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小話:其の弐拾参《人類共通の伝統(仮題)》

【To:“侵略者/支配者”気質を忘れない方々へ】


《人類共通の伝統(仮題)》


 ふたりの男が、それぞれの前に置かれたノートパソコンを黙々と操作していました。それぞれのパソコン画面には、それぞれひとりの兵士が見ている、そして直面している、砂塵舞う市街地での壮絶な戦闘の光景が映し出されていました。

「そーいえば」

 ひとりの男が、画面から目をはなすことなく言いました。

「ん? なんだい?」

 ひとりの男は、画面から目をはなすことなく答えました。

「腹へった」

「ああ、そういえば、なにも食べてなかったね」

「なんか食いモンねぇ?」

「冷蔵庫に牛丼あるよ。……コンビニのやつだけど」

「お、マジ? 食っていいか?」

「いいもなにも、この状況に備えて昨日買ってきたやつだから」

「おお、気が利くなぁ」

「食べるなら、ボクの分もレンジで温めてくれよ」

「おう、わかった」

 そう言って、ひとりの男は退席しました。

 ――そして。

 温めた牛丼を、右と左の手に持って戻ってきます。右にあるやつを相手の前に置き、左にあるやつを自分の前に置き、

「いっただっきまーす」

 嬉々として割り箸を割り、まさに食らおうかというその瞬間――

「そういえばさ」

 と声をかけられましたが、男は流れる動作でタレの染みた牛肉と玉ねぎとごはんを口に運びます。

「牛丼で思い出したんだけれど」

 声をかけた男は、

「スペインで闘牛が禁止されたよね」

 相手の聞く態度を気にすることなく言いました。

「へぇー、スペインといったら闘牛ってイメージだったから、それはずいぶんと意外な話だな」

 タレの染みた牛肉と玉ねぎとごはんのハーモニーを味わってから、男は言いました。

「まぁ正確には、スペイン北東部のカタルーニャ州の州法で、っていうだけで国としてではないけどね。本土以外の島の一部では、以前から禁止しているところもあるようだし」

「カタルーニャ州ってバルセロナがあるところか……。てか、なんで禁止になったんだ?」

「動物虐待だっていう批判と、闘牛それ自体の人気の低落。――あと、政治的なお話が背景にあるとかないとか」

「ふーん」

 男は思うところあるヒトの顔で、

「昔からある伝統文化の一部を、残酷と受け取るヒトがいて、なおかつそれが世間的に不人気だったら、速やかに禁止できるっていうならさ」

 けれどさして真剣さのあるふうもなく言いました。

「世界にある戦争を、なんで禁止しないんだろうな」

「戦争は、確かに不人気ではあるけれど、伝統文化じゃないよ」

「そうか? すっごい昔から世界中で継承され続けているモノなんだから、ある種の伝統文化だろ」

「まぁ、否定はしないけれど……。でも、“禁止すること”それ自体が、戦争の火種になっちゃうと思うよ」

「なんで?」

「だって、一方の価値観で“それ”を否定して禁止するってことは、相手の価値観を否定して、否定する側の価値観を相手に強要することになる。――戦争の侵略と似てると思わない?」

「他の価値観の“伝統文化/戦争”に、他の価値観が首突っ込むことが、そもそも“侵略/火種”だって?」

「似てるんじゃないかな、って話だよ。異なる価値観から誕生した伝統文化が背景にある“考え/正義”を、異なる価値観から誕生した伝統文化が背景にある“考え/正義”が、相手を理解しようとする努力もなく一方的に“否定/批判”する行為が、ね」

「ふーむ。……てかさ」

 なにか気づいたふうに、男は言いました。

「ボケって称されるくらい平和な国で、戦争モノのネトゲやりながら、牛丼食ってるヤツがする話じゃねぇ、ってことをいまさら思うんだ」

 それを聞いた男は、愉快そうな笑みを浮かべて、

「はは、確かにね」

 そう答え、流れる動作でタレの染みた牛肉と玉ねぎとごはんを口に運びました。


          *  *  *


 残虐性は人間の本性の一部に確実さを持って共存している。


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