小話:其の参拾弐《探求心(仮題)》
【しばしば最初のきっかけは、くだらない】
《探求心(仮題)》
その男の子が最近もっとも楽しくカッコイイとお熱なことは、三時のおやつに“かりんとう”と“ちょっと濃い目のお茶”を“嗜む/たしなむ”ことでした。その時刻に目覚ましアラームをセットするほどの、徹底したお熱ぶりです。
目覚ましアラームをセットした時刻が近づいてくると彼は、まるである域に達したヒトのごとく目覚まし時計の前に鎮座して――
その瞬間、アラームが鳴ったと同時の瞬間にぴしゃりとそれを止め、
「…………」
彼は三時のおやつタイムを指し示す時計を持って母親の前へ行き、無言でそれを見せて知らせます。“嗜む”時刻である、と。
母親は愛らしい我が子に愛着ある苦笑を浮かべつつ、“かりんとう”と“ちょっと濃い目のお茶”を用意します。ちなみに、お茶は市販されているカフェイン抜きのモノです。
男の子は母親から“嗜むための必需品/かりんとう/ちょっと濃い目のお茶”を受け取ると、それらを持って、夕刻に傾く日射しの当たる庭に面した縁側へ移動し、そこに腰を落ち着けます。ここが彼の“嗜む”定位置なのです。
――と、その縁側には先客が居ました。
一匹の三毛猫が、なにか悟ったふうな顔つきで寝ていました。
しかし男の子は、そんなこと知ったことではないと“かりんとう”を口に運びます。味わいます。そして一口、お茶をすすり――
ちらりと、三毛猫のほうに視線をやります。
けれどすぐに、気にしてなどいないと言い張るように、次の“かりんとう”を口に運びます。味わいます。――ちょい、と空いた手で三毛猫を軽く突いてみたりしました。
三毛猫は薄っすらと目を開けて男の子を見やり、しっぽをひょいとうっとおしいと言うふうに揺らして、また目を閉じます。
男の子は努めて気にしてないふうを装ってお茶をすすってから、またちょいと突きました。
今度は目を開けることなく三毛猫は、しっぽをひょいと揺らします。
そして男の子は“かりんとう”を味わいつつ、またまたちょいと突き――
そんなやりとりと繰り返して。“かりんとう”を口に運び、それを味わおうかという瞬間に、男の子はふと思いました。思いつきました。
しばし食べようとした“かりんとう”を眺め――
そして三毛猫を見やり――
男の子は手にある“かりんとう”を、
そっと三毛猫のお尻の後ろに置いてみました。