小話:其の五拾八《いちりゅう(仮題)》
【“――に帰属”と“――になる”は違う】
《いちりゅう(仮題)》
とある時代の、とある国の、とあるホテルの会場で、とある高校の同窓会が開かれていました。適度に設置されたテーブルの上には、高級で上品な大人の料理やビールやワインといった酒類が惜しみなく並べられてあります。
同窓会に参加しているかつての高校生たちは、それぞれお酒や料理を片手に、それぞれ積もる話に花を咲かせています。雰囲気が変わったとか変わっていないとか、結婚したとか子どもができたとか、太ったとかやせたとか、とかとかとか――
会場の隅っこのほうに、そこそこのスーツを着て、そこそこ整った身なりをしている、ひとりの男の姿がありました。誰と会話するでもなく、料理を味わいお酒をたしなんでいます。
そんな男に、
「おお、久しぶり」
と声がかかりました。
「ん? ああ、久しぶり」
そこそこな男が視線をやった先には、一流のスーツを着て、一流の身だしなみをしている男の姿がありました。
「最近どうよ?」
一流な男が言いました。――が、そこそこな男がそれに対してなにか言うまえに、一流な男が話し始めます。
一流の大学に進んだこと、一流の企業に就職したこと、そこで重要な案件を任されていること、そのことの責任の重さに関する苦悩のこと、などなど――
どこか誇らしげに一流な男は話し、それから気がついたように、
「そういえばお前」
と、理解あるヒトの顔を装って、
「進学しなかったんだっけ?」
あえてそのことを口にします。
「ん、ああ、まあ、そうだよ」
そこそこな男はビールを一口、飲んでから、応じました。
「……そうか」
一流な男は言っておいて気まずそうな表情を作り、
「いま、なにやってるんだ?」
チャリティー活動する余裕ある人物の顔をして、そう言います。困ってるなら助力するぞ、と。
そこそこな男は、料理を咀嚼して胃に流し込んでから述べます。
「まあ、いろいろあったけど、やりたいことやるために会社を作ってね。順風満帆とはいかなかったけれど、いまはそこそこゴハン食べられるくらいにはやれてるよ」
「へぇ、そうなのか」
「うん。――あ、そうだ。お前の大学の後輩たちさ、さすが一流の大学を出てるだけあって、みんな優秀でさ、すごく助かってるんだ。本当、雇って正解だったよ」