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むこうがわ
天井に小さな窓が一つ。何年、ここに閉じ込められているのかも忘れてしまった。人間につかまったのが運の尽きだったと思う。寿命が長い翼人族にとっては、苦痛でしかない。
羽根を広げることにも苦労する狭さで。なびかない少女にしびれをきらした貴族は、その顔に硫酸をぶちまけバケモノと罵る。それでお終い。他者との接点は、小間使いの少年のみで。彼が食糧を運んでくれるが、まるで食欲がわかず。また空を飛べたら――そんなことばかり思う。
「姉ちゃん」
窓を乱暴に金槌で叩き割って、声をかけたのはあの少年だった。
「え?」
「姉ちゃんなら、逃げられるだろ?」
少年の言葉に答えるより早く、羽根が動いた。
彼の手をつかんで。
twitter300字SS 第59回参加作品。
テーマ「窓」でした。




