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希望が見えてきたんじゃない? その3

「八汐さん、優勝おめでとう!」


 五つのコップが疎らな音を立て、アイスコーヒーの中で光が踊った。

 大会の帰りに祝勝会を開くと言われたときには冷たい汗が背中を流れたが、トリシャさんの部屋を使わせてもらえたお陰で財政破綻は辛うじて免れそうだ。


「ありがとう。これも偏に、皆さんのご指導ご鞭撻の賜物です」


 何という当たり障りのない教科書通りのインタビューだ。

 嘘でなければ、どうしてこんな不愉快な言葉をためらいもなく口にできるだろうか。

 だが俺は愚直に異議申し立てする程愚かではない。

 同じ手で反撃し、こちらの強かさを思い知らせてくれる。


「いえいえ、俺は何もしてませんよ。『殉教令』もトリシャさんのアイデアでしたし」


 そして俺は、他人のアイデアで勝負するような恥知らずな真似はしない。

 独創性を捨てた時、ビルダーの魂は死に絶え、どこかで見たようなレシピを紹介するだけの俗人に堕するのだ。

 対策カードの微調整如きを、構築構築と呼んで有難がる不届者のなんと多いことか。

 お前のことだぞ! アキノリ! 

 俺は鋭い眼光をリビングに巡らせたが、不覚にも奴は逃げ出した後だった。


「ありがとう、パティ。あなたのアイデアからはいつも刺激をもらっています」

 

 俺にやんわりと窘められて、八汐さんは己の思い上がりを恥じたらしい。

 今更己の思い上がりに気づき、取ってつけたように身を引いた。

 真の才人ならば、しかし、自ずと胸の底から謙遜の言葉が出てくるものなのだ。


「なんの、それこそ以前師匠が特集していたコラムの受け売りでオジャル」


 そう、最初に目をつけていたのは俺。

 流石はトリシャさん、業界の情報は網羅している。

 

「え?」


 待て、そんなコラムを出した事があったか?

 いったいいつの記事だ?


「エ?」


 戦勝ムードが、束の間宙に浮いた。

 不味い、トリシャさんが戸惑っている。

 マッシュ・ザ・デッキビルダーの記憶力は完璧だ。

 完璧でなくてはならない。

 疑念を差しはさむ余地があってはならない!


「い、いや、あんな物でもお役に立てたなら何よりですよ」


 もう少し時間があれば難なく思い出すのだが、致し方あるまい。

 ポーカーフェイスで事故を悟らせないのも、カードゲーマーには必要な技術だ。

 俺が爽やかな笑顔で危なげなくやり過ごしているというのに、Kは目を細め言いがかりの余地を探っている。


「へぇ、何の記事やったんや? Cタケ」


 四六時中穿った目付きで人を陥れる機を狙っているとは、コイツといい可哀相女といい、育ちの悪さが知れるというものだ。


「『殉教令』の話に決まってるだろ! そんなことよりトリシャさん、どうやってこの部屋押さえたんですか?」


 俺はテーブルの影でアクオスのロックを解き、クロームのお気に入りから『第五実験区画』を開いた。

 コラムか? デッキか? 

 いや、うちに『殉教令』の入っているデッキはない。


「ナニ、奸計にて部屋を借りたわけではオジャラン。中世史の先生がオーナーと偶々知り合いだったでオジャル」


『デッキタイプ別対策法』『トリッキーなカードを使いこなせ』『マクロ単位でのシナジー』……

 コラムの一覧を見渡すも、殉教の殉さえ出てこない。

 何の手掛かりもないまま、一番古い見出しに突き当たってしまった。


「僕も驚きましたよ。マンションが同じだけでも凄いと思ったけど、実物を見られるなんて」


 幸い部屋の話は、カモフラージュだとも気づかずパラガスが引っ張ってくれている。


「実物? 有名な部屋なんですか?」


 俺は関係のありそうな記事を片っ端から開いたが、何故だ。

 トリシャさんが見た筈のページが、何故出てこない。


「敢えて八汐にも分かるように説明するなら、有名なアニメの劇中に出てきた部屋なのでオジャル」


 ということは、考察とは別のジャンルだ。

 レポートに出てくるとは思えないからおそらくは雑記なのだが、今ここで一つ一つ中身まで確認しろというのか?


「あの引き戸ですよね? タイムトラベルの部屋」


 話しながら、パラガスはスマホで俺の太ももを小突いた。

 うちのブログ、『carnaオープントーナメント大阪総括』。

 大会後の環境考察か!

 画面を見た瞬間、膨大な情報が高速で神経回路を駆け巡った。

 そうだ、あの時は水木除去コンが支配的だったので、コントロールメタの候補を列挙したではないか。

『殉教令』はそのうちの一つだ!


「案内するでオジャル。作品に敬意を表して布団を敷いたまま保存してあるデノ」


 やはり俺の記憶は、散逸したわけではなくしっかりと保存されていた。

 ただ記憶へのアクセスが失われていただけなのだ。


「使っていないそうなので万年床とは言わないのでしょうけど……いつ来ても気になります」


 パラガス達は立ち上がり、和室を覗いて歓声を上げている。

 せっかく思い出したというのに、話が流れてしまったのでは今更か。

 パラガスのスマホを伏せようとしたその時、後ろからさっと手が伸びてきた。


「Cタケ~~カンニングはあかんやろぉ、カンニングはぁ」


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