小話:其の七拾八《浦島太郎は鏡をのぞいて真を知る(仮題)》
【ヒトのふり見てなんとやら】
《浦島太郎は鏡をのぞいて真を知る(仮題)》
とある時代の、とある国の、とある街の、とある駅まで続く道を、ふたりの男が喋りながら歩いていました。
「――てさ」
ひとりの男が、多機能携帯端末を操作しながら言いました。
「へぇー、そうなんだー」
もうひとりの男は、そう応じつつ、ふと聞こえたジェットエンジンの音に空を見上げて飛行機の影を目で追います。
「それでさ――あっ」
手元の端末から目を上げて隣に話しかけようとした男が、
「クソ、腹立たしい」
突然、悪態を吐きました。
「ん? どした?」
空の機影が“なにであるか”を脳内検索していた男は、不意と隣から聞こえてきた“それ”に、空から隣へ視線を移して訊きました。
「ほら、あれ、“パクリの国”のヤツらだ」
悪態を吐いた男が顎で示した先には、“こちらの住人”ではないとわかる異文化を身にまとった複数の人物の姿がありました。
「“世界共通の規定”を守らずに、“こちらの国”の“優れたモノ”を“マネ/コピー”した挙句、悪びれも恥じらいもせず“これ”は“わたくしのオリジナル”と言い張る――まさに盗人猛々しいヤツら。よくも陽の下を歩けるものだ」
「まあ、キミの気持ちは理解できるけどさ」
「けど? お前はヤツらの肩を持つのか?」
「いや、それはない」
「じゃあっ」
「“猿真似を一歩に、アイデンティティーへ至る”――。ワガママな子どもの成長を見守る母親の境地で接しよう、というだけさ。“彼らの国”はまだ幼いのだから」
「んー」
「まあ、それはそれとして。さっき、なにか言いかけていたけれど?」
「ん、ああ」
ひとりの男は思い出したように多機能携帯端末を操作して、言います。
「昨日、“動画投稿共有サイト”で“いい音楽”を“発見”したんだよ。ちょっとまえに発売されたやつらしい。アップロードした“どこかの誰か”には感謝だな。あまりに“いい音楽”だったから即行でダウンロードして――いま聞かせてやるよ」