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小話:其の弐《ハッピーバースデイ(仮題)》

 来る日は、僕の誕生日であった。

 校内。図書室にて、なんとなく自らの誕生日を語った僕に、

「なら、誕生日祝いに小旅行しないか」

 腐れ縁も更に腐った仲の悪友が、唐突な申し出をしてきた。

「行くとして、だ。資金はどうするんだよ」

 無料で満喫できる旅行など、今のご時勢、存在するとは思えない。

「そりゃあ、割り勘だろうよ。当然」

「二人で? 割り勘」

 なにが悲しくて、野郎と二人、旅行代金を折半して旅をせねばならんのだ。

「いや、俺だってお前と二人きりなんて、斬新さのカケラもないからゴメンだ」

 しれっと真顔でぬかしてくれるが、

「僕の誕生日祝いじゃないのかよ」

 手段と目的が一致してない発言してくれるよ。まったく。

「ま、適当にメンバー見積もっておく。旅行計画もオレが立てる。お前は金を出すだけでいい。オレからの連絡を待ってるがいいさ。発狂しない程度に胸をドキドキさせてな」

 言うと、友人は席をたった。計画を立てるために旅行代理店を巡るのだという。

 僕は、彼に同行するつもりはなかった。

 彼ならそれなりに楽しい計画を立ててくれるであろうと確信していたから――


 そんなわけで僕は、友人が計画してくれた誕生日祝い小旅行へと向かう事になった。

 先に記しておこう。

 今回の誕生日。

 僕の人生という歴史において、絶対に忘れられないモノになったと。


 そして数日後。

 今は移動するワゴン車のなかである。

 彼はいったいなにを考えたのか。僕の誕生日祝いは、人里離れた山岳部にある、天体観測を好む人々しか訪れない、老夫婦が営むという小さな宿にてとり行われることとなった。

 僕を祝ってくれるらしいメンバーは、まあ予想通りに、いつもつるんでいる面々で。 僕を含めた男が三人に、女が二人の、合計五名である。

 が、宿まで向かうワゴン車には、僕を含めた四人しか乗車していない。

 一人はワゴン車を運転する宿のご亭主で、他二名は女友人である。男友人の一人は都合により遅れてくるらしい。で、言いだしっぺの男悪友は先行し、宿で祝いの準備をしてくれているそうだ。

 いったいどんな事を考えているのか、男悪友の考えている事は予想できないが、一つだけ彼を賞賛してもよいと思うことがある。

 それは僕の隣に座る黒髪の乙女を、この小旅行に呼んでくれたということだ。いま彼女は、後部座席でダルそうに小さく横になっている長い茶髪の女友人へ気遣わしげな視線をくれているが、果たして僕がその眼差しの先に登場できる日はいつになるだろうか。

 とか、そんな感じで僕が、黒髪の乙女に見ほれているうちに、気がつけば目的地に到着していた。


 宿に到着して、僕は女将さんに案内されるがままに、部屋へ向かった。

 黒髪の乙女は、到着するなり胃の中身をリバースしそうになりお手洗いへと直行した長茶髪の女友人を気にしているようで、様子を見てくるとのことだった。

 僕も長茶髪の女友人を心配していないわけではないが、移動する車中にて、ガバガバとお酒をあおりまくっている図を思い返すと、苦笑いを顔面に貼り付けたくなってしまう。まあつまり、自業自得だろうと。

