19/107
小話:其の拾九《ひとつの究極(仮題)》
求めあるモノには価値が付く――
《ひとつの究極(仮題)》
全国規模どころか全世界規模の、きめ細やかなサービスに定評のある、とあるファストフード店に、
「あ~、腹減ったわ~」
ひとりの男が、そんなことを言いつつ来店しました。
自動ドアの開閉に連動して、店員に来客を知らせる機械音が鳴りました。
それを聞いたひとりの店員は、
「…………」
しかし一言も発することなく、そして無表情のまま、レジの前に立ちます。
空腹の男は、メニュー表を眺めつつ、
「じゃあ、まずは――」
と“ワンコイン/五〇〇円”のセットメニューを注文しました。
「“スマイルサービスセット”を、ひとつ」
注文を受けた店員は、しかるべきことをレジに打ち込み、
「いらっしゃいませ、お客様」
よく訓練された満面の笑みを浮かべて、
「“イートメニュー/飲食のご注文”はお決まりですか?」
定評通りのサービスを提供します。
「現在こちらのセットが――」
* * *
そして“気配り/親切心/思いやり/まごころ/やさしさ”は、需要と価値のある商品となった。