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焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。


 うたた寝をしていたらしい。焼ける匂いがして。妙に空腹を誘う。生地を一生懸命、こねていたその姿を尻目に。


 宮廷では、何も気にせずとも、料理が出てきた。


 毒味に重ねる毒味で、冷えたスープや、固くなった最高級の肉を噛みしめて、味なんか感じたこともなかった。


 私は一度、殺された。

 もうこの世には、いないはずの人間だ。


 魔女は、そんな私を見やりながら「足掻け」という。ニンゲンのくせに魔法の才能があるのだから足掻け、と。食欲を、本能を刺激して、食らえと。


 肉の焼ける匂い、酒の香り。

 王子であることを殺してから、はじめてこの世界には、こんなに美味しいモノが溢れていると知った。


 パンだって、そうだ。

 これだけ手間暇をかけて、発酵させて。丁寧に焼き上げて。そしてできあがったパンが、なんて美味しいことか。今から、口の中に涎が広がっていく。

 魔女は鼻を鳴らして、苦笑する。


「うまいものを食いな。そして今は育つことを考えるんだよ。食わなきゃ、魔法だって上手くならないからね」


 銀髪の彼女は小さく笑む。生娘のようでありながら、粗野な言い方とのギャップに面食らうが、まぎれもなく400年生きた魔女なのだ。この国の歴史を知る生き字引だ。


「食いな。そして生きな。生きることを知って、それができたら魔法使いになれるよ」


 魔女は笑む。

 意地汚く、食う。そして生きる。飢えたように魔女から魔法を学んで、そして、生きたいと願う。それで良いんだよ、と魔女は微笑んだ。












 魔女は笑った。

 生きることを諦めていた子が、腹を鳴らす。今は、それで良しとしようじゃないか。ねぇ、アンタ?

 愛した先代の王の名前を呼びながら。自分の息子を、こうして見やりながら。

(悪くないね)

 残りの寿命全て、あんたとの約束に捧げてやるさ。


診断メーカー #not恋愛な書き出しお題

「尾岡レキの小説の書き出しは『焼きたてのパンの匂いが漂ってきた。』です」

今読み返すと、not恋愛とは言えないきもしなくも……ではありますが。よしとしよう。よし!

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