「こちらです」

 僕が思い返しに苦笑を浮かべていたら、部屋に到着したようで、女将さんが一室の前で微笑んでいた。

「ご友人さまは、既にご到着されております」

 そのご友人さまというのは、言いだしっぺの悪友である。

 開けてくれた扉とくぐり、ふすまの前へ。あいにくと荷物で両手がふさがっている僕なので、女将さんにふすまを開けてもらい――

 そして僕は、荷物を取り落としてしまった。

 目の前に広がる部屋の、あまりの光景に。

 手が、脚が、痙攣した。

 心拍が異常をきたし、その心拍に狂わされたがように虫のような呼吸が乱れ、胸の辺りがイヤに苦しい。

 僕に遅れて部屋の中を見た女将さんも、僕と同じような状態に陥る。

 きっと、普通でいられる人間なんて存在しやしない。

 それほどに、部屋は奇異で満たされていた。

 悪友が、

 腐れ縁も更に腐った仲の悪友が、

 タタミの上で、大の字に寝転がっていた。

 マヌケなほどに眼をむいて、口を半開きにして。

 タタミを真っ赤に染め上げて――


 悪友は、首から血を流して横たわっていた。


 反射的に、僕は悪友に駆け寄ろうとしたが、しかしそれは防衛本能によってはばかられた。

 血を流して死んだように横たわる悪友を見下ろすように、その人物がいたからだ。

 眼の部位だけ穴の開いた黒い目出し帽で顔を隠し、全身を黒いロングコートでおおった人物。その黒い皮手袋で隠された右手には、不気味なヌメリをおびたサバイバルナイフが握られている。

 僕は心臓をつかまれたような感覚におそわれた。

 黒い目出し帽からのぞく狂気に満ちた瞳が、こちらへ向けられている。そして、その人物は動く。決して素早いわけではない。だが、見えない手に捕まっているような僕には、迫り来るソレから逃れ――


 ――数瞬の差で、僕は駆け出すことに成功した。


 僕は老いた女将さんの背を無理矢理に押し、駆け足を強制しながら、その場から逃げだした。

 幸いにして、狂気の人は、走ってこなかった。しかし確実にこちらへ歩んできている。

 逃げなければならない。この場から。この宿から。

 僕と女将さんは玄関横にある談話場まで駆けた。

 談話場にあるソファーには、長茶髪の女友人がダルそうに座っている。そんな彼女に、宿のご亭主がお茶を出していた。黒髪の乙女は長茶髪女友人へ薬でもやるつもりなのか、手持ちカバンの内部を探っている。

 僕は迫り来る危険を叫ぼうとしたが、あまりの事に気が動転していたのか、狂気に満ちた部屋の方角を指差したまま、息を詰らせてしまった。

 だが、僕の表情か雰囲気か、を読みとってくれた談話室の面々は、なにかただならぬ事を僕が告げようとしていると理解してくれたようで、

「どう……したの?」

 黒髪の乙女はいくぶんか当惑気味に、僕を見上げてきた。いまだ指差し姿勢で口をあうあう動かすだけの僕は、

「――っ! にっ、逃げろっ!」

 ツバを五回ほど飲み下したのちに、どうにか言葉を告げることに成功した。そして黒髪の乙女の手を取り、玄関口へ駆け出す――

 が、黒髪の乙女はその場で踏ん張って、逃走を阻害する。

「ねえ、きゅ、急にどうしたの? なにかへんだよう」

 詳しい説明を求める気持ちは、理解できないことはない。だが、今はそのヒマが惜しい。

「いいからっ! 早く、速くみんな逃げてっ!」

 わめき急かす僕を、頭のおかしくなった危ないヤツとでも判断したのか、黒髪の乙女はふるふると首を横に振り拒絶を体現する。

 真に、危ないヤツがもたらす危機が迫っているというのにっ!

