小話:其の六拾五《おはようございました(仮題)》
【甘い飴だけでは味覚は洗練されない】
《おはようございました(仮題)》
とある時代の、とある国の、とある町の、とある家に、朝がとてつもなく苦手な親とその子どもがいました。親は夕方から深夜までの仕事をしており、朝は疲れで夢の中なのです。子どもは、ただ単によく寝すぎなだけでした。
この国は義務教育という制度があるので、子どもは学び舎へ行かねばなりません。しかし親子そろって朝がとてつもなく苦手でしたから、結果的に子どもは遅刻の常習者になってしまいました。
それをよろしくないと思った学び舎の担任教師は、その子の親にどうにかならないかと告げました。親は深刻な顔をして、なにか思案するようにしばしの時を消費し、そして、
「わかりました」
と、ひらめいた子どもの遅刻の解決策を担任教師に示しました。
担任教師は当惑しましたが、最終的には担任教師自身のためにその解決策を実行することにしました。
――後日。早朝。
朝がとてつもなく苦手な子どもの寝ている枕の頭上、無意識によって止められた目覚まし時計の横で、電話機が呼び出し音を鳴らしていました。数回、子どもは目覚まし時計を止めるようにして手を伸ばし、さらに数回それをおこなってから、いっこうに鳴り止まないそれに嫌気がさして、薄目を開けました。そして寝ぼけたまま、受話器を手に取り、
「……はい、もしもし」
と、気だるげな音声で言いました。
それに対して、
「はいっ! おはようっ! さっ、目を覚ましてくださいっ! 学校に行く時間ですよっ!」
努めて元気ハツラツとした音声が述べました。
「ああ……、おはようございます…………」
子どもはそれでも気だるそうに応じます。
「先生……」
遅刻の解決策とは、担任教師が遅刻する子どもにモーニングコールをするというモノでした。
本来はそんなことするべきではないと担任教師も承知していましたが、あまりに遅刻の多い生徒があり、改善が見られないと、学び舎での担任教師自身の評価にも関わり、それは生活にも関わることなので、いたしかたなくそうすることにしたのです。
――そんなこんなで。
時は消費されてゆき。
子どもも成長して、大人と呼ばれるようになり、ある会社に就職しました。朝にとても弱いことを除けば、優秀な成績を有していたので、多数の会社から求められるほどあっさりと職につくことができました。
――しかし。
出社というものをするようになってから数十日後、大人と呼ばれるようになったかつての子どもは、上司に呼び出されました。
呼び出した上司は、とても不機嫌でした。そしてその感情を多分に反映した音声で言います。
「お前はどうして遅刻が多いんだ!」
大人と呼ばれるようになったかつての子どもは、上司の感情を読み解くことなく、まったく反省の色のない態度で応じました。
「だって、モーニングコールしてくれないじゃないですか」




