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小話:其の五拾四《信頼の証(仮題)》

【“空論”と“信頼”は――】

《信頼の証(仮題)》


 とある時代の、とある国の、とある町の、河原に面した喫茶店のテラス席に、ふたりの男の姿がありました。

「なあ」

 ひとりの男が言いました。

「なんだ?」

 もうひとりの男が応じました。

「いまオレたちが暮らしているこの国は、銃火器の所持携行が法律で原則禁止されているよな?」

「そうだな。おかげで、どっかの国みたいに銃火器を使用した犯罪もほとんどない。まあ、銃火器を所持携行することは国民が有する権利だっていうどっかの国の銃火器に関する団体からは、警察権力が変態的に強力なオカシナ国って言われてるらしいけど」

「でもさ、犯罪がないわけじゃあないよな」

「そうだな。銃火器を使用した犯罪はほとんどないけれど、刃物を使用したりした犯罪は、ままあるよな」

「そこで、だ。オレはひらめいたわけだよ」

「……なにを?」

「最強の防犯を、さ」

「ほう。どんな?」

「ふふふふっ。教えてやるから、いまからオレの家に来い」

「じゃあ、行かせてもらおうかな。――この紅茶を味わい終わったらな」


          *  *  *


 とある時代の、とある国の、とある町の、とある住宅地の、とある一軒家の前に、さきほどまで喫茶店のテラス席にあったふたりの男の姿がありました。

「――で、最強の防犯て?」

 教えてやるからとお呼ばれした男が、訊きました。

「これだよ、これ!」

 教えてやると言った男は、家の扉の横に貼られたシールを指差します。

「……んん? “包丁あります”? 刃物屋にでもなったのか?」

 お呼ばれした男は、難問にぶつかったヒトのように眉根を寄せて言いました。

「なんでオレが刃物屋になるんだよっ! これが、この“包丁あります”が最強の防犯なんだよ」

「…………なぜ? どうして“それ”が最強の防犯なんだ?」

「もうっ、バカん!」

 最強の防犯をひらめいた男は、するっと理解してくれぬ相手の鈍さに足踏みをして、けれどキチンと述べます。

「誰だって、“奪う”のはまだいいけど、“奪われる”のは絶対にイヤだろう? オレはそこに着目したってわけだよ」

「それがこの“包丁あります”のシールだと?」

「あなたが私から“奪う”なら、私もあなたから“奪います”よ、って告知さ。誰だって自分のモノを奪われたくないから、自分のモノも奪われるとわかって奪いに来たりしないだろう?」

「やり返されるのが怖いから、やらない。――ってこと?」

「そう。そうだよ。やっとわかってくれたか、このオレの素晴らしきひらめきを!」

「ん、んん……。まあ、言いたいことはわかったけど……」

「けど? なんだよ、なんか物申したそうだな」

「お前の言ってることは、まあ、わかったけどさ」

「なんだよ?」

「それって、奪いに来る相手が、最後の一線、自分と同じ“怖れを知っている人間”だってことを“信頼しているから成り立つ考え”だよね」


          *  *  *


 相互の“相手に対する信頼”なくして、

 相互確証“望まぬ事態”の抑止論は成り立たない。



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