小話:其の参拾壱《些細なこと(仮題)》
【いまも“どこか”で起こっていること】
《些細なこと(仮題)》
彼らは、とくに贅沢をするでもなく、その日その日を精一杯に生きて暮らしていました。
ある日、そんな彼らの集落に――
突然、ヤツらはやって来ました。
ヤツらは、彼らの力ではどうあがいても敵わない強力な武器で身を固めています。
彼らの大半は、本能的に“いのち/生命”の危険を察知して、物陰に身を隠しました。見つからないように息を潜めて、物陰からヤツらの様子をうかがいます。
そして彼らの中の少数の者たちは、血の気の多い若者たちは、勇敢に、無謀に、ヤツらに挑みかかりました。自らの“産まれた場所/居場所/故郷”を、ヤツらに奪われまいとして――
勇敢で無謀な少数の彼らは、じつにあっさりとあっ気なく、ヤツらの武器によってその“いのち/生命”を散らしました。
彼らの大半の半数は、その光景をなすすべもなく物陰から見ることしかできませんでした。残りの半数は、目をそむけて見ることもできませんでした。
ヤツらは、彼らの集落の中央まで進むと歩みを止め――
そこに、円筒形をした“なにか”を置きます。
ヤツらはそれが終わると、それ以外になにもすることなく集落から出てゆきました。
彼らには置いていかれた円筒形の“なにか”が“なに”であるのかわかりませんでしたが――
張り詰めていた空気が、ふっと、ほっと、ゆるみました。散って逝った者たちに対する想いもありましたが、いまはこの瞬間は安堵に対する想いのほうが大きくありました。
そんな彼らの中にあって“それ”は――
影から忍び寄るように、
さしたる音もなく、
煙を発生させる。
* * *
「ただ静かに、我々は“我々の価値観”で生きて暮らしていただけなのに……。ただ、それだけなのに……」
苦痛に襲われながら絶命しれゆく仲間を見やりながら、自らも苦しげに横たわって彼は、
「どうして……、どうして…………、どう……し…………」
苦痛と苦悩と憎悪と悲しみを最期に懐いて、
息を止めました。
* * *
「すげぇ、うじゃうじゃ居やがったぜ」
ひとりの男が、吐くように言いました。
「まぁ、そのおかげで、オレらは美味いモノが食えてるんだがな」
ひとりの男が、口にくわえたタバコに火をやりながら言いました。
「殺して、掃除して、依頼主が快適に使える下準備をする簡単な御仕事――だが、少し食欲が失せる御仕事だぜ」
「まあ、な」
「ところで」
「ん?」
「“バルサン/殺虫装置”がおさまるまで、メシ食い休憩しないか?」
「食欲が失せるんじゃなかったのか?」
「あくまでも、少しだ。――生きてりゃ、なにもしなくたって腹は減るもんだぜっ」
「さいですか」
害虫駆除と背に書かれた揃いの作業着に身を包んだふたりの男は、
「そういえば、街外れの廃校の体育館を使ってなにするんだろう?」
「なにかのイベントって話だったような――」
作業着と同じように害虫駆除とドアの部分に書かれた軽自動車に乗車し、
「で、なに食べる?」
「んー」
食事休憩をとるために、一時この場を去り行きます。
* * *
そして先に居た者の居場所を奪って、
自らの居場所を確保する。