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駆君と翔ちゃん


(かける)。それじゃ、勝負だよ」

「いや、しないし」

「駄菓子屋【まっちゃん】まで、全力疾走。競争しよう!」


「は? 神社から、町まで? (しょう)、お前はどこまで脳筋だよ?」


「脳筋って、女の子に言う言葉じゃないよ、駆」

「女の子って認識はあったんだな」

「負けた方が、奢ってね。よーい、ドン」

「お前、それきたねー! フライングスタートとか、ズルだろ」

「ふふん♪」


 楽しそうに翔は笑う。

 いつも、神社で待ち合わせて、こうやって子どもみたいに、はしゃぎまわる。

 この小さな田舎町で、駆と翔は名物になっていた。


 ――お稲荷様が祀られたこの神社が、集合場所。


 イツから、この関係が始まったのか。正直、憶えていない。

 いつのまにか、翔がいて。隣りにいるのが、当たり前で。


 色気より食い気。天真爛漫。無邪気に笑って。

 でもこの自由さに惹かれている男子が、両手では数え切れないほどいるのを、駆は知っていた。

 妬ましい視線も、翔の笑顔を見ていたら消し飛んで。


 駆も、遅れてダッシュする。


 翔に鍛えられて、この山の中を駆け回ってきた。そんじょそこらの同級生には負けない自負はあるのだが、翔の脚力は、遥かに上回る。

 彼女にかつのは、至難の業だ。ましてフライングスタートされたら、勝ち目はない。

 それでも――駆は彼女を追いかける。

 その背中を。


 小川を飛び越えて。所々、岩を踏み台にしながら。

 木々の間を縫いながら。

 斜面を駆け下りて。

 徹底的に近道を研究して、彼女に追いつこうと必死で。


(バカみたいだな)

 と思う。

 勝負はどうでもよくて。

 彼女を見失ったら、もう会えなくなる。そんな錯覚すらおぼえて。


 ――もう会えなくなる。


 そう翔が言ったのはイツのことか。

 納得できない駆は、ムキになって勝負をしかけた。それが延々と続いている。今や、翔はそのことすら忘れているんじゃないかと思う節すらあった。


 ――俺に圧勝できたら、そうすれば?


 何様だ、と自分でも思うけれど。

 だから負けられないし。負けるつもりは無い。徹底的に近道をして、俺は走り抜けた。


 滝の裏側の洞窟を抜けて。川に飛び込んで。

 その流れに身を任せて。加速させて。

 太陽の光を受けて。水面がキラキラ、乱反射するのを尻目に。

(今度も絶対、負けてやらねぇ)




■■■




「ま、また負けたー。駆、最近、早くない?」

「ズルしても勝てないとか。お前、遅すぎない?」


「むー。そういうこと言ってー! 絶対、今度こそ勝つからね! おぼえとけー!」

「はいはい、アイスキャンディー、奢ってやるからそんなに熱くなるなって。暑苦しい」


「餌付けしたら、機嫌が治ると思ってるんでしょ、駆は?」

「オモッテナイヨ」


「何故、目をそらしたし?」

「なら食うな――って、お前俺の分まで食うなよ!」


「ふふん、間接キスだね」

「お前、そういうこと、平然と――」


「あれ、駆君、可愛い私に意識しちゃった?」

「してねぇし!」


「顔が赤いのは何でかなぁ?」

「日に焼けただけだし!」


「まぁ、そういうことにしてあげるねー」

「だから俺のを食うな。自分の食え!」

「はい、どうぞ?」


 翔がアイスキャンディーを差し出す。ピタッと駆は動きが止まった。


「違う味も楽しみたいでしょ?」


 にっこり笑って。


「……」

「お前、こういうこと、他のヤツにするなよ」

「駆にしかしないけど?」


 にっこり笑って、そう言う。駆は自暴自棄気味に、翔のアイスを口につけた。

 ひんやりとして。レモンの酸味が、口の中に広がって。

 チラッと、翔を見る。


(お前だって、顔が真っ赤じゃんか)


 おまけに、と思う。狐の尻尾が見えてるぞ、翔。

 見ないようにしながら。目をそらしながら。パタパタ振る尻尾は、あからさまに上機嫌を示していて。


「美味しいね、駆」

「そうだな」


 脳天気な翔を尻目に、駆は小さく息をつく。こっちの気も知らないで――。

 四人いた幼馴染。いつから五人に増えていて。それを認知しているのは、駆だけで。

 だいたいにして、この狐は無防備すぎる。

 駆は、もう一度小さくため息をついた。タオルで汗を拭いてやる素振りを見せながら、その尻尾を隠す。翔は全く、それに気づいてなくて。


(世話がやける――)






 お稲荷様との夏休みは、まだまだ終わらない。


Twitter 夏目翔さんの(witterアカウント @kmo_nob)が

描かれたイラストに触発されての書き下ろし。

もふもふ要素+甘酸っぱさlove+ボーイッシュガール+ウソは苦手をテーマになぐり書きしてみました。

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