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いいよ。教えてあげる その7

 間違いない。

 この土壇場で、ミサを引き当てやがった。

 構築でもプレイングでもなく引き運というのは釈然としないが、この期に及んで贅沢は言うまい。


「カードを1枚スタンバイ! 手札から『肉球アニス』と『二刀流のティアラ』をペイして、『負けず嫌いのミサ』をカーナ!」


 ギャラリーが減ったとは思えない、激しい歓声。

 登場時のクリアで、Kはカクテルを墓地に送った。

 目の前には、行動済みのシータがいる。


「『わんぱくクローナ』で手札をアタック!」


 Kは焦らず、クローナを先に動かした。

 メグがペネトレートを持っているため、ガードされなければそのまま殴り切れる。

 可哀想女はガードを強要され、アンヘルを犠牲にした。


「次、『りんごほっぺのメグ』で『碧眼のシータ』をアタック!」


 カクテルのみならず、1ターンで本命のシータを討ちとった。

 だが可哀想女の場には、まだカーニャが残っている。


「運命って、何て残酷なのかしら。お姉ちゃんをぬか喜びさせる為だけに、ミサが山札から出て来るなんて……」


 最後の手札で顔を隠し、肩をゆすって泣き出す可哀相女。

 スポットライトが涙に刺さり、脂ぎった光が弾けた。


「海岸を目の前に力尽きて沈みゆくお姉ちゃん、なんて可哀相なのかしら」


 可哀想女勝利の絶叫に、周りのプレイヤーも思わず振り向いている。

 奴の倒錯した感情表現を間に受けて感動しているのは、ソシャゲ男ただ一人だ。


「クソ……あと1枚、あと1枚手札がありゃ……」


 項垂れるアキノリ。

 悔しいが、もうこのターンに出来ることは何も残っていない。

 ミサがジャックされ、ダイレクトアタックで試合終了。

 試合の結末は、全員の目に明らかだ。

 Kは冷然と可哀想女を睨みつけ、ターンエンドを宣言した。


「あの場面からここまで戻しただけでも頑張った方やで、ホンマ」


 頑張った?

 Kがこの一週間、たったの一週間ではあるが、毎日どれだけ練習していたと思っているのだ。

 

「ボイジャーさんのまとめだって、過去一年の大会レポを片っ端から開けてたんですよ?」


 それが全て、この敗北の為だったというのか。

 なあK、お前、今……


「今、自分の場に目を遣らなかったか?」


 俺が袖を引っ張るとパラガスは俺を見つめ返した。


「伏せカードじゃないかな。序盤から置きっぱなしの……」


 卵を攻撃した為に、フォロアの機会がなくなったカードだ。

 あれが天秤だったとしても、アニスがいない以上何の役にも立たないだろう。


《6番テーブルも終盤を迎えているようだ……蛍選手が若干優勢のようだが……憐選手の場には『人形遣いのカーニャ』! これは勝負あったか!》


 毎度のことながら、事件が終わった後に回ってくる実況だな。

 後は可哀相女がカーニャでミサをジャックするだけだ。

 奴が俯きがちに手を伸ばした瞬間、しかし、Kが大声で遮った。


「スペルや! 『負けず嫌いのミサ』のアニメイトで、スペル『目くらまし』をキャスト!」


 思わず顔を上げ、目を見開く可哀相女。

 クローナが腐りがちだというだけの理由で、夕べ土単対策に入れたカードだ。

 Kめ、やりやがったな。

 それは2枚挿しどころか、ピン挿しのカードだぞ。


《『怖がりロッテ』と『人形遣いのカーニャ』をディアクティベート! 憐選手、勝利を目前に失速!》


 凌いだ。

 俺は手を下げたまま、硬く拳を握った。

 次のターンにカーニャを殴れば、完全な形勢逆転だ。

 今度は可哀相女が言葉を失い、唇を震わせている。


「お前のターン、もう終わりやで」


 Kに指摘され、可哀相女は唇を噛みしめた。

 完全に勝利を確信していたのだろう。

 くどい演技を入れる余裕など、もうどこにも残っていない。


「ターン、エンド……」

 

 Kの逆転に、トリシャさんは早くも飛び跳ねている。

 勝ちが見えた時こそ、最も危険な瞬間だ。

 冷静に、そして慎重に攻撃しなければならない。


《蛍選手、『負けず嫌いのミサ』で『人形遣いのカーニャ』にアタック!》


 近づく。

 攻撃の度に、勝利が、確実に近づいてくる。

 アキノリ達の間にも、静かな熱が滲んでいるのが分かる。


《さらに『怖がりロッテ』がリタイヤ! 憐選手のイコンは全滅だ!》


 Kはそこで手を止め、可哀相女にターンを返した。

 

「『碧眼のシータ』をペイして、『怖がりロッテ』をカーナ……」


 行ける。

 香りが出てこようがアザレアが出てこようがメグの攻撃は止められない。

 Kは1枚カードをスタンバイし、最後の攻撃を始めた。


「『負けず嫌いのミサ』で手札にアタック!」


 ロッテがガードに入り、可哀想女に残されたのは手札1枚のみ。

 クローナの攻撃で最後の手札もなくなったが、可哀相女に投了する様子はない。

 Kはメグを押さえ、そして時計回りにねじった。


「『りんごほっぺのメグ』でプレイヤーにダイレクトアタック! ゲームセットや!」


 歓声が上がり、大画面にウィナーのテロップが表示された。

 赤いクロスの上ではKのカードがライトを反射している。 


「サアサア、皆さんご一緒に! イヤサカー!」


 イヤサカー!

 万歳斉唱ならぬ弥栄斉唱だが、皆勢いだけでトリシャさんにつきあっている。

 人数が倍以上いると思ったら、あれは予選で同じ組だった女たちか。

 可哀相女被害者の会代表が当選したのだから、無理もなかろう。


「弥栄!」


 俺は正しい発音を示し、それから3試合目のメモを取った。


「やったな、タケ兄」


 アキノリはいつものごとく、自分が勝ったかのように調子づいている。


「いや、楽に勝てる相手に、随分手こずってしまった」


 可哀相女は茫然とテーブルを見つめていたが、Kが立ち上がると肩を不規則にゆすりながらテーブルに手をついた。


「ありえない……『目くらまし』は速攻対策だよ? こんなタイミングで……お姉ちゃんに思いつく筈ない!」


 そらウチとちゃうわ。

 Kは声を出して笑った。


「昨日皆で調整してた時、トリシャの奴がゆーとったんや。『ジャックは牽制に見えて実は攻撃手段や』てな」


 場アドをひっくり返さなくとも、1ターン凌ぐだけで反撃のチャンスが生まれる。

 トリシャさんこそは、現代カーゲーム界の英知。

 ただの痛いレイヤーだと勘違いしていた己の愚かさに絶望し、可哀相女は項垂れた。


「蛍さんも勝ったようですね。京子ちゃんのことは残念でしたが」


 後ろから声をかけられて、俺達は八汐さんを振り返った。


「八汐さんこそ、見事なストレート勝ちでしたよ」


 妙に静かだと思ったら、パラガスは他の試合もチェックしていたらしい。

 敢えて謙遜はせず、八汐さんはよそいきの笑顔で答えた。


「ありがとう。この調子で2回戦も頑張ります」


 八汐さんにつられるようにKの方を振り返り、俺は思わず後ずさった。

 可哀相女が、黒髪を振り乱して激しく頭を前後に振っている。

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