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キュウキュウニョリツリーッ! その6

 ライブラリーアウト。

 それは男のロマンである。

 コントロール同士が事なかれ主義で攻撃を見送ったり、泥仕合の末の粘り勝ちのことを言っているのではない。

 コンボやループを駆使して、あっという間に相手の山札を削り切る驚き。

 それがライブラリーアウトの面目なのである。


「なんでこの場面でLO狙いなんだ?」


 俺は誰に尋ねるでもなく、問いだけを放り出した。

 

「きっと――いや、やっぱり好きだからじゃないかな」


 きっとの続きが猛烈に気になるが、俺にはそれ以外の理由は思いつかなかった。

 何と言っても、利益が全くないのだから。


「このまま止めを刺してもらえると思ったら、大間違いでオジャル! マロに一番弟子の座を返し、師匠に二度と近づかぬと誓え! 誓わぬなら……」


 案の定トリシャさんは、悪代官ごっこを満喫しているようだ。

 敵に捕まって攻め問いはくノ一AVの定番だが、くノ一が拷問役に回るのというのは中々斬新なアイデアである。

 グラドル崩れとは比較にならないトリシャさん渾身の演技にのせられ、とうとうKまで必死に抵抗し出した。


「舐めんなやワレ! 誰が諦めるかい! こんなところで、こんなところで……」


 そういえば、これは一応、JK同士による第一回俺・争奪戦なのだった。

 俺の弱みを握っている以上、Kが必死になる理由はないのだが。

 溜息をつきかけたとき、しかし、ある推測が天から舞い降りてきた。

 

 もしや。


 トリシャさんは知っているのではないか。

 俺がKに脅されていることを。

 無理やり協力させられていることを。

 たとえ俺一人を言いなりに出来たとしても、人前で近づかないと宣言してしまっては俺を常に拘束することはできない。

 それを全て分かった上で、トリシャさんは恥を忍び、残念極まりない中二病日本カブレを演じているのだ。


「卑怯だぞ!」

「鬼! 悪魔!」

「Kちゃんをいじめるな!」

「らめぇぇ! そこらけは許しれぇぇ!」


 黙れお前ら、トリシャさんが俺のために戦っているのが分からないのか。

 リクエスト通りのブーイングが飛び交う中、俺は独り声援を送った。


「頑張れトリシャさん! あと少しだ!」


 トリシャさんの味方は俺だけだ。

 俺の味方はトリシャさんだけだ。

 トリシャさんだけが、俺をKという怨霊から解放してくれるのだ。


「オラ、Cタケ! 裏切りよったな!」


 裏切ったとは人聞きの悪い。

 もとよりお前は俺の敵ではないか。


「師匠、ゴ覧下サレ、これがマロの編み出した新奥義、『怨十貫痩菓子(うらみじっかんやつれがし)』でaiiiii、オジャル!」


 トリシャさんは俺の声援にこたえて立ち上がり、ギャラリーに向かって大見得を切った。


「ちとせと巴の命を糧とし、式神ソーダに捧げん! さあポピー、今宵も一つ同胞の命が消えたでオジャル! 余命を数える時の灯、容赦なく吹き消すがヨイ!」


 トリシャさんは自分の山札を5枚墓地に送り、Kにも山札を捨てさせた。

 恐らく本来はソーダ以外の4枠をスイーツで固め、一気に爆破して山札を削り込むデッキなのだろう。

 今の盤面でも、ラムネッタとポピー自身を自爆コンボに巻き込むことで最大15枚削り込むことが可能だった。

 

「貴様の命運は山札と共に、後三回で尽き果てるでオジャル……今ならまだ間に合うでオジャルよ?」


 だがこれでも、Kはトリシャさんの説得に応じない。


「誰が! はよソーダの効果を終わらせんかい!」


 トリシャさんはさらに二匹目のラムネッタとちとせを墓地から呼び出し、ターンを終えた。

 トリシャさんの防衛ラインは、堅固になる一方だ。


「ウチのターン、ドロー! うさみみアリスをカーナ!」


 無駄なあがきを。

 ラムネッタの餌食になることくらい、Kにも分かっている筈だ。


「ラムネッタの命を糧に、呪いでアリスを道連れにするでオジャル……もう後がないノウ、小娘。素直になれば見逃してやるでオジャルよ?」


 もう一度ポピーの効果が入れば、このゲームは終わってしまう。

 歯を食いしばるKを見つめながら、パラガスは小さく首を振った。


「僕のせいだ……一番弟子なんて言わなければ、こんなことにはならなかったのに」


 何を残念がることがあるだろう。

 明日からはKの代わりに、トリシャさんが来てくれるだけのことではないか。

 いや、せっかく隣り同士なのだから、校門前で待ち合わせて一緒に帰ってくればいいのだ。

 知らないヤツが見れば、お似合いのカップルに見えないことも無いだろう。


「感謝するよ、パラガス。お前のお陰で厄介払いが出来たんだからな」


 そうとも、いつぞやKに肩入れした罪を、これで帳消しにしてやってもいい。


「ウチのターン、ドロー! カードを一枚スタンバイ、メグをカーナ!」


 さらばだ、K。

 俺はトリシャさんと一緒に全一を目指す。


「……強情な。呆れてものも言えないでオジャル。ヨイヨイ。降参せずともマロが直々に引導を渡してくれヨウ。マロが勝ったら、最初の約束通り師匠から身を引いてもらうが、ヨイな?」


 トリシャさん最後の警告。

 多勢に無勢のフィールドを見下ろし、Kはかすれた声で答えた。


「好きにせえ……」


 これで本当に終わりだ。

 Kによる支配も、灰色の高校生活も。

 俺は長いため息をつき、トリシャさんを見守った。


「ラムネッタの命を糧に捧げん!」


 いや、待て。

 何かあと一つ必要なものがなかったか。

 二人の山札に目をやり、俺は恐るべき事実に気付いた。


「ラムネッタよ、メグを呪い殺せ! さあポピー、この愚か者に止めを……」


 トリシャさんの山札が、残り3枚しかない。

 途中で山札回復するのを、完全に忘れていたのだ。


「両者ライブラリーアウトにより、試合続行不可能! トリシャさんのターンなので、Kさんの勝ちです!」


 パラガスがちゃっかりと宣言すると、拍子抜けしたギャラリーは互いに顔を見合わせた。


「え? 終わり?」

「……多分。LOでしょ?」

「マジかよ」


 さっきまでの熱気はどこへやら。

 聞こえてくるのは戸惑いの声ばかりだ。


「何? 勝ったん? ウチ」


 当のKは、自分の顎を指さしながら、答えてくれる人を探している。

 訊きたいのはこっちの方だ。

 あの一方的なゲームで、なぜトリシャさんが自滅するのだ。

 こんなことがあってたまるものか。

 

「口惜しや……メインさえ、メインさえ召喚していれば」


 対するトリシャさんは頭からテーブルに崩れ落ち、蓮華咲き乱れる泥沼に沈んだ。

 髪留めの蓮華が絹の蓮華と並び、ピンク色の輝きを放っている。

 ちゃんと山札回復は入れていたようだが、それを忘れるあたりがこの人らしいというべきか。

 出鱈目な幕切れを誰もが扱いかねている中、パラガスが静かに歩み出た。

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