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小話:其の八《意味の価値(仮題)》
《意味の価値(仮題)》
ふたりの男が、これから食べる昼食について話し合いながら道を歩いていました。
「オレは今日、ガツンと胃にくる重いヤツを食べたい気分だ」
「……そうか。ボクは、胃にやさしいモノが食べたい気分だ」
「そうか。しかしオレは――。おっと……」
「ん? どうした」
「靴ひもがほどけた」
「そうか」
「結び直すから、ちょっと待ってくれ」
「わかった。…………なあ」
「なんだ?」
「ヒトの一生の内で、靴ひもを結び直す時間ほど“無意味/無価値”なモノはないと思わないか」
「……まあ、否定はしない。…………けどな」
「けど?」
「おかげで100円を拾った。ほら」
「……そうか。で、昼食だけど――」