「い、イタイよう」

 黒髪の乙女は痛みに顔を歪める。僕は苛立ちのあまり、手に必要以上の力を込めてしまっていたようだ。

 だが、たとえ黒髪の乙女に嫌われたとしても、僕は手を離すわけにはいかなかった。

 失うくらいなら嫌われるほうが望ましい。当然の選択だろう。

 僕は三度、逃げるよう叫ぼうと、視線を黒髪の乙女から外した――

 そこに、ヤツが居た。

 手にしたサバイバルナイフを振り上げて。

 狂気をたたえた眼は、柱にもたれてへたり込んだ女将さんへ向いている。

 目出し帽に隠れているハズの口元が、薄笑みを浮かべていると思えてしまうのは、果たして僕の妄想だろうか。

「――っ!」

 僕は女将さんに危機を伝えようとしたが――


 僕は超人ヒーローではない。

 救える数には、限りがある。

 やれることには限界がある。


 僕は最後まで見届けず、目を剥いて驚愕している黒髪の乙女を強引に引っ張り、玄関口へ。

 まずは、逃げなければならない。

 逃げ延びなければならない。

 靴もはかずに、外へ駆け出した。

 背後を振り仰ぐことなく、迅速に脚を駆動させ――

 その瞬間、聴覚からもたらされた情報が、僕の身体をピタリと起動停止させた。つられるように黒髪の乙女も立ち止まる。

 怖くて、宿の方角を見れなかった。

 でも、確かに聞いたきがする。

 地獄の底から噴火しているような、壮絶な――


 しばらく走った。

 その間、僕と黒髪の乙女は、一言も交わさない。そんな精神的余裕は、とうの昔になくしている。


 掴んだ手に、ガクンと負荷がかかった。

 見てみると黒髪の乙女が、もう走れないと体で表していた。

 そこでやっと、僕は背後を確認する。

 ヤツは居なかった。

 どおっと全身から力が抜けた。へなへなと情けなく、僕はその場に尻をつく。黒髪の乙女も、息を切らして倒れこむ。

 どれほどへたり込んでいたのかは、わからない。

 沈黙が場を支配する。だが、静寂はない。山が木々が野生動物が、自然が発する音が、静寂を与えてくれない。

 木々の間から、視線のようなものを感じてしまう。

 だがそこにいるのは小動物か、幻想か。


 その時、壮絶な振動が僕を襲った。

 驚きで人は死ぬ。本気で僕はそう思った。心臓が止まり、息を詰らせ窒息すると、本気で思った。

 しかしどうにか僕は死ななかった。呼吸を整え、ポケットに手を突っ込む。そして振動の原因を引っ張り出す。

 ケイタイ電話である。

 宿へ訪れる途中の車中では、圏外となっていたハズだが?

 疑問に思いつつ、僕は液晶画面を見る。そこには、遅れて到着することになっている男友人の名前があった。好機だと思った。警察を呼んでもらおうと。異常事態だと、うったえよう。そう心に決めて、通話ボタンを押す――

「あーでたでた。おーい。お前なにしてんだよ。せっかく到着して、さあさあ楽しい宴だと思ったら、本日の主役が居ないって。お前が居なけりゃ、ただの飲み会になっちまうじゃないか。愛しい乙女と二人っきりになりたい、その気持ちまでは否定しないけどな。しかし俺らのことも頭の隅っこでいいから置いてくれやな。ああー、みんなもうすでに飲み始めちゃったよ。というわけで早く戻ってこいよ」

 一方的に喋りまくったあげく、

「あ、おいっ!」

 僕が一言を発す間もなく、彼は通話を切った。

 信じられない。そう思いながらも、僕はリダイアルボタンを押した。

 押した、のだが、通話が再開されることはなく。液晶画面を確認すると、そこには――

 圏外の文字が刻まれていた。

 どういうことだ?


 僕は不可解に思いながらも、通話相手が男友人であったことを黒髪の乙女に告げた。

「う、うそ……。だって、だって宿は……」

 彼女は困惑したように、あるいは怯えたように、そう口から漏らした。

 僕も彼女と同じ気分だった。不気味な怖さを感じている。

 何事も無かったかのように、宿では事が進行している。果たして本当なのか?

