小話:其の六拾参《アイゆえに(仮題)》
【周りなんか知ったこっちゃないもん♪】
《アイゆえに(仮題)》
その“彼ら”のための“愛情/正義”は、
しかし“彼ら”以外のための“愛情/正義”ではない。
その“彼ら”に優しい“愛情/正義”は、
しかし“彼ら”以外には優しくない。
* * *
とある時代の、とある国の、とある街の、とあるオフィスビルの一室に、複数のヒトの影がありました。それぞれ“ある一点”を注視し、とても悲痛な表情をしています。
その“ある一点”には、古いブラウン管のテレビがありました。テープ式のビデオデッキと接続されてあります。テレビの画面には、“あるビデオ”の映像が再生されていました。
その“あるビデオ”には“ある食材”を食材たらしてめいる工程が包み隠さず記録されてあり、複数のヒトの影はその記録映像を視聴して悲痛な表情を浮かべているのです。
その“ある食材”とは、この国では古くから食されている“ある動物”のお肉のことです。――ですから、“ある食材”を食材たらしめる工程とは、その“ある動物”をシメてさばくという血生臭さあるモノでした。
そのシメられてさばかれている“ある動物”とは、他の国に限らずこの国でも“愛玩用”としての人気を獲得している動物でした。
「……どうして」
複数のヒトの影の中のひとりが、嗚咽を堪えるようにしながら口を開きました。
「どうして、“彼ら”を食べるんです。かつての食糧難の時代ならまだしも、いまは飽食の時代ですよ。“彼ら”を殺してまで食べる必要が、どこにあるんです」
複数のヒトの影の中のひとりが、部屋にある冷蔵庫から“あるモノ”を持ち出してきました。そしてその“あるモノ”を裁判における揺るぎない証拠品のように示し、述べます。
「そんなに肉が食べたいのなら、“彼ら”以外の肉を食べたらいいんですよ。いまの世の中、どこでだって簡単に買えるんですから――」
そう述べる、そのヒトの、その手には、加工されて“もう動物の形をしていない”大量生産の家畜の肉のパック詰めの特売品がありました。