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希望が見えてきたんじゃない? その2

 Kはどうやらミステルを使ったようだ。

 場にはメグとアニスが残っている。

 スペルを阻止して、八汐さんの展開をクレタ1匹まで後退させた。

 ドローを連打したのか八汐さんの手札には余裕があるが、これで暫くは安全だろう。


《御影選手、『肉球アニス』で伏せカードをリムーブ! 『巻き戻し』をしのいだ!」


 さらにメグでクレタを相打ちに取り、八汐さんの場は完全に更地だ。

 ここでティアラをカーナ出来れば、圧倒的な優位に立てる。


「思い切ったいい手だね。土単の展開はコリンに依存しているから、今ので一宮君は相当なビハインドを負ったよ」


 ファインマン3世のお墨付きを頂いたものの、手札に肝心のティアラがないらしい。

 八汐さんが一から展開し直す間、Kは1枚カードを伏せっぱなしだ。


「事故でオジャルカ?」


 流石にクローナもメグも出ていないという可能性は極めて低い。

 やはりあくまでティアラを待つつもりなのだろう。


「低コストじゃ埒があかないと踏んだんじゃないですか」


 だが今引きでティアラが出て来る確率など、あってもせいぜい5分の1。

 対する八汐さんの場は既にミステルを使う前まで復旧しており、伏せカードも1枚ある。

 あれがもし『巻き戻し』なら、それだけでこの大会は詰みだ。

 暗闇に焼き付いた解説画面、1枚のカードを全員が見つめている。

 苦しさに息を継いだその時、八汐さんの手が動いた。


「スペル『殉教令』をキャスト!」


 想定外のカードが現れ、場内はどよめきに支配されている。


「『殉教令』? 八汐さんが木だって?」


 説明して欲しいのはこっちの方だ。

 トリシャさんならともかく、普段の八汐さんなら見向きもしないだろう。

 土単原理主義過激派のカタブツが、一体どんな経緯で手を出したというのか。

 俺の脳裏をよぎったのは、理論に立脚した洞察ではなく原始的な印象だった。


「朝練(笑)の時のカードか!」


 素人考えに流され得るものの全くないひと時だと思っていたが、八汐さんは収穫していた。

 律儀さゆえに、責任を取って密かに使い続けていたのだろう。

 この土壇場で大誤算だ!


「こんな形で再会することになろうとは!」


 なるほど、『殉教令』なら1枚で土単の苦手な対コントロール戦を荒れ試合に持ち込むことが出来る。

 ドローの厚い土単ならば、投入枚数も少なくて済んだはずだ。


「つ、土単じゃなかったのかよ?」


 情けなくも狼狽えるアキノリに、俺は説明してやった。

 今の今まで土単に偽装できていたのは、恐らくあのデッキが8割以上土単だからだ。


「ゼロックス理論だ。厳密な意味での再現ではないがな」


 ゼロックス理論は、本来DWDの土地問題を解決するためのメソッドだ。

 初期のDWDでは、土地カードを出さないとコストを支払うことが出来なかった。

 初手で土地を引くためには土地を多めに積まなければならないが、多く積めば中盤以降土地は余りがちになる。

 そこでドローを連発し、土地を減らしても強引に引き出せるようにしようというプランが生まれた。

 

「尤も八汐さんの場合は、土地じゃなくて木のカードだがな」


 それも初手と関係ない対策カードなら、ドローを重ねるうちに自然と使えるようになる。

 革新的なデッキとまではいかないが、中々に気の利いたアレンジだ。


《アニスがほぼ無力化されてしまいましたね。御影選手、これは苦しい!》


 感心している場合ではない。

『殉教令』の攻撃強制効果でティアラを出す手は完全に消失した。

 Kめ、お前が要らぬ欲をかいたせいで全てが水の泡だ。

 そもそもこちらはビートダウン、普通に殴る手で戦えるではないか。

 無情にもアニスは単機で突貫させられ、しかもカウンターでソニンまで出て来る始末。

 このままでは一気に勝負がついてしまう。


「『黒い羽』をペイして、フォロア発動! 『罪の天秤』でソニンを二体ともアセンドや!」


 伏せカードの正体に、ギャラリーから声が上がった。

 フォロアで使うつもりだったわけではあるまい。

 アニメイトする筈が、コリンのせいで出来なくなっていたのか。

 いずれにしてもこれでフィールド上はアニスとコリンの一対一。

 八汐さん有利に変化はないが、時間を稼いだだけでもかなりのファインプレーだろう。


「しかし、根性ついたなぁ……何かあったの?」


 こういったとき、他人にはどこまで話しても良いものなのか。

 結論として、俺は大筋だけを伝えた。


「因縁のある相手と決闘する羽目になりましてね。連休中ずっと特訓してたんですよ」


 一旦は盛り返したKだったが、その後コリンの殴り返しでアニスはリタイア。

 手札がギリギリでクローナまで繋ぐことができず、Kは結局コリンを乗り越えることが出来なかった。

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