 夢を見ていたつもりはない。

 どういうことなんだ……。


 そして僕と黒髪の乙女は、小さな期待を懐きつつ、来た道を戻ることにした。

 飲み会が始まっているなら、喜ばしい。

 実に喜ばしい。

 そう思う脳ミソとは裏腹に、足取りは慎重かつ懐疑的であった。


 来た時の百倍は時を費やして、僕たちは宿を視界に捉えた。

 隠れているようにと、僕は黒髪の乙女に提案したが、一人でいるほうが恐ろしいと彼女はそれを拒んだ。

 僕としても、拒んでくれてありがとうという心境であった。口でいかに言ったところで、一人では怖い。


 玄関口をくぐると、そこには――

 なにもなかった。

 変なところは、なにも。

 談話場を見やっても、なにもない。長茶髪の女友人も、宿のご亭主も、女将さんも、誰も居ない。

「ウソだ」

 僕は、本来はウソであったことを喜びたいのに、喜べずにいた。

 黒髪の乙女も、自らを抱きしめるようにして、理解し難い現状を必死に飲み込もうとしている。

 いや、いやしかし僕は実際に、長茶髪の女友人、宿のご亭主、女将さん、がどうにかなる光景を目撃したわけではないのだ。過剰な妄想をしていただけかもしれない。この三名に関しては、そう思い込むことは可能だ。

 だがしかし――

「部屋へ行ってみよう」

 あの怪異で満たされた部屋の光景が、僕の過大妄想であったなんて、そんなわけあるはずがない。あれは、あれは否定したい現実だった。

 僕は黒髪の乙女の手をしっかりと握り、自分が宿泊するハズだった狂気の部屋へ向かう。

 開け放たれているはずの扉は閉まっており、その封印を解くには、ただならぬ覚悟と度胸を必要とし、僕はしばらく扉の前で立ち尽くし――

 どうにか部屋の内部へ侵入し、これも開け放たれているはずのふすまを――

 開いたそのさきには、キレイな畳を敷き詰めた部屋があった。

「そんな……」

 ありえない目前の光景に、僕は畳に這いつくばって悪友の血痕をさがしす。

 黒髪の乙女は僕の行動を奇怪に思ったのか、なにをしているのか訊ねてきた。

 僕はこの部屋で見たことを慎重に語る。

 言って僕は、この理解に苦しむ状況に、発狂寸前だった。

 そこを狙ったかのように、振動が僕を現実に引き戻す。

 圏外であったはずのケイタイ電話は、再びつながったらしい。

 ポケットから取り出し、液晶画面を見る。

 またも男友人からであった。

 僕は素早く通話ボタンを押し、

「おいっ! いまどこにいるんだっ」

 彼が話し始める前に、一方的に喋りきられる前に、言葉を発した。

「な、なんだよ。いきなり怒鳴るなって」

 男友人の声はいくぶん戸惑いを含んでいたが、

「宴会場だよ、宴会場。ったくさ、お前たちが遅いから、みんな顔を真っ赤にして寝ちまってるぞ」

 確かに、僕と黒髪の乙女が宿へ戻り来るまでは相当の時間を要したから、あまりお酒に強いとは言いがたい面々を思うと出来上がってしまっていても不思議ではない。が、いまはそんな事はどうでもいい。

