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小話:其の七拾《自称善玉菌(仮題)》

【“あなた”のために――】

《自称善玉菌(仮題)》


 とある時代の、とある国の、とある町の郊外に、時の流れを感じさせる小さい雑貨店がありました。初老の独身男が個人で経営する雑貨店で、朝は出勤の“おとも”に新聞を買うスーツ姿のヒトを、昼はただ喋りたいだけの近所の顔馴染みを、夕方は学業を終えてから週刊マンガ誌やお菓子を求めてやってくる近所の子どもたちを、夜は酒やその肴を求めてやってくる近所の酒飲み連中を、それぞれ相手に商売をして、そこそこ安定的に売り上げています。

 雑貨店は、経営主である初老の独身男の自宅を兼ねていました。誇張しても大きいとは言えない店舗兼自宅です。誰かが入店すればすぐに気がつけるので、客があまり来ない時間帯はリビングでお茶を飲んだりしながら過ごすこともしばしばありました。

 その日も、リビングでお茶を飲んだりする間をはさむ、いつもと比べて変化のない一日を経て、雑貨店は営業時間を終了しました。いま、時計の針は、午後の十時を六分ほど過ぎたところを指しています。

 経営主の初老の独身男は、店舗の戸締りを確認してから消灯し、今日も一日終わったという達成感のような解放感を味わいつつリビングへ移動――のまえにキッチンへ寄り道し、あらかじめ冷蔵庫で冷やしておいた“輸送の途中で凹んでしまい売り物にならない缶入りの酒”を取り出して手に持ち、改めてリビングへ移動。そしてリビングにあるソファーに腰掛けつつ缶入り酒の口を開け、よく冷えた発泡酒を喉の奥に流し込みます。グビグビと満足するまで流しこんでから、「ぷはー」と一息つくついでにテレビのリモコンを操作してテレビを点けます。画面の中では、人気急上昇中の若手芸人が持ちネタを披露していました。面白いかどうかはべつにして、お酒はすすみます。


 はっ、として尿意に気がついたとき、テレビ画面の中に人気急上昇中の若手芸人の姿はなく、代わりに最近とんと見ないなぁという懐かしさすら覚える顔の芸人が懐かしいネタを混じえて聞いたことのないメーカー製の商品を紹介していました。初老の独身男は、胡散臭く映る深夜の通販番組を流し見ながら、頭の片隅で飲みながら寝てしまったかぁと思いつつ、事故を起こすまえに己が膀胱の訴えに従ってトイレへ向かいます。

 トイレでの用事を済ませて、けれど眠気は飲んだ酒と一緒に便器の向こう側に流れてゆかず。初老の独身男はあくびを噛み殺しつつ、とりあえず寝るまえにつけっ放しのテレビを消そうとリビングへ――向かおうと一歩を踏み出したと同時に、なにか物体が床に落下したときのような音がしました。薄っすらと漏れ聞こえてくるテレビの音とは異なる、機械的ではない生のそれ独特の気配をともなった音で、どうやら店舗のほうから聞こえてきたようでした。

 初老の独身男はその音に関する心当たりを考えて、胸の内では大きく、口の内では小さく舌打ちをしました。最近、近所で古いビルの建て替え工事をやっているから、そこに居住していたネズミが望まれぬ引越しを断行してくれおったか、と。

 苛立ちを覚えつつ、確認のために店舗を見にゆきます。

 そして店舗の照明を点灯すると――

 果たしてそこには、巨大なネズミの姿がありました。

 理解が状況に追い付かず、初老の独身男は一度、目をつぶって深呼吸をしてから、改めてそこを見やります。

 黒いスーツで身を包み、黒が主色のデフォルメされたネズミの被り物を頭にした人物が、レジのところに立っていました。

 のっそりとした動作で、「ハハッ」という笑い声が聞こえてきそうな笑顔で固定されたネズミの顔が、レジのほうから呆けて立つ初老の独身男のほうに向きます。

「どうも、こんにちは」

 落ち着いた渋みある男の音声で、ネズミが言いました。

 初老の独身男は反射的に“こんにちは”と返しそうになりましたが、どうにかそれを喉の奥に押し戻して、「警察を呼ぶから“おかしなマネ”はしないでじっとしていろ」と告げました。

