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命の水
水が滴る。滴が落ちる。その瞬間を正視できたのも、ほんの刹那で。直視すらできない、激痛が俺を襲った。
「意識がまだあるか?」
白衣の男は、興味深そうにデータの変化を追いかける。
体が内側から灼け、激痛が体の中を駆け巡る。その様を尻目に、男はさらにタブレットをその指でなぞっていく。
「普通はこの段階で細胞が死滅するんだが、君は耐えるんだな」
この男はなにを――。
この実験に成功したら、君は優秀な遺伝子保持者として、国から保護を受ける。もし失敗したとしても、全て貴重なデータだ。君の命含めて、その全てを保証しよう――。
「もう少し、生命の水を追加するか」
ヤツは楽しげに、笑みを浮かべた。
第54回Twitter300字SS参加作品。
テーマ「水」でした。




