小話:其の弐拾七《御国自慢(仮題)》
【鏡に映った“自身”を嫌悪する】
《御国自慢(仮題)》
ある国の、ある街の、ある道の、ある交差点に面した場所にある、ある喫茶店のテラス席の、ある円卓で、違う“祖国/文化”を持つふたりの男がお茶を飲んでいました。ふたりは今日たまたま“この国”に訪れていて、ある偶然の“ドラマティックな出来事”をきっかけに知り合い、そしてお互いをより知るためにお茶を一緒することにしたのです。
と言っても、やることはただの“お国自慢”なのですが。
「なんといっても私の国の自慢は、ご存知の通り、表現豊かで多種多様な“マンガ/文化”ですね。あなたの国には、こんなに豊かな“マンガ/文化”はないでしょう?」
そう言ってひとりの男は、多機能携帯端末を操作して、電子版のマンガを相手に見せます。
「あなたの国はとても“コミック”が豊かだということは、とても有名なので知っていました。けれど私は、実際にあなたの国の“コミック”を見たことがありません」
「おや? そうだったんですか。じゃあ、これもなにかの縁です。ぜひ読んでみてください」
「では、読ませていただきます」
そう言ってひとりの男は、相手の多機能携帯端末を借りて、マンガを読み始めました。
それを、ひとりの男はどこか誇らしげな気持ちで眺めつつ、お茶を一口すすりました。
――しばしの時を経てから。
「なるほど……。ありがとうございました。ウワサ通り、あなたの国のコミックは“とても多種多様多彩な表現”ですね」
そう言って、ひとりの男は多機能携帯端末を相手に返しました。
ひとりの男は、誇らしげに返された多機能携帯端末を受け取りました。
ひとりの男は、思うところある顔つきでお茶を一口すすってから、
「では、私の国の誇るべきところを話させていただきましょう」
語り始めました。
「ご存知の通り私の国は、世界最強の軍隊で、世界の平和維持に貢献しています」
そう言ってひとりの男は、多機能携帯端末を操作して電子版のニュース記事を相手に見せます。
「あなたの国の軍隊が強いということは、とても有名なので知っていました。けれど私の国は、憲法で“戦争/軍隊の存在も含む”を放棄しているので、そうゆう“世界情勢/平和の為の戦い/正義の戦争”に関してあまり報道がなく、軍隊が実際どのような活動をしているのか知りません」
「おや? そうなのですか。じゃあ、これもなにかの縁です。お教えしましょう」
「是非、教えてください」
そう言ってひとりの男は、相手の多機能携帯端末を借りてニュース記事を見つつ、相手の語りに耳を傾けました。
ひとりの男は、とても誇らしげに、自国の“軍隊の活動/歴史”と武勇伝を語ります。
――しばしの時を経てから。
「なるほど……。とても興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。ウワサ通り、あなたの国の軍隊は“世界平和のために、正義のために、とても素晴らしい貢献をなさっている”のですね」
そう言って、ひとりの男は多機能携帯端末を相手に返しました。
ひとりの男は、誇らしげに返された多機能携帯端末を受け取りました。
それからしばらくふたりは語らい――
「またいつか」
「またいつか」
最後にガッチリ握手を交わして、別れました。
――そして。
ひとりの男と、ひとりの男は、遠く離れた別々の場所で、
「あの国の連中は、なんて野蛮なんだ」
「あの国の連中は、なんて野蛮なんだ」
まったく同じ言葉を、それぞれ口にしました。
自国の“マンガ/文化”を誇った男は、
「いくら綺麗に聞こえる大義を掲げたって、やっていることは“人殺し/破壊/戦争”じゃないか。それを誇るなんて」
と吐き捨てるように言い――
自国の“軍隊/歴史”を誇った男は、
「いくら表現が自由だからって、描かれているのは“エロ/グロ/ナンセンス”じゃないか。それを誇るなんて」
と吐き捨てるように言い――
――そして。
ひとりの男と、ひとりの男は、遠く離れた別々の場所で、
「まったく、あの国の連中の人間性を疑うね」
「まったく、あの国の連中の人間性を疑うね」
まったく同じ言葉を、それぞれ口にしました。