表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅のエッダ  作者: 生烈
3/14

ストーキング

突然かつ、強引な出会い方だった。

そもそも、その男は少しでも触れたいがためにわざとぶつかってきたのではないか、下心のためにわざとそうしたのではないか。

そう思うほどにやらしい手段であった。


中学3年生、綿陽わたよう みどりは学校の坂を下っていた。

先週から鬼の奇襲が頻発し、学校は1週間ほど休学になったのだが警備隊のパトロールと結界の強化がうまく運用され、学校が始まることとなった。

日が沈み、金星が瞬く。

こんな遅くに帰ることになったのは今日こそ本当に日直担当だったからだ。

早く帰らないと、と空腹を押さえながら足早に歩く。


だが突然、目の前に障害物が現れた。

かといってコンクリートのように硬いわけではない。冷たいわけではない。


「ぶわっ!」

後ろによろめきそうになったのをその障害物が支えた。

腰に回る腕。驚いて顔をあげようとすると驚く程赤い目がみえた。

顔は若いといえば若いが、せいぜい20代後半か30代の顔をしている。


「ご、ごめんなさ…」


どういうことなのか、事情はわからないけれど服が黒いため、暗闇でみえなかったのだろう。

そのように判断して改めて服を見れば市民はおろか眷属神が着るはずのない、西の格好をしていた。

首に動物の尻尾、黒い光沢が目立つV字のコート。見慣れない衣装で目を奪われるが綺麗な衣装は高貴な存在であることをよく表している。


とにかくこいつは市民ではければ眷属神でもない。


『鬼』であるとわかると頭がサッと冷えて離れた。


呼吸が荒れる。


「綿陽…」


低く、かつ、確実に

言葉が届くように男は言った。


「緑…だな?」


そこらの鬼とは違う、正確な言葉としっかりとした体。

さらに最上位の鬼であることもわかった。


「っ、な、何…!何なの…!!」


「落ち着け」


(落ち着けるか!)


緑は鬼に2度殺されかかっている。

鬼に対して過剰に反応してしまうのは仕方のないことだ。

この鬼は武器を持っておらず、手ぶらてあるのはわかったが、だからといって油断はできない。


「余はお前をとって食おうとは思っていない」


鬼が人を襲うところは何度もみている。

それでなくとも鬼は人を襲うものだという先入観を持っている。

これは緑に限らず全員が持ち合わせているものだ。


嘘だと緑は思う。


「お前に二つ、話がしたい。

答えが聞けたならば潔く帰るとしよう。」


まず一つ。


「最近、この東の地にて同胞が悪逆の限りを尽くしているのは知っているな」


緑は泣き出しそうだ。

話を聞いているどころではない。


「それに余は困っておる。」


「……困って…?」


鬼であるこの男にとって人間と眷属神が死ぬことは喜ばしいことではないのか?

恐怖が少し追いやられて疑問が残る。


「そうだ。ただでさえ国が疲弊しているにも関わらず頭の狂った者共が次々に東に向かい、虐殺している。

他にも諸々の事情があり、困っているのだ。


それを、余と手を取り協力して追いやり、原因を突き止めてほしい。」


「は…?へ?」


「そして二つ目。

どちらかと言えばこちらが本題だ。」


ぎらりと赤い目が緑の体を射抜くようだった。

すくんでしまって動けない。

呼吸もその間止まっていた。




「余と婚約するがよい!!」




予想外の言葉と、人懐っこそうな笑みと、空気のぶち壊し具合に思わず言葉を失った。


「……?」


「…聞いていなかったのか?」


「いや、聞いてました。聞いてましたけど…あの、腑に落ちないです」


「そうか…腑に落ちぬか。

どこら辺がだ?」


(えええぇぇ…)


明らかに、もう、すべてにおいて、腑に落ちない。

理解しがたい。


「じゃ、じゃあ、質問いいですか?」


「答えられるものであれば答えよう」


おずおずと挙手してまで聞いたがあっさりと受け入れられる。

一体この鬼は何者なんだ。

というか何故、突然求婚をするのか。


「えーと、その、鬼を、捕まえる?ことと、求婚されたこと、

何か意味あるんですか?」


「ありまくりだ馬鹿者!

