なんて可哀相なのかしら! その2
女に手を挙げておいて、「何してくれちゃってんの」とはご挨拶な。
俺がいくら寛大でも、覚醒して無双せずにはいられない。
「それはこっちの台詞だ! このDQNめ!」
俺は肘をつき、首だけを起こした。
うろたえていたパラガスが我に返り、俺たちに駆け寄る。
「Kさん、大丈夫?」
パラガスめ。
少しは俺の心配もしたらどうなのだ。
遅れてアキノリ達も集まり、グロッキーなKを引き起こした。
パラガスの助けで脱出し、俺はKを振り返った。
「ええい! K、早く立てって!」
床に座ったまま、Kは無限遠方を見つめている。
見たままの事実でも、彼女の一言は覿面に効いたらしい。
山猿よろしくエキサイトしていたKが、完全にフリーズしてしまうとは。
先日まで自分の狙っていた男と、自分を突き飛ばした妹の彼氏が前頭前野近辺でバッティングしているに違いない。
「しっかりしろ! おい! 悔しくはないのか! おいってば!」
肩を揺さぶって初めて、Kは鈍い反応を見せた。
「うん……」
そこで肯定してどうする。
頼むからいつものように「何やとワレ!」とか「ドタマかち割ったる」とか言ってくれ。
俺たちが手をこまねいていると、後ろから硬い足音が近づいて来た。
「大丈夫? お姉ちゃん」
俺とKの間に割り込み、Kのダメージを確認する淫売。
ご丁寧に両手を握り、心配そうな顔まで作ってやがる。
偽善もここまでくると、いっそ清々しささえ感じさせるな。
「私たちと一緒に帰ろ? ね?」
それは当初の作戦通りミッションコンプリートという意味か。
堂々と勝利宣言されているというのに、Kは淫売の手を借りて立ち上がろうとしている。
もはや敵と味方の区別さえつかない状態なのだ。
「やめろ、K! そいつは敵だ! 人間の形をしているだけだ!」
俺の説得も空しく、Kはそのまま立ち上がってしまった。
何と惨い。
人間性を根本から破壊する、正に悪魔の所業である。
DWDのカードでいえば、3か月で禁止された『狂言』に匹敵するえげつなさだ。
淫売の策略によって完全に打ちのめされ、なすがままに連行されるかと思いきや、Kは突如として淫売の手を振り払った。
「そんな……どうしてなの、お姉ちゃん? みんなお姉ちゃんを心配して……」
白々しく被害者を演じる淫売に、Kは俯いたまま答えた。
「……御免や」
よく言った。
そのズタボロの心で、よくぞ抗った。
そうだ。こんな頭の沸いたDQN共の言うことに、耳を傾ける価値など微塵もない。
意地を見せたKに対し、淫売は業を煮やすどころか、無邪気な笑顔で煽って見せた。
「ああ、そっか。お姉ちゃん、あれが欲しかったんだね」
淫売は、自分のカバンの中からファッション誌を取り出した。
間違いない、Kの持ってきた号だ。
「先月の、これでしょ? carnaクインズカップ? 入賞したらドレスがもらえる大会」
まるで心の内を読まれたかのようにうろたえるK。
そんなことで驚いてどうするのだ。
それ以外の仮説が立てる方が、むしろ困難を極めるではないか。
俺はKと淫売の間に割って入り、背中でKを庇った。
「分かりやすくて結構だろ? そういうわけで、コイツにはまだ練習があるんだよ。悪いね」
Kを抱え、俺はじりじりとに後退した。
どうせ淫売は無理だの止めておけだの連呼するつもりだろうが、carna界最高のビルダーは俺なのだ。
こんな連中、正論だけで追い返してくれる。
「分かった」
そら来た。
俺が身構えて振り返ると、淫売はおかしなことを言いだした。
「じゃあお姉ちゃん、私と勝負してよ。私が勝ったら、私たちと一緒に帰って」
馬鹿な。
賭け勝負だと。
「私まだ初心者だし、私に負けちゃうくらいじゃ、大会出てもしょうがないでしょ?」
淫売は言う通り、カードをやる人種には見えない。
Kは曲がりなりにも俺が鍛え初めて3週間、一応程度にメタゲームも把握出来ている。
にわか仕込みの上にDQNがお遊びでかじった程度の腕前では、淫売に勝ち目はないだろう。
この勝負、もらった。
俺は淫売の言質を取った。
「それ、Kが勝ったら、引き下がるって意味かよ」
ええ、勿論。
変わらぬ0円スマイルで答える淫売。
そうと決まれば話は早い。
俺はKの耳元で囁いた。
「K、行けるぞ。あいつを捻るくらいなら、お前でも楽勝だろ」
何といっても、Kには俺のデッキがある。
Kも小さくうなずき、淫売と向き合った。
「ええやろ。勝負したるわ、レン」




