小話:其の拾参《知らぬが楽し(仮題)》
知らないことが“よろしい”ときもある――
《知らぬが楽し(仮題)》
ふたりの若い男が、とある駅のホームで電車が来るのを待っていました。
「そーいえば今日さ」
「ん?」
「どーしてオレとお前が仲いいんだって、お前に憧れを懐いてるカワユイ後輩女子さんたちが、あえてオレに聞こえるヒソヒソ話をしていたぜ」
「それをボクに言われてもね」
「お前みたいな自分に厳しく他人に優しい完璧人間の生徒会長が、なにを間違えたらオレみたいな全力低空飛行の残念野郎とつるむことになるのか、周りは興味津々なんだよ。あわよくば自分が“いまのオレの立ち位置”にっ! て」
「自分に厳しいように見られてるボクの言動は、ただ自分に自信がないから。他人に優しいように見られてるボクの言動は、ただ他人に嫌われたくないから。そしてキミとつるんでいるのは、幼稚園からの腐れ縁だから。……真実には、しばしば“おもしろさ”が欠けている。そんな憧れと現実の違いを知ってまで、“いまのキミの立ち位置”にって思ってくれる奇特なヒトは、そうそう居ないよ」
「“謎”は“謎”だから“ロマン”てか?」
「キミが素晴らしき友人ってことだよ」
「おおう! なんか照れるぜ。――けどなぁ」
「ん? なにかあるの?」
「真実のない憧れには“おもしろさ”が溢れまくってるらしくてさぁ……」
「はあ? それで?」
「漫画研究部の一部のアホが、どうにもミスマッチなオレとお前をネタにして、“ある愛のカタチ”をマンガで描きやがったらしくてな……」
「…………漫研の部費、生徒会長権限で八割カットすることにしよう」