「絶対に、電話を切るなよ」

 伝え、

「なんだよ、そんなに俺の声が聞きたいのか?」

 男友人はとぼけつつも通話を切らずにいる。

 僕はケイタイ電話を片手片耳に、もう片方の手は黒髪の乙女としっかりとつなぎ、急ぎ足で部屋から出て、宴会場を目指した。


 この引き戸の奥でみんなが飲み騒いでいる、らしい。

 だが、楽しくも騒がしい音は、目の前にいるのに聞こえてこず。

「本当に宴会場にいるのか?」

 僕はまだ通話を続けている男友人に訊いた。

「居なきゃどこにいるんだよ、俺は」

 彼はなかば呆れともとれる口調でつげてくる。

 僕はツバをゴクリと飲み下し、黒髪の乙女へ視線をやり、お互いに肯きあってから、引き戸に手をかけ、一気に引いた――


 そこに、

 全身を黒いロングコートと目出し帽で隠した人物が、背を向けて居た。

 右手にナイフを、左手は耳にあてている。

 僕はその場で固まるしかなかった。

 全身黒のヤツが振りかえる。ネバっこく、ゆっくりと、みせつけるように。

 耳にあてているのは左手ではなくケイタイ電話のようだ、というのがわかった。

「なあ、今も宴会場にいるのか?」

 僕はケイタイの向こう側にいるはずの男友人に問いかけた。

「ああ、居る」

 当然のように彼は返す。

「そう……か。じつは僕も宴会場に居るんだ」

「ああ、知ってる」


 目の前の黒ずくめは、ケイタイ電話を捨てた。

 ナイフを構えて、こちらへと向かってくる。


「どう、して……。どうしてなんだ……」

 僕は固まったまま、いまだにケイタイ電話の向こう側へ、すがりつくように訊ねた。

「どうして? 決まってるだろう――」

 ケイタイ電話の向こう側で、彼はことさら陽気に答えてくれる。


「――今日がお前の誕生日だから」


 僕は、僕はいったいなにをしたんだろう。


 黒ずくめは、ナイフを構えて、ゆっくりとこちらへと歩んでくる。

 

 僕は必死に過去を検索した。

 これを“走馬灯のように”というのだろうか?

 意図せずに犯す罪ほど恐ろしい。そんな言葉が脳裏をよぎる。


 黒ずくめは、目と鼻の先で。

 ナイフを握った手が腕が伸びてきて。

 すべてがスローモーションに見えた。

 僕は――殺されるんだ、と確信した。

 ただ気がかりなことがある。

 いったい僕のなにが、彼を狂気にかりたてたのか。

 そして願わくば、黒髪の乙女には手を上げないで欲しい。

 そんなことを考えながら、僕はあきらめたよう目を閉じた。


 死ぬという感覚を、僕は当然のように経験したことがない。だから、死がいかなものなのかわからず、それは案外、苦しみをともなわないのだなと思った。

「誕生日おめでとう」

 死した悪友の声が聞こえた。

 僕のせいで殺されたのに、祝ってくれるとは。

 腐れ縁も更に腐った仲の悪友――僕は泣きたくなった。

 ありがたく、申し訳なく、僕はどうしたらいいのだろう。

「それで、俺たちからの誕生日プレゼントはどうだったよ」

 悪友の声の言うことは、しかしなんのことなのだろうか?

「おい、おーい」

 という悪友の声とともに肩を揺らされて、僕は目を開けた。

 黒ずくめのヤツが真正面に居た。

「ひっ!」

 僕は思わずケイタイ電話を取り落とした。

「おいおい、そんなにビビらなくてもいいだろ」

 悪友の声で、黒ずくめは言った――

「はっぁ?」

 僕はわけがわからずマヌケな声を漏らす。

 どういうことだ。どうして……?

「まあ、怖がられないよりはましか」

 そう言って、黒ずくめは目出し帽を剥ぎ取った。

 そこにあったのは、部屋で首から血を流して横たわっていた、悪友の顔だった。

 その瞬間、乾いた発破音が鳴り、

「「ハッピーバースデー」」

 愉快そうな男女の声色と拍手の音が聞こえてきた。

 なにが起きているのか。僕は全然わからず立ち尽くす。

「それで、危機的状況において、ご両人の恋の炎は燃えあったのかな?」

 悪友はしばいがかった動作で言い。

「燃えてくれたら」

「お互いの気持ちに気づかない鈍感への」

「俺たちからの“起爆剤”ってなプレゼントは成功したことになるんだが」

 素敵な笑顔を浮かべて、長茶髪女友人、男友人、悪友、が「どうなんだ?」と訊いてくる。


 僕は呆けて、黒髪の乙女へ視線をやった。

 彼女も僕と同じようにこちらを見ていた。



 数週間後――

 僕はとある喫茶店でそわそわしていた。

 今日、はじめて友人らをともなわずに、二人きりで、黒髪の乙女と会うことになった。

 五杯目の紅茶を注文したところで、

 扉が開く鈴の音か聞こえ、そちらへ視線をやると、彼女が素敵なコーディネイトの服装で居た。


 イタズラを真面目に思考する楽しさに心が踊ってしまい思わず笑みが浮かんだ。

 僕と彼女が話すべくことは、実はもう決まっている。

 今日は悪友の誕生日なのだ――

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