小話:其の壱拾《正義の味方の味方(仮題)》
似たもの同士ほどケンカする――
《正義の味方の味方(仮題)》
ひとりの男が、人目を避けるようにひっそりとある墓標の前にたたずんでいました。その身なりは、痛々しいほどボロボロです。服は裂け、髪は乱れ、泥で汚れ、ところどころ流血したり、患部が炭化するほどの火傷を負ったりしていました。
そして彼は力尽きたように崩れ、その場に両膝をつきました。
しばし呆然と、晴れ渡る空を眺め――
奥歯を噛みしめて、けれど堪えきれずに嗚咽と涙を流しました。
* * *
そして悪の親玉は倒され、世界は救われました。
正義のヒーローの活躍を、人々は心から称えました。
世界を征服せんとした悪の親玉との戦いが終わり、世界に平和が取り戻され――
一台の乗用車が平和を満喫する人々の群れの中へと突っ込み、大爆発を起こしました。
悪の親玉という強大なプレッシャーから解放された、それぞれは小さな、しかし確実に平和を脅かす“小さな火種たち”の、最初の爆発でした。
正義のヒーローの、新たな戦いが始まりました。
幾多の戦場を駆け巡り、勇敢な戦士たちと共に根気強く“小さな火種たち”と戦いました。
そしてついに正義のヒーローは、“平和を脅かす火種”を殲滅しました。
これでやっと本当に、世界に平和が取り戻された。
正義のヒーローは安堵と達成感の現れた晴れやかな笑顔で背後を振り返り、共に戦った勇敢な戦士たちを見やりました。――彼らの銃口は、正義のヒーローに向けられていました。
* * *
ひとりの男が、孤独な男が、ボロボロな男が、世界を救おうとした男が、ひとつの粗末な墓標の前で泣き崩れていました。
彼が最後に――
本音を、
本心を、
遠慮無くぶつけられると思った相手は、
自らの苦悩と苦痛を理解してくれると思った相手は、
自らの正義と相対した、自らが葬った、いまは墓標の、
――“世界の敵”だけでした。