 対してネズミは、

「おやおや、警察とはまた穏やかじゃありませんね」

 不気味なほどの平静で応じました。

 お前が言うな、と初老の独身男が指摘しようとすると、

「あ、ああ、安心してください」

 ネズミは察したふうな態度でそれをさえぎって、黒いスーツの内に手を突っ込み――

 初老の独身男は“凶器のようなモノ”が出てくるのではと身構えます。

 ――取り出されたのは、スーツの内から出現しても一切の違和感ないアルミ製の名刺ケースでした。

 ネズミは“大人の挨拶”の動作で名刺を一枚、差し出します。

 初老の独身男は警戒しつつもそれを受け取り、

「……………………“善良な”……強盗?」

 氏名の脇に記載されている肩書き――で、あろうそれに、思わず眉をしかめました。強盗という言葉のまえに、“善良な”という言葉が付いている不自然さを、正常な認識能力がよしとしないのです。

「ええ、そうです。“善良な”強盗です」

 ネズミは紳士が一礼するような芝居がかった動きで自身の胸もとに右手をそえて、

「強盗は強盗ですが、あなたから“一方的に”奪うなどという野蛮なことはいたしません」

 通販番組のプレゼンターを思わせる断言口調で述べます。

「…………は?」

 困惑を通り越して意味がわかりません。初老の独身男の反応は、じつに素直でした。

 ネズミは“それ”も想定の範囲内といった平然さで、発言を続けます。

「いま私がこうしてあなたと対面していられるのは“なぜか”、おわかりになりますか?」

「お前が不法侵入してきたからだろう」

 初老の独身男の即答に、ネズミは、

「そうです、その通りですっ」

 クイズ・ショーで問題に正解した解答者に賛辞を贈る司会者のような軽さで応じてから、

「つまり“こちら”には――」

 相手の関心を最大限、引き寄せようとする、充分が過ぎてもはや腹立たしい溜めを間に置いてから、

「こうして私が侵入できてしまうセキュリティーの脆弱性が、あるわけです」

 まくし立てるふうに、セリフを一気に吐き出します。

「だから?」

 初老の独身男は極めて純粋な言葉を、端的に返しました。だからどうした、と。

 そして思わず、こんな状況だというのに、彼は頭の片隅でくくっと笑ってしまいました。この小さい雑貨店に“セキュリティー”なんて小洒落た言葉、ずいぶん不似合いだな、と。ネズミの力のこもった言い回しとあいまって、じつにおかしいです。

「お互いに“うまみ”のある取り引きをしましょう――と、そういうわけです」

 商談でプレゼンをするビジネスマンのように、固定された笑い顔の奥で“欲”をギラつかせながら、ネズミは述べました。

「強盗に入られてまさか“うまみ”が発生するとは、想像もしなかったよ」

 初老の独身男は想像力の斜め上をゆくネズミの発言に、文字通り“好奇心”を懐き、

「それで」

 ギャンブルに片足を突っ込んでしまうヒトの危うさで、しかし訊いてしまいます。

「その“うまみ”というのは?」

「それはですね――」

 と答えるネズミの顔は、声を上げて笑っているようでした。

 そんなネズミ、いわく。初老の独身男にある“うまみ”というのは、この小さい雑貨店のセキュリティー強化とのこと。強盗として侵入してきた自分は、この雑貨店の弱点を正しく認識しており、強盗として“強盗の攻め方”をも熟知しているから、それに対する“的確な守り方”を助言することができる、と。

