小話:其の弐拾弐《ニンキモノ(仮題)》
【遠くより近くがよろし】
《ニンキモノ(仮題)》
ふたりの男が、エアコンの効いた部屋で“ガリガリ君/暑い夏の定番の友”を食べながら、気だるげにテレビを見ていました。外は殺人的に暑いです。実際、テレビのニュースは熱中症による死者について連日のように報じています。
「……なぁ」
「……ん? なんだ?」
「お前って“このヒト”のこと、どう思う?」
ふたりの見やるテレビには、最近人気のアイドルが“視聴者/観覧者”に笑顔をふりまいていました。
「どうって……。アイドルとか興味ないし……」
「そういや、そうだったな」
「それにさ」
「ん?」
「みんなに元気になってほしいとか、笑顔になってほしいとか、言ってさ――べつに“そのこと”を否定するつもりはないけれど、目の下に疲労のにじみ出たヒトに言われたくないというかさ、ヒトのこと言うまえに、もうちょっと自分を大事にしてから活動しようぜ、って思う。疲れてるヒトから元気なんて貰えないぜ、って最近のテレビを見ていて思うわけさ」
「ああ、まぁ、そうだなぁ。――あっ!」
「どした?」
「アタリ出たっ!」
「おおう、それはそれはおめでとう」
「ちょっと交換しに行ってくるぜ」
そう言って、ひとりの男はアタリを交換しに行きました。殺人的に暑い、外へ。
「……やっぱり」
部屋に残ったひとりの男が、ぼそりと言いました。
「“疲れたヒト/テレビの中の人気者”の笑顔を見るより、“ガリガリ君/暑い夏の人気者”のアタリが出るほうが、よっぽど元気が貰える。――あ、オレもアタ……リじゃないか……、残念……」