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希望が見えてきたんじゃない? その1

 続く二回戦、三回戦を、Kは危なげなく勝ち進んだ。

 メタデッキ相手のスパーリングは、強さのテストも兼ねて何百回と繰り返しているのだ。 いくらKでも、火金や水木相手に判断を間違えることはない。


《最後のコンテスタントがテーブルについた! とうとう真の頂点を決めるマッチが始まる!》


 トーナメント反対側からは、八汐さんが勝ち上がって来た。

 プレイングをとっても、相性をとっても、間違いなく可哀想女を上回る強敵だ。


《御影選手が攻め一宮選手が守る展開になるので、デッキの強みを活かしやすい分一宮選手が分があるでしょうか》


 わざわざ予想するまでもない。

 昨日練習した時点で、対戦成績1:2という数字が出ている。

 パワー負けしないこともそうだが、最も警戒するべきは『巻き戻し』。

 ティアラを持っていかれるとそのまま全滅しかねない。

 クローナの展開を重視して、後は付け焼刃で投入した『目くらまし』が、どこまで役に立ってくれるかというところか。


「そのうち除去コンに躓いてくれるだろうと思っていたが、アテが外れたな」


 くじ運ならともかく、当たった上で倒しているのだから文句も言えん。

 俺がついこぼした弱音を、アキノリがすかさずあげつらった。


「身内の敗退を期待すんなよ……」


 偽善者め、お前は一体誰の味方だ。

 公平ぶっていられるのは偏に、この試合にかかっている物の重みを分かっていないからに過ぎない。


「Kちゃーん、頑張ってー!」


 それに引き換え、京子ちゃんの純真さよ。

 どちらも頑張れなどという日和見主義は、子供の世界には存在しないのだ。


「アキノリ! お前、身内同士と思って気が緩んでいるんじゃないのか。少しは京子ちゃんを見習ったらどうだ!」


 Kには是が非でも勝ってもらわなければならない。

 俺の新作が衝撃を以て受け入れられるのか、それとも普通のデッキとして発表されるだけなのか。

 一位とそれ以外の差は、天と地、明暗に匹敵するものなのだ。


「フレー! フレー! ヤシオ! フレー! フレー! ヤシオ!」


 裏切ったのか?

 トリシャさんが? 俺を?

 そんな馬鹿なことがあっていい筈がない。

 俺の視線に気づき、トリシャさんは弱々しく震え出した。

 

「いや、裏切る以前に……」


 トリシャさんもブログを持つデッキビルダーだ。

 俺の『第五実験区画』が一世を風靡すれば、必然的にトリシャさんの『夙川日記』は霞んでしまう。

 

「し、師匠……」


 敵。

 最初から敵ではないか。


「ふ、二人とも……」


 今更取り繕ったところで、トリシャさんの望みは明らかだ。

 Kが負け、俺のデッキに土がついてカリスマデッキビルダー・マッシュの地位が揺らぐこと。

 自分の功名の為なら、後足で砂をかけることも辞さない。

 そんな恩知らずを手塩にかけた俺が愚かだった!


「け、K、頑張ってタモレ! 師匠の下に勝利を持ち帰るでオジャル!」


 青筋を立て、声を張り上げて形ばかりの忖度を見せるトリシャさん。

 余りの調子の良さに、流石のKも苦笑いを浮かべている。


「マッシュ、無理矢理Kさんを応援させちゃ駄目だよ。誰を応援するのかは本人が決めることじゃないか」


 八汐さんならともかく、パラガスがここまで強硬な主張をするとは。

 冷たい汗が脇を伝い、こめかみの血管が震える。

 並々ならぬ不穏さを感じ、俺はパラガスに譲歩した。


「……別に強制した覚えはない。少しショックだっただけだ」


 水面下での緊張が収まるころには、第一ゲームは中盤まで進んでいた。

 やはりコリンの壁は厚く、メグが一方的に殴り倒され、天秤で退かせることもできない。

 パワーで勝るクローナが、『巻き戻し』で止められた時点でアウトだ。


《御影選手のイコンが全滅! 攻撃の手が完全に止まってしまった!》


 不味いことに、ここまでKのプレイングはほぼ最善だ。

 残された手と言えば、ミサか『目くらまし』で八汐さんの手を空振りさせることくらいか。

 受けに回った土単は無敵の城塞と言っても過言ではない。


「1ゲーム目はほぼ完封か……相性の悪さがモロに出てるな」


 まるで他人事のように、アキノリは涼しい顔で論評した。

 その程度のことなら、本社から出向したボンクラ解説でも言える。

 大きい顔がしたければ、この戦況をひっくり返す方法を見つけて見せろ。

 現実にはそんな奇跡が起きるはずもなく、1ゲーム目は八汐さんが勝ち取った。


「しかし、いくらなんでも『巻き戻し』はポンポン使え過ぎだろ」


 バウンス、すなわちユニットを手札に戻す効果は、大抵のカードゲームで小技として扱われる。

 相手が次のターンにユニットを出し直すと状況が元に戻るからだ。

 だがcarnaの場合は、リバース後にアニムしたイコンが殴られて立て直せないことが多い。


「エネルギー源が確保されてるTCGと違て、carnaではリバースが――」


 自分の間違いに気づき、ボイジャーさんは論を取り下げた。


「いや、この場合は新しいイコンでガードできひんことが原因やな」


 直接的には、殴り返しによりエネルギー源である最軽量イコンがリタイアしてしまう。

 変動の大きいフィールドからエネルギーを取っているため、carnaでは非常に形勢が傾きやすい。

 イコンを出せるチャンスが、他のゲーム程回って来ないのだ。


「バージョン0.2で名前がバウンスからリバースに変わる前も、散々指摘されてましたね」


 当初からバウンス、現リバースは猛威を振るっていた。

 にも拘らず開発は効果の名前を変え、割り当てを水から土に移したのみ。

 コントロールに於ける水の重要性から使用者そのものは減ったが、問題は頻度ではない。

 根本的にリバースのコスト設定が安すぎるのだ。


「リバースのコストを決めた戦犯は誰だ!」


 俺の問いかけに、ボイジャーさんはすかさず合いの手を入れた。


「カリバーや!」


 そう、全ては兄貴の責任だ。

 せめて『巻き戻し』がコスト4なら、このような厨カードにはなっていなかっただろう。


「プレーヤーがカードに文句つけるなよ。二人ともダセーな」


 タケ兄も『巻き戻し』を使えばいいだけの話だろ。

 ため息交じりで粋がっていたかと思いきや、アキノリは藪から棒に叫びを上げた。


「決まった! コリンを落とした!」


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作中のカードゲーム”carnaTCG”に関しては以下のページをご参照ください
基本ルール コンセプト 最新版カードリスト
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