「なるほど」

 初老の独身男は流すように自分の“うまみ”について受け取ってから、

「――で?」

 気さくなふうを装って、問います。

「そんなふうに手の内を明かして得られるお前の“うまみ”は?」

「あなたが支払ってくれる助言に対する“正当な”報酬――清潔なお金です」

 ネズミは“お金でまわる社会”を生きるヒトの礼儀正しい率直さで、さっぱりと答えました。

「助言してやるから顧問料を支払えって?」

 ズパリ言う初老の独身男に、

「“商品/サービス”に対する“正当な”報酬――“正当な”対価ですから」

 ネズミは最初から一切の変化ない「ハハッ」笑いの顔で、そう応じました。オウム返しのおもちゃを相手にしているかのごとく、これ以外の返答が聞ける“気配”は感ぜられません。

「なるほど」

 初老の独身男は真剣に思案するヒトの顔をして、

「ちなみにその“正当な”報酬とやらを数字で表すと、どれくらいなんだ?」

 と、まるでネズミの述べたことに関心があるかのようです。

 ネズミはスーツの内から電卓を取り出すと、なにかぶつぶつ呟きながら数字を入力し、足したり引いたりをおこなってから、

「“今回は”これくらいになります」

 言って、結果の打ち出された電卓を提示します。

 そこには、強盗が“正当な”と主張して要求してくるには図々しい数字が並んでありました。

 初老の独身男は吟味するふうにその数字を眺めてから、

「ちょっと真面目に検討したいから――」

 と口を開きます。親指と小指を立てた手を耳に当てて。

「一本、電話をしていいか?」

「ちなみに“どちら”に?」

「この店の共同経営者に」

「こちらは個人経営のお店だったかと、記憶しておりますが?」

 ネズミは居合い斬りを放つような鋭さで、指摘します。

「え、ああ」

 初老の独身男はネズミが目と鼻の先に迫ってくる姿を幻視してしまい、一瞬たじろいでしまいました。二度、三度とまばたきをして、ネズミが一切その場から動いていないのを確信してから、

「確かに個人経営だが、個人経営であるからこそ、友人に金銭的援助をお願いしたりもしるわけさ――わかるだろう?」

 察してくれ、と困ったふうに寄せた眉根で語ります。

「お店の運営に関わることはそのご友人に相談してから決めたい、と」

 ネズミは確認するように訊きました。

「そうだ」

「なるほど、わかりました」

「それは、電話をしていいと受け取っても?」

 初老の独身男の言葉に、ネズミは、

「ええ、かまいません」

 それが“正当な”報酬を正しく頂戴するための“正当な”対応である、と述べるように、言葉を返しました。

「じゃあ」

 初老の独身男は、電話をするために奥に引っ込みます。

 しばしの間を置いてから戻ってきた初老の独身男は、

「じかに会って説明を聞きたいから、こっちに来る――だとさ」

 と、電話相談の結果をネズミに報告しました。

 それからさらにしばしの間を置いてから、店舗の出入口ではなく自宅の玄関のほうで呼び鈴が鳴りました。

 初老の独身男は「友人が到着したらしい」とネズミに断ってから、自宅の玄関のほうへ。

 そして待たされるカタチのネズミのところへ、ふたりの人影がやってきました。しかし、そのふたりの中に、初老の独身男の姿はありません。

「おやおやこれはまた物騒な」

 ネズミは自らに抵抗の意思がないことを表すために両の手を上げて、ポソリと漏らしました。

 拳銃を構えたふたりの警察官の姿が、そこにはありました。

 ネズミは速やかに逮捕されました。


 翌日の朝の新聞に、ネズミの逮捕に関する記事が極々小さく書かれてありました。“善良な”強盗が逮捕された、と。その内容は、ネズミが成人そこそこの若者であったことから始まり、ネズミの犯したことはまったく肯定できるモノではないが、しかし将来有望で優秀な“セキュリティー・アナリスト/セキュリティー・コンサルタント”たりうる若い人材がこれで失われてしまった、という、どこかネズミを擁護するような気配のあるモノでした。

