小話:其の七拾九《ここに存在していたのです(仮題)》
【ヒトは疑問の答えを知りたがる】
《ここに存在していたのです(仮題)》
とある時代の、とある国の、とある場所に、複数の人影がありました。円卓を囲むように座しています。
「これは……その、なにか“この形状”に意味があるのですか?」
影のひとりが、遠慮がちに訊きました。その眼差しは、円卓の上に向けられています。
円卓の上には、“なにか”の設計図と思しきモノが置かれてありました。
「見てくれに意味など、ないっ!」
ひとりの影が、断言する口調で言いました。
「……では、……あの」
影のひとりは、おずおずと手を挙げて、
「意味のないモノに、この莫大な費用を投じるということでしょうか?」
相手に畏れを懐いているヒトの口調で、しかし最後の一線、退くことなく指摘します。
「……その、違うところに“莫大な費用”を投じるべきではないかと思うのですが」
「“意味がない”ことに意味があるのだ」
畏れを懐かれているひとりの影は、
「より具体的に言うなら、“いまの我々にとって意味がない”ことにな」
これからを見据えているヒトの揺るぎない姿勢で、そう述べました。
* * *
とある時代の、とある場所に、複数の人影がありました。揃って、同じほうを見やっています。
複数の人影の眼差しの先には、“あるモノ”がありました。
「じつに形容し難い……“アレ”は、いったいなんなのでしょう?」
影のひとりが、ポソリと疑問をこぼしました。眼差しの先には、かろうじて建築物であろうと推察できる“あるモノ”があります。
「なにか儀式を執りおこなう神殿とも推測できますが……いえ、それを知るために私たちはここにいるのですから、憶測で論を広げるまえに、調べましょう」
と言って、影のひとりは、プレゼントを目前にした子どものごとき輝きある瞳を“あるモノ”に向けました。
「そうですね」
影のひとりは首肯して同意を示し、真摯な眼差しで“あるモノ”を見やりながら述べます。
「なぜ“彼ら”の“国/文化/文明”が滅んだのか――。それを知り、そこから学ぶことで、いまの私たちが抱える困難を解決できるかもしれない。少なくとも確実に、ヒントはそこにあるはずですから――」
とある時代の、とある場所――かつて国が栄えていた、いまは意味不明の遺跡群がそびえる場所に、過去を知り、過去から学ぶために集まったヒトたちの姿がありました。
* * *
とある時代の、とある国の、とある場所で、
「“いまの我々にとって意味がない”このことは、未来に対する叫びなのだ」
国の運営の最高責任者たる人物が、一切の疑念を持っていないヒト特有の妙な説得力がある言葉遣いで述べました。
「未来の者たちに、我々が確かにここに存在していたと知ってもらうための――」




