小話:其の参拾五《終わらない(仮題)》
【あなたなら“どうする?”】
《終わらない(仮題)》
とある小さな国に、あなたは訪れていました。“あなたの大切なヒト”と楽しむ旅行です。
とある小さな国は、街並みがとても綺麗なことで有名でした。どこを見ても絵になるとの評判通り、どこを見ても絵になる街風景です。
あなたと“あなたの大切なヒト”は、いい思い出になると嬉し楽しそうに笑みを浮かべあいました。
ちょっと休憩しようということになりました。とある喫茶店の車の通れない大通りに面したテラス席で、あなたは“あなたの大切なヒト”とお茶を飲むことにしました。
まるで映画の一場面に出てきそうな風景だと“あなたの大切なヒト”は言って、嬉々満面はしゃいでいました。
* * *
とある小さな国は、その街並みからは想像がつかないことですが、かつて民族間の価値観の違いの問題で内戦になったことがありました。
内戦は、ひとつの民族の勝利でいちおう終わりました。勝利した側の民族の人々は戦後、負けた側の民族の人々の多くを殺しました。やっと“勝ち得た平和”を脅かす可能性を減らすために、“悲劇を繰り返さないために/平和のために”殺しました。このような過去を持つがゆえに、民族間にはいまでも相手の民族に対して強い嫌悪感が根付いています。
ひとりの子どもが、死にました。
かつて虐殺された側の民族の子どもでした。死因は、かつて虐殺した側の民族の子どもが「近寄るんじゃないっ!」と言って投げた石が頭部に当たったことでした。
あと少しでも刺激があったら爆発してしまうまでに蓄積されていたモノが、ひとりの子どもの死を起爆剤に爆ぜました。
かつて虐殺された民族の人々は、銃を手にしました。彼らはかつて虐殺した民族の人々に向けて、その銃の引き金を引きました。男も女も老人も若者も子どもも差別することなく、平等に銃弾をあびせました。
かつて虐殺した人々も黙ってはいませんでした。彼らも、銃を手にしました。
銃撃戦が始まりました。
かつて虐殺された民族の人々は、かつて虐殺した人々を殺すたびに蓄積されていたモノを吐き出すように声を上げて笑いました。
* * *
あなたと“あなたの大切なヒト”は、とても悲惨な事態に遭ってしまいました。
目の前で、ヒトがヒトを殺しています。
あなたと“あなたの大切なヒト”は、喫茶店に隠れました。身を縮めて、早く銃声が鳴り止むことを祈りました。
けれど銃声が鳴り止むことはなく、銃を手にした人々が増えました。銃撃戦が始まりました。
銃声が鳴り止む気配は、まったくありませんでした。ここに留まっていたら危険と判断したあなたと“あなたの大切なヒト”は、銃声が沈静した一瞬を合図に、逃げ出しました。
――転瞬。
あなたの目の前で、“あなたの大切なヒト”が糸の切れた人形のように力なく地に崩れ落ちました。倒れている“あなたの大切なヒト”の身の下から血が湧いてきました。それはあっという間に血だまりとなりました。
笑い声がしました。“あなたの大切なヒト”に向けて銃の引き金を引いたヒトが、声を上げて笑っていました。歓喜するように笑っていました。
あなたの側らに、“あなたの大切なヒト”と“そうではないヒト”の亡骸がありました。“そうではないヒト”は、先ほどの銃撃戦で死亡したヒトのようでした。その亡骸の側らに、銃が落ちていました。
銃声と笑い声を聞きながら立ち尽くすあなたの側らには、銃がありました。
あなたは【 】しました。