余と緑が婚約することで、新たな時代の幕開けにもつながるのだぞ!!」


(いや、新世界はお一人でどうぞ)


頭のおかしい鬼であっただけか。

緑はどうやってこの局面を切り抜けようかと悩む。


「では、なぜ私なんですか?求婚にしても、もっと可愛い子いると思うんですけど…」


「余が決めた。余の嫁はお前がいい。」


(え~~!?もうわけわかんないこの変態~~!!)


緑も口調があきらみたいになるくらい、わけがわからない。

ここはさっさと警備隊を呼んだほうが良さそうだ。

背負っているバッグにそろりと手をのばす。

携帯で警備隊の公共電話にかけるだけでもするべきだ。



「質問には応えたぞ。

今度はお前が余の求婚に答える番だ。」


(ひええぇええ~~!!?)



こんなぶっ飛びやろうに話を合わせるほど緑の精神力は強くない。

ぶっ飛び求婚のせいで警備隊に連絡することも忘れて頭が真っ白になる。

というより、仮にも相手は鬼だ。

真面目に考えたって生理的に嫌である。

求婚にその場しのぎで応えても、後で絶対に厄介なことになる。

西に攫われても文句は言えなくなるのだ。


であれば人間の尊厳が守られた状態で、死ぬのがベスト。

血走った目で緑の思考は終わった。


「あの!」


「うむ」


「大変!!申し訳!!ないのですが!!断らせていただきます!!」


「なぜだ」


(そう返しますか~~!!!)


自分の顔面を殴りたい気分になる。

しかも先ほどと少し空気が違う。

見世物を見るかのような目だ。


(ていうか、断ったのにこの人、まだ笑ってる)


緑の予想は、怒るか泣くかだった。泣くはありえないにしても、とりあえず怒るだろうと。

だが予想に反して笑っている。

何がそうさせているのかわからない。


「早く答えろ」

「えっ、あのっ」


考えがまとまらず、うまいこと言えない。

答えの催促も、ただのそれではなく、圧倒的なプレッシャーを感じた。

言うならば、権利者の威厳。この場の有権者はあちらだった。

けど、何故か妙なことに恐怖は零に等しくなっていた。




「わっ、私あなたのこと知りません!!」



言い終わったあと、私死んだ、と確信する。

口調からして偉そうだ。つまり、事実偉いのだろう。

そんな人は大抵、知らない人間を殺す。またまた先入観が働いた。

冷や汗が流れ落ち、首が落ちるのを今か今かと待つ。


しかし、耳に届いたのは笑い声だった。


「っぶ、っはっはっは」


(は?)


「それもそうだ。名前も知らぬ男の求婚を受ける者がどこにいるのやら。」


余としたことが、すっかり忘れていたと呟いて、何度も何度も、そうだった、と言うのだった。

ひとしきり笑い終えて、キリっとした表情で緑に向き合う。



「余の名はフェンリル

覚えておけ、緑」


「へ?は?」


「今夜はこれにて去る。

また会おう。」


足元から闇が這い出て、フェンリルと名乗る男を包んで消してしまった。


一体何だったのだろう。

最後の笑い声でいろんなことが吹っ飛んで、混乱しながら家について次の日を迎えた。




冷静になれたのは学校の、屋上へ登る階段付近だった。

とにかく校内はこの間のことでどの生徒も先生も落ち込んでいた。

学校のチャイムだけが鳴り響く校内は、いつもの学校とは思えなかった。


緑はそれどころではなく、昨夜現れた男のことを考えていた。

思えば奇抜であったものの、鬼の割にはいい服を持っているではないかと評価する。


(っていうか、どうして私が求婚されなきゃいけないの…)


理由を聞いても理由になれない言葉を返された。

二度と会いたくはないがもしもう一度尋ねても、同じ答えが帰ってくるだけで意味がないと確信する。

階段に座り込み、両頬を両手で支える。


「はぁ……」


厄介な鬼に目をつけられたものだ。

しかし、当分は会うこともないだろう。それにここは学校の中だ。

結界も強化された今、鬼が侵入することはまずない。




不可解な音が聞こえた。

耳障りな音と言えばそうなのだが、擬音としても例えようのないものだ。


それは背後から聞こえた。

昨夜フェンリルが去った時にもこの音がした。


後ろを振り向くと黒髪、全身黒、右肩から下がる白い獣の尾、真っ赤な瞳の色。


「ふああぁあああ!