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小話:其の七《愛国者の喜劇(仮題)》

表現の不自由とその結果――


《愛国者の喜劇(仮題)》


 彼は“喜劇の王様”と称されていました。

 世の出来事をチクリと風刺して描きながらもながらも、しかし観たあとには“笑い”の残る。それが彼の“演劇/映画”でした。

 人々が懐きながらも、外に発することのできない思い。それらの“怒り”を代弁するがごとくユーモアをもって表現された彼の作品は、人々に称賛絶賛され親しまれ楽しまれていました。


 彼は自分が生まれ育った国を、心から愛していました。

 そしてだからこそ彼は、時に“祖国/政治/主義/思想”を批判的に描いた作品を発表しました。


 ――あるとき。

 彼を訪ねて、国から使者がやって来ました。

 彼は愛国者であることを“自称/自負”していましたから、発表した作品は“祖国の為に/人々の為に”と考えていました。なので今回、国から使者が訪ねて来たことに喜びを感じていました。自らの活動が、少しは祖国に認めてもらえた、と。

 嬉々とした気持ちを押し殺して彼は、国からの使者を迎えました。

 さっそく話を始めようとする国からの使者を制止して彼は、祖国に対する敬意を払って最高の“おもてなし”をしました。

 絶妙な温度で淹れた、とっておきのお茶を出しました。

 甘すぎない、パサパサしていない、とっておきのシフォンケーキを出しました。


 国からの使者は顔をしかめて、それらにはいっさい口を付けませんでした。


 祖国から今後の活力になる言葉を贈ってもらいえる。彼はそう考えていました。

 想像するだけで、その光栄さに心拍数が上昇します。けれどニヤけた顔で“言葉”を頂戴するわけにはいかないので、彼は一呼吸置いてからぐっと表情を引き締め、心してから、改めて国からの使者に訪問の理由を訊ねました。

 そして彼は――


 反社会的と糾弾され、祖国を追われました。



 ――という自身の半生を、彼は作品として発表しました。

 祖国の表現に対する圧力を、たっぷりのユーモアとちょっぴりの皮肉と隠し味の怒りを込めて描きました。

 作品は亡命先の国で高く評価され、彼はその国で最高の“名誉/栄誉”ある芸術文化の勲章を授与されました。


 人々は彼のことを敬愛の思いを込めて称します。

 彼こそが“真の愛国者/真の表現者/喜劇の王様”だと。

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