 初老の独身男は、“新聞社/新聞記者”の仕事の速さに感心を懐きつつ、どうにも釈然としないモノを覚えました。けれど、気にしないことにしました。もう過ぎたことだ、と。

 気持ちを新たに今日という一日を過ごそう、という想いを懐いて、レジ・カウンターのところに置いてある椅子に腰を下ろした――とたん、

「おいおいおいおい雑貨屋ぁー!」

 やかましい酒焼けした声が、朝の清々しい空気をだいなしにして入店してきました。

「雑貨屋じゃない、雑貨店だ。酔っ払い」

 初老の独身男は訂正しつつ、

「なんだ? 今日は朝から酒か?」

 付き合いの長い常連な中年男に、馴染みの特権たる軽い口調で訊く言葉を投げました。いつもは夜に見る顔を朝から見やるというのは、どうにも不思議なもので。いつもと異なる理由が知りたくあるのです。

「違げぇよっ! 酒なんぞ飲んでる場合じゃねえから、こうしてここに来てるんだろうがよ! 察しろよ雑貨屋っ」

「雑貨屋じゃない、雑貨店だ。酔っ払い」

 初老の独身男は再び訂正しつつ、

「――で?」

 と訊きます。

「酔っ払いが酒を飲んでいる場合じゃないって、なんだ? ついに内臓が壊れたか?」

「違げぇよっ! 仮にそうだったとしても、なんで俺の内臓事情を雑貨屋に報告しなくちゃならなねぇんだよっ! しかもこんな朝っぱらからっ!」

 という常連な中年男の言葉に、

「さあ」

 初老の独身男は軽く肩をすくめて、興味なさそうに返します。

「こっのヤロウ……」

 常連な中年男はしかしグッと堪えて、ポケットから多機能携帯端末を取り出してそれを操作し、ある画面を表示させて、

「機械音痴の雑貨屋に教えてやるために、わざわざ来たんだよっ!」

 と、初老の独身男に見せます。

 多機能携帯端末の画面には、ネット上で自らの発言を制限内の文字数で書き記すツールのサービスを利用している“どこかの誰か”の発言が表示されてありました。

 我らの“善良な”同志たる優秀な若い人材からの魅力的な提案を蹴り、我らの“善良な”同志たる優秀な若い人材から“これから”の選択を奪った愚かな雑貨屋に、我ら“善良な”同志は有する能力を惜しみなく発揮して“わからせる”ことを、ここに宣言する。

 その文面を読んで、初老の独身男は、

「……で?」

 泥酔した友人に辛抱強く付き合うヒトの表情をして、言葉を投げます。

「だからなんなんだ、酔っ払い」

「で、じゃねぇよっ! 昨日の今日だぞっ? 明らかに雑貨屋のことだろう、これ!」

 常連の中年男はケンカを吹っかけるような勢いで肉薄し、語気を強めて指摘しました。

「確かに間違いなく雑貨屋のことを言っているんだろう、――が、うちは雑貨屋じゃない、雑貨店だ」

 初老の独身男は再々訂正して、

「まったく、どこかの雑貨屋はお気の毒なことだな。同じく雑貨を扱う者として、そのどこかの雑貨屋にはお見舞い申し上げるよ」

 他者に対する同情の色が浮かぶ顔で、そんなことを述べます。

「こっのっ、頭の固い老人めっ」

 常連の中年男は額に薄っすら血管を浮かべ、奥歯を噛み締めてから、

「もう知らんっ」

 唾を飛散させてそう宣言し、バンッとレジ・カウンターの上に勢いよく拳を叩きつけ、

「いつものっ!」

 と、常連の特権たる要求をします。叩きつけられた拳が開かれ、“いつもの”を得るのにピッタリな金額の硬貨がレジ・カウンターの上に控えめに落とされました。

「朝から酒かよ、酔っ払い」

 初老の独身男からのそんな苦言を、しかし常連の中年男は「ふんっ」と鼻を鳴らして受け流します。それから常連の中年男はレジ・カウンターから離れて冷蔵陳列棚の前まで移動し、一切の迷いない挙動で冷蔵陳列棚の扉を開き、ハーフサイズのビン・ビールを取り出します。そして小慣れたかんじで奥歯を栓抜きのように使ってビン・ビールの口を開け、そのままグビッと一口、喉の奥に流し込みます。

 店の中で飲むな、と初老の独身男が注意することはけれどなく。夜はだいたいちょっとした立ち飲み屋のようになるので、いまさら気にならないのです。

「まあ、仮に、酔っ払いの言う通りだったとして」

 初老の独身男はいちおう閑話休題して、

「こんな堂々と“やらかす”って宣言しているヤツらを捕まえられないほど、この国の警察は無能じゃあないだろうさ」

 さしたる真剣さもなく述べました。

「はっ」

 常連の中年男は鼻で笑って、

「この国に有能な権力があったら、禁酒してもいいぜ」

 と言い、グビッと一口、ビールの苦味とうま味と炭酸が喉の奥に流れていくのを味わいます。


 数日後、常連の中年男が禁酒を断行する理由のひとつがなくなりました。

 一夜にして、小さい雑貨店の商品すべてが消失したのです。

 初老の独身男がいつも通りの決まった時間に目を覚まし、毎朝の習慣となっている開店の準備をおこなおうと店舗に足を踏み入れたら、異常にキレイさっぱりしていたのです。販売するべき商品が、ひとつも見当たらないほどに。

 初老の独身男はすぐさま警察を呼びつけました。そしてどうにも収まらない気持ちのままに、言葉を投げつけます。「あなた方がこれほど無能だとは思わなかった! この税金泥棒めっ!」と。

 いっこうに落ち着く気配の見えない初老の独身男に、現場担当の警察官は対応しきれず。その日の内に、“そちら”の処理が専門の部署の人材が派遣されることになりました。


 カッチリとしたスーツに身を包んだ、いかにも頭脳労働担当といった風貌の男がふたり、どこか小慣れたふうな所作で、今回のことに対するお詫びなどの言葉を口にしながら、それぞれ名刺を差し出してきました。

 初老の独身男は、いちおうそれを受け取ります。

 スーツ姿の男のひとりは改めて今回のことに関する“定型文”を口にし、それから恥を告白する深刻な顔をして、「我々も完璧ではないのです」と一定の理解を求めました。

「あなた方が完璧ではないことは、今回、身を削ってよくよく知ることができた。そこには理解を示そう」

 初老の独身男は厳しく眉間にシワを刻んで、腹の底から重々しく音声を吐き出して言います。

「しかしそれで、はいわかりましたと言って、あなた方にお茶をふるまえると?」

 スーツ姿の男のふたりはかしこまった顔をして粛々と、初老の独身男の言葉を受けます。そして絶妙な一拍の間を置いたところで、

「こちらと致しましても――」

 と述べます。

 今回のことは重く受け止め、犯人を逮捕することに全力を尽くす所存です、と。

 それから「しかし」と言葉を継ぎ、

「しかし現状、犯人はいまだ捕まっておりません。で、ありますので、再び“こちら”が狙われる可能性がありまして。“こちら”が営業を再開する際の安全、警備に関しまして、お話をさせていただきたく――」

 そこで瞬と相手の顔色をうかがい、話を先に進めて大丈夫そうだと判断し、述べます。

「今回は外部から“今回のこと”に関して優秀な能力を発揮する“セキュリティー・アナリスト/セキュリティー・コンサルタント”を呼び、参加していただき、より万全な警備プランを提示させていただく所存です。ちょうど先日、とても優秀な人材と“契約/取り引き”を交わしたところなのです」

 初老の独身男はあまり期待していないヒトの目でふたりを見やりながら、口を開きます。

「その外部から呼ぶのは、いったいどんなヒトなんですかね?」

「はい、ええ、じつは同行しておりまして。いま呼んできます」

 そう言ってスーツ姿の男のひとりが席を外し、

「呼んできました」

 すぐに戻って来ました。かたわらに、新たな人影をともなって。

 初老の独身男は吟味するヒトの目を、そちらに向けました。

 そこには、固定された笑い顔がありました。


「ハハッ」



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