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小話:其の四拾参《背負うべきモノ(仮題)》

【重くても投げ出してはならないモノ】

《背負うべきモノ(仮題)》


 とある時代の、とある街の、とある学校の、とある教室に、複数の子どもの姿がありました。いまは休み時間で、好き勝手に遊ぶ姿もあれば、火事場の馬鹿力を発揮して友の宿題を複写している姿もあります。

 そんな中に、ひとりの男の子の姿がありました。ある一点を、じぃーと見つめています。その視線の先には、ひとりの女の子の姿がありました。男の子は、どうやら正確に自覚していないようですが、人生初の恋を経験中なのです。

「ん?」

 恋を経験中の男の子の友達が、男の子のおかしな様子に気づき、

「あー!」

 当の本人より早く“そのこと”を正確に把握し、

「おまえー」

 当然の洗礼として“そのこと”をちゃかします。しかも大きな声で。

 男の子が恋した女の子とその友達の耳にも、当たり前のようにその声は届きました。女の子は顔を赤くしてうつむき、女の子の友達はニヤニヤしながらこの状況を観覧しています。

「な、なななな」

 自分の置かれている状況を認識し、男の子は顔を沸騰するようにみるみる赤くし、

「ち、ちげーよ!」

 顔を真っ赤にして声を荒げました。

 あまりにも恥ずかしくて、この状況をなかったことにしたくて、男の子は自分が恋した女の子に対して酷い言葉を口から吐きました。「こんなやつ好きになるわけねぇーだろ」と。難儀なことに、どうにも素直になれない不器用なお年頃なのです。

 酷い言葉をぶつけられた女の子は、様々な要因もあいまって泣き出してしまいました。

 それを見た女の子の友達が、女の子のことをよく知っているがゆえに怒りました。

 そしてこの状況をよく理解していないクラスメイトの誰かが、

「いーけないんだーいけないんだー“せぇーんせー/先生”に言ってやろう!」

 男の子が女子を泣かせたことを批難するように言いました。

「ん? どーした?」

 そろそろ休み時間が終わるので早めに教室にやってきた教師が、なにか絶妙なタイミングで呼ばれたので、そう返しました。

 教師の側に居たクラスメイトの誰かが、とてもざっくりした状況説明をしました。それを聞いた教師は、

「そうかー」

 男の子と女の子を見やって、

「ふたりともあとで職員室な」

 そう告げ、

「じゃ、授業始めるぞー」

 休み時間が終わるチャイムが鳴るより先に、授業を開始しました。


 職員室に、男の子と女の子と教師の姿がありました。

 教師は、とりあえず当人の口から事情を聴きました。最初は断片的なハッキリしない言い回しでしたが、教師は辛抱強く聴きました。

 事情を把握した教師は、男の子に、“酷い言葉を言うのはよくないこと”と気づかせる言葉遣いで話しかけました。

 男の子は、そもそも自分でもわかっていることなので、

「ご、ごめん」

 それでも素直になりきれていませんでしたが、謝りました。

 女の子はコクリと肯いて、それを受け入れました。


 職員室から教室へ戻る途中で、

「あ、あのさ」

 男の子が明後日の方向を見やりながら、振り絞るように、

「きょ、今日さ、い一緒に帰ってやってもいいんだぜ!」

 言葉のチョイスを間違えました。

 女の子は一瞬きょとんとしてから、ちょっぴり大人びたふうに、

「今日、一緒に帰ってくれる?」

 ほんのり頬を赤くして言いました。

「え! う、うううん、うん!」

 男の子は、

「帰ってやるよ!」

 素直な満面の笑みで応じました。


          *  *  *


 とある時代の、とある街の、とある学校の、とある教室に、複数の子どもの姿がありました。いまは休み時間で、好き勝手に遊ぶ姿もあれば、火事場の馬鹿力を発揮して友の宿題を複写している姿もあります。

 そんな中に、ひとりの男の子の姿がありました。ある一点を、じぃーと見つめています。その視線の先には、ひとりの女の子の姿がありました。男の子は、どうやら正確に自覚していないようですが、人生初の恋を経験中なのです。

「ん?」

 恋を経験中の男の子の友達が、男の子のおかしな様子に気づき、

「あー!」

 当の本人より早く“そのこと”を正確に把握し、

「おまえー」

 当然の洗礼として“そのこと”をちゃかします。しかも大きな声で。

 男の子が恋した女の子とその友達の耳にも、当たり前のようにその声は届きました。女の子は顔を赤くしてうつむき、女の子の友達はニヤニヤしながらこの状況を観覧しています。

「な、なななな」

 自分の置かれている状況を認識し、男の子は顔を沸騰するようにみるみる赤くし、

「ち、ちげーよ!」

 顔を真っ赤にして声を荒げました。

 あまりにも恥ずかしくて、この状況をなかったことにしたくて、男の子は自分が恋した女の子に対して酷い言葉を口から吐きました。「こんなやつ好きになるわけねぇーだろ」と。難儀なことに、どうにも素直になれない不器用なお年頃なのです。

 酷い言葉をぶつけられた女の子は、様々な要因もあいまって泣き出してしまいました。

 それを見た女の子の友達が、女の子のことをよく知っているがゆえに怒りました。

 そしてこの状況をよく理解していないクラスメイトの誰かが、

「いーけないんだーいけないんだー“ぎょーせい/行政”に言ってやろう!」

 批難するように言いました。

「ん? どーした?」

 そろそろ休み時間が終わるので早めに教室にやってきた教師が、なにか絶妙なタイミングで呼ばれたので、そう返しました。

 教師の側に居たクラスメイトの誰かが、とてもざっくりした状況説明をしました。それを聞いた教師は、

「コラッ!」

 自分の座る椅子を確保するために、適切な指導をおこなったというカタチを作るために、頭ごなしに男の子のおこないを否定する言葉を吐きました。自分が適切な指導をおこなったと証言させるかのように、クラスメイトの眼差しがある教室で、いっさいの配慮なく言葉を吐きました。

 男の子と女の子は、公開処刑されるヒトの顔で、眼つきで、お互いと騒ぎ立てた周囲を批難するように見やりました。

 以後、男の子と女の子が会話することはいっさいありませんでした。


          *  *  *


 行政による物事への規制などの介入が、

 教育と保護者が背負うべき責務の放棄であってはならない。

 その責務は、ひとりの人間の人生の道筋に関わる“とても重いモノ”であるから。



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