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……ウチが今から、それを教えたる! その4

「八汐さんと京子ちゃんもストレート、トリシャさんは1ゲーム落としたが、1ゲームなら直接対決でいくらでもひっくり返るな」


 無論黒星をプレゼントしなければならない相手とは、あの可哀相女である。

 トリシャさんのグループでは許しがたいことに可哀相女が単独トップ。

 これをトリシャさんと知らない小学生が追いかけるという屈辱的な展開だ。

 Kとは違い、トリシャさんには世界中のインテリ、いや、オタクの代表としての責任がある。

 本人としても、絶対に譲れない勝負と位置付けているはずだ。


「ごめん。ここからだと京子が見えにくいから、僕達はそろそろ席替えさせてもらうよ」


 拝み手をするファインマン3世に、俺は小さく頷いた。


「いえいえ、せっかくの応援なんだから、顔見えるところ行って安心させてあげて下さい」


 普段ならこういう意味のない話はパラガスの担当なのだが、仕方あるまい。

 次あたりトリシャさんと可哀相女が当たるのではないかということで、当人が話し込んでいるのだ。

 ファインマン3世は何故か訝し気に俺を見つめ、何度か瞬きをした。


「じゃあ、また後で。何か異常を感じたら、放置せずに診察を受けるんだよ」


 蛍君の健闘を祈る。

 ファインマン一家は、軽く会釈を残して反対側の席へと旅立って行った。

 俺もKの近くに移動するべきだろうか。

 俺がK、パラガス達がトリシャさんと八汐さん、分担して観戦すれば後から詳細を報告し合うこともできる。


「まあ、Kのブロックに気になるプレイヤーはいないんだがな。」


 それに実のところ、一番移動距離が短いのは俺だ。

 Kの真横に陣取ると、俺はテーブルの上に目を凝らした。

 このマッチも既に3ゲーム目、場に出ているカードはKの方が多い。

 今のところ、ブロック内で全勝を保っているのはK一人。

 店舗大会しか参加したことがない割には、落ち着いてプレイできているようだ。

 最後まで殴り切ると、Kは観客席を見渡した。


「よそ見してる場合か! まだ半分以上残ってるぞ!」


 わざとらしく顔を背け、対戦相手に挨拶するK。

 緊張し過ぎて判断力を失うよりはマシだが、慢心もやはりミスの元である。

 さっきのアドバイスを、早くも忘れていなければよいのだが。


「タケ兄」


 アキノリに不意を突かれ、俺は思わず首を釣ってしまった。

 恨み言をくれてやったが、アキノリは何も言い返さない。


「何だよ、勿体ぶるなよ……俺はそういう無駄な演出が嫌いなんだ」


 トリシャさんのデッキは恐らく水主体のコントロール。

 魅せコンボに拘ったとしても、除去やハンデス使える分ビートダウンより遥かに可哀相女のデッキと戦いやすい筈だ。

 たとえ一矢報いられてしまったとしても、2勝は上げられるだろう。

 ところがアキノリの白状した結果は、予想し得る最悪の事態を超えていた。


「いや、本当にダメだった。トリシャさんは一本も取れなかったよ」


 馬鹿な。

 トリシャさんは世界でも俺の次に優秀なデッキビルダーだぞ。

 ネタに走って取れる試合を落としたりすることは偶にあっても、地力で素人に遅れをことなどあり得ない。

 硬い首筋が軋み、脇の下を冷たい汗が伝い降りる。


「ば、馬鹿も休み休み言え……そんな出まかせに俺は騙されんからな!」


 俺が叫んだ直後、第二試合の終了が告げられた。

 画面が切り替わり、各ブロックの途中経過が順番に表示される。

 Kは12点を確保、八汐さんも12点、可哀相女も12点。

 その3つ下に、トリシャさんの名前がある。


 No.16、パトリシア・ドートリッシュ……4P。

 

 何だ、俺は悪夢を見ているのか。

 2試合終わって4点では、諦めずに戦い抜いたとしても可哀相女が10点とった瞬間そこで試合終了ですよ。

 トリシャさんこそネタ師の星、ビルダーの鑑。

 何の見せ場もないまま、咬ませ犬のように消えてよい人物ではない。


「こんな不条理が許されるものか。こんな出鱈目がまかり通るものか。狂っている! 世の中が! 全て!」


 俺は腰壁のへりに、両の拳を叩きつけた。


「落ち着けって。そりゃ、何かの間違いだって、俺も思いたいけどさ……そんな筋少みたいに駄々こねてど-すんだよ」


 物言いが付き取り直しか? それこそインチキじゃねーか。

 アキノリは身の程もわきまえず、俺の肩を掴んで説教を垂れた。

 リアル中二の癖に、悟り切った年寄りみたいな屁理屈を捏ねやがって。


「金賞? 撮り直し? 何を言ってるんだ! この敗北主義者め!」


 これが神の采配だというなら、俺も神の実在を認めてやろう。

 滅ぼすべき、諸悪の根源として。

 貴様が祭り上げられたあらゆる高みからその名と偶像と権威とを引きずり下ろし、二度と地上に現れ出ぬよう、蛆湧き腐り果てた冷たい忘却の泥濘に沈めてくれる。

 今日から俺もグノーシス主義者だ!


「信じようが信じまいが、結果は結果だ。俺達は全員この目で見てる」


 アキノリが余りにもしつこく睨み続けるので、俺は仕方なく譲ることにした。


「それで、一体奴は何をした? お得意の卑劣な精神攻撃か? 日和って除去コンに飛びついたのか?」


 それならコンボデッキはカモにできるかもしれないが、この会場のトップメタは火金だ。

 可哀相女には可哀相だが、奴は判断を誤ったとしか言いようがない。

 

「それが……今日もジャックを使ってるみてーなんだ。可哀相女がトリシャさんのイコンを指した後、トリシャさんが手札を捨てられてた」


 状況証拠に基づく情けない憶測に、俺は思わず溜息を洩らした。

 この目で見たなどと豪語した割に、実際は遠くて良く見えていなかったのではないか。

 それが証拠に、アキノリはとうとう訳の分からぬ世迷言を口走り始めたのだ。


「けど、問題はそこじゃねーんだ。トリシャさんのイコンがジャックされたのは、2ターン目のアクティブフェイズだったんだ」


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