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……ウチが今から、それを教えたる! その6

 他の選手達は、既に引き上げ始めている。

 中にはこのままお帰りというプレイヤーもいるのだろう。


「ノゾム、お茶」


 野球帽の女が、ボイジャーさんからミルクティーのペットボトルをひったくった。

 

「行くなら行くで、もっと早く出ればよかったのに」


 これがボイジャーさんの妹か。

 なるほど確かに邪険にされているな。


「ごめんごめん、行ったことない店やから、棚の並びが分からんかってん」


 ボイジャーさんの低姿勢に、見ているこっちが辛くなってくる。

 いかんせん本人の優秀さというものは、家族に伝わりにくい。

 紅茶をラッパ飲みしてから、妹さんは俺達を睨みつけた。


「あー、はいはい。これが例の後輩ね……ったく、一丁前に荷物持ちさせちゃってさぁ」


 コイツもやはり可哀相女の同類だ。

 オタク差別と抑圧の歴史に終止符を打つためには、沈黙と服従とを棄て、八汐さんを真似して声を上げなければならない。


「いつもお世話になってます。カード仲間のパラガスとマッシュです」


 ええい、パラガス。

 その卑屈な態度こそがオタクの解放を遠ざけているのだと、何故分からん!


「あんたらも災難ね。それじゃぁノゾム、私帰るから」


 ビニールのハンドバッグを肩に担ぎ、ボイジャーさんの妹は名前さえ告げずに去ってゆく。


「これからは手首をつかんで叫んでやれ。『皆さん、この人はオタク差別主義者ですよ!』ってな」


 あんな猿の為に、これ以上立ち止まっているわけにはいかない。

 俺達はアキノリの元に引き返し、K達が現れるまで待ち続けた。


「いた。お姉ちゃんたちだ」


 ユキトが手を振ると、Kが気づいて手を挙げた。

 トリシャさんはというと、いつも通り八汐さんに引きずられている。


「カマセに、カマセにされたでオジャル! オノレ可哀相女!」

 

 ずっとこの調子では、八汐さんもさぞかし難儀したことだろう。

 或いは八汐さんでなければ不可能だったと言うべきか。


「トリシャさん、元気出して下さい。勝負は時の運ですよ」


 これ、ボイジャーさんから、差し入れを頂きました。

 パラガスに話しかけられ、トリシャさんの駄々が漸く収まった。


「どーも、『星間受信機』のボイジャーです。いつもトリシャさんの新作、楽しみにさせてもろてますわ」


 絵に描いたようなオタクである以上に、ボイジャーさんは絵にかいたような大阪人である。

 いや、寧ろここまで気さくでやかましいと、オタクのイデアからは多少遠ざかってしまうかもしれない。

 トリシャさんも意表をつかれたのか、素っ頓狂な声を上げた。


「ボイジャー殿、度々ご紹介に預かり、誠にかたじけノウ」


 八汐さんは背中からトリシャさんを降ろし、パラガスから水を受け取った。


「席から一歩も動かないので往生しました」


 やはり二戦目で受けたダメージは深刻なようだ。

 暫くは触れない方が賢明かもしれない。


「災難でしたね。ずっと八汐さんが背負ってきたんですか」


 キャップに手を付けてから、八汐さんはボイジャーさんを見やった。


「ええ……護さん、あの方は? パティの知り合いですか?」


 拙い。

 このままではボイジャーさんがトリシャさんと幸せそうに話す大きなお友達にされてしまう。


「ボイジャーさんといって、まとめサイトでカードブログやFBの記事の紹介をなさってい方です」


 なるほど。

 八汐さんは相槌を打つと、ボイジャーさんと話し始めた。

 パラガスもいることだし、後はどうとでもなるだろう。

 俺は会話から抜け、Kとアキノリに差し入れを選ばせた。


「分かってると思うが、ボイジャーさんにお礼を言うまで手を付けるなよ」


 Kはアキノリから、可哀相女の情報を引き出そうとしていたらしい。

 つまりトリシャさんから大したことを聞けなかったということだ。


「2体手出しは流石に旨くないけど、2ターン目に2体目を出したらそれでターンが終わっちまうしな……」


 そもそもアニメイトできるということは、1ターン目にカーナしたイコンだということだ。

 4枚手札を使って1コストのイコンを2体カーナしたのでは、速攻でもない限りその後の展開に支障が出る。

 小さいイコンにスペースを取られ、デッキ全体も非力になってしまうだろう。

 奴はそんなデッキを使って、トリシャさんを完封したというのか。


「やっぱそれしかないんちゃう?」


 馬鹿な、あり得ん。

 そんな貧弱なデッキが予選を突破することも、手出し以外でイコンを確保する方法も。

 土台がコントロールデッキの初手など、イコンを出してスペルを使ってお終いというのが相場ではないか。


「スペル? あれ? うん……」


 その瞬間、真理が意識の扉を敲いた。

 スペルだ。

 スペルでもイコンは出せる。

 ビートダウンの手口と思って、無意識に選択肢から除いていた。


「アキノリ、スペルだ。奴はエンボディを使ったんだ」


 1ターン目に1体目のイコンをカーナし、そのイコンを使って相手のターンに『金の卵』や『虹の絵筆』を使う。

 これなら2ターン目のはじめに動けるイコンを2体以上確保できる。


「そうか、それでグラニテなんかを出せば……」


 アキノリの顔から血の気が引いていく。


「1ターン目にして手札も揃えることが出来るというわけだが……」


 最速タイミングのエンボディがビートダウン向けとされるのには、しかし、明確な理由がある。

 序盤の事故を避けたり目的のイコンをエンボディにひっかけるため、早出し系のデッキは5枚積みが多くなりがちだ。

 ビートダウンとは違い、コントロールにとってカードを取捨選択する余地が失われるデメリットは計り知れない。


「レンの奴がそんな思いきりのええデッキ使うとも思えんけどな……一番最初に使うスペルか。まずはそこ狙ってみるわ」

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