小話:其の弐拾八《後悔は先に立たず(仮題)》
【“大きな実感”は遅れてやってくる】
《後悔は先に立たず(仮題)》
ふたりの男が、公園のベンチに座っていました。ふたりとも決して明るいとは述べられない表情をしています。
「……なぁ」
「ん?」
「どうしてさ、年を取るとさ、大人になるとさ、素直に“ ”って言えなくなるんだろうな。ガキのころは、あっさり言えたのに」
「それは、あれだよ、子どものころは“ネガティブな未来”なんて想像すらしないからだと思うよ。“ ”と言ったあとの、好くも悪くも変わる人間関係をさ」
「どうして大人になっちゃったんだろう……、オレ」
「…………」
「もう“ ”って本人に会って言えないって意識したらさ……」
「…………」
「もう会って話せないって、アイツは居ないって、実感しちゃってさ……」
ひとりの男は、うつむき、努めて抑え込もうとしながら、けれど嗚咽を漏らし、ボロボロと涙を落とす。
「…………」
ひとりの男は、黙したまま、曇天の空を見上げる。隣でなにもおこっていないかのように。隣に座る旧知の男のプライドを守るために。
ふたりの男が、ふたりの喪服姿の男が、公園のベンチに座っていました。ふたりとも決して明るいとは述べられない表情をしています。
そんな彼らを見かねたふうに。
そんな彼らの肩にそっと手を置くように。
曇天の空に小さな穴が開いて、そこから射す一筋のやわらな光が彼らを優しく包みました。