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小話:其の壱百四《あんぜんのほしょう(仮題)》

【優れたモノほど、しばしば毒にも薬にもなる】

《あんぜんのほしょう(仮題)》


 とある時代の、とあるとても小さな国の、とある家電量販店の展示用のテレビの画面の中で、

「****による事故が多発しており――」

 スーツで身を包んだ中年の男性が深刻そうな表情をして、口を動かしていました。****に関する写真やイラストが多く見られるボードの前に立ってあり、語りに合わせて写真やイラストを指差したりしています。

 ****というのは、最近、発売された、とても速くて小回りの利く外国製の小型のワゴン自動車のことです。レース競技用のそれに勝るとも劣らない速さを有し、けれども燃料を大喰らいするということはなく。そして爽快な速さを有しているのに、日常使いに最適な小回りの利く足を有し、なにより小ぶりな車体であるのに多くの物資や人員を乗せられます。

 ここは小さな国なので、小回りが利き、許容量が多く、速さも有するこの自動車は、発表されたときから多大に注目されていました。そして発売すると、この小さな国の、自動車を有するヒトのほとんどがこの****に買い替えました。

 しかし時間が経過すると、****に関してよろしくない話が出てくるようになりました。その中でもっとも多く、そして害のあるモノは、事故の多さでした。

 安心安全に関して敏感な団体が****の危険性をうたい、あらゆるメディアがそれに関することを報じます。

「****の販売を停止するべきという声も――」

 という男性の映像と音声を流す家電量販店の展示用のテレビを眺めているヒトたちのところへ、制御を失った****が、その有する速さを発揮して向かっていました。

 ――そして。

 ****の危険性の関して論ずるのに、この小さな国において地上をエンジンをもちいて高速走行する乗り物は不要であるという話が出てきました。

 その話を語る声はしだいに大きくなり、ついには国の運営の最高責任者がこのことに関して対処することになりました。

「歴史的な日となるでしょう――」

 とても小さな国の、国の外れに設けられた特設会場のステージの上で、国の運営の最高責任者の初老の男性が言いました。

 本日は、この小さな国に存在するエンジンをもちいて地上を走行する乗り物を例外なくすべて破棄する日なのです。

 国民からの支持が気になる国の運営に関わるヒトたちが、いまもっとも注目されている話題に対処した結果、こうするべきとなったのです。極端でおおざっぱであるという批判もありましたが、あらゆるメディアが肯定的に連日報道した結果、大多数の国民の賛成を得られ、おこなうはこびとなりました。

「さあ、これで我が国に存在するエンジン駆動の乗り物はなくなりますっ」

 すべての締め括りとして、この日のきっかけとなった****が廃棄装置へと運ばれ、

「ついにっ、すべてのエンジン駆動の乗り物がなくなりましたっ」

 あっさりと一瞬で、****は原型を留めないほどに破砕されました。

 会場は、歴史的な出来事に湧きました――が、その歓声は、すぐに悲鳴に変わりました。

 破砕措置が暴走、爆発したのです。

 爆発の威力で、装置の破片が飛散しました。

 飛んできた破片でケガを負ったヒトがいましたが、大多数が軽傷でした。しかし、そうでないヒトもいました。

 歴史的な日を目撃しようと、医師も多数、会場に訪れていたので、速やかに適切な処置がおこなわれましたが、

「応急処置は施しましたが、すぐに設備の整った医療機関で処置しなければ生命に関わります」

 数名のヒトが、危険な状態に陥っていました。

「運ぶにしても、たったいまこの国に存在するエンジン駆動の地上を走行する乗り物は例外なく残らずすべて破棄されてしまったぞ。どうするんだっ」

「地上がダメなら空は、どうだ。幸い、国の運営に関わるヒトたちの姿もある。ヘリコプターを手配してもらえば」

「なにを言っているんだ。空の乗り物は、数年前に例外なくすべて破棄しただろう。この小さな国に、そんなモノはひつようない。自分の家に落ちてくるかもしれないモノはいらない、と」

「ああ……、そんな……」

 昨日ならまもられていたはずの生命が、今日は――

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