトとの繋がりが希薄な悲しい世知辛い世の中――というわけでは、けれどなく。

 このじいさま、

「わ、わしから、離れるんだっ」

 ご町内で、とても有名なのです。

「封印されし六百六十六番目の呪われた力がっ――」

 齢七十にして思春期が特有のある病をこじらせている、と。

「も、もう抑えられな痛っ」

「まったく、もう。バカをやっていないで」

 魚屋での買い物を終えたおばあさんが、呪われた力と苦闘しているじいさまの頭をひっぱたきました。

「はい、荷物。帰りますよ」

 買ったばかりのそれをじいさまの左手に押し付けるように持たせ、なにごともなかったかのようなすまし顔をして、家路への歩みを進み始めてから、

「今日はいいのが入ったと言うので――」

 と、じいさまが好きな魚の名前を述べます。

「おおうっ! でかしたぞ魚屋っ!」

 いままでの苦闘はどこえやら。じいさまは喜色満面、魚屋の店主に向かってお褒めの言葉を投げました。忙しなく、おばあさんの背を追います。

 魚屋の店主は微苦笑を浮かべて、「どうも」と応じました。


 昼食も終わり――

 じいさまは好物を食べたあとの余韻に浸りながら、縁側に置いたロッキングチェアに腰を落ち着けて日向ぼっこしていました。――が、いつの間にか寝息をたてています。

「若くないんだから、こんなところで寝たら、風邪をこじらせて永眠することになっちゃうわよ」

 じいさまの肩を軽く揺すって、おばあさんは言いました。

「これはヤツらの……罠か…………」

 夢の世界でなにをやらかしているのか、そんな寝言を漏らして、しかし起きる気配はありません。

「……まったく」

 おばあさんはあきれたふうに呟いてから、毛布を取りに行きます。

 ――そして。

 持ってきた毛布をじいさまにかけるとき、

 久しぶりにその顔を間近で見たおばあさんは、

 ふと気まぐれ的に乙女心をこじらせて、

 眠れるじいさまのほっぺに――

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