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前世の忘れ物
砂嵐が脳内を駆け巡って、思考が空っぽになる。
――皇姫様はこちらに。
燃え上がる城下、阿鼻叫喚の地獄絵図から視界を背けさせようと、騎士団長は必死で。
どうして、民が根絶やしにされようとする中で、私だけが生き残れるというのか。
――血を絶やす事はなりません。
騎士団長の意思は固い。
――これは私の希望です。あなただけは、生きて欲しいのです。
犬の散歩をする二人が立ち尽くす。
目の前の彼は茶髪で、耳にピアスと、いかつい記憶のあの人とはまるで違って。
一方の私だって、姫なんて不相応なおばちゃんでしかない。でも放心したように、彼があの時の私の名前を呟いたのは、空耳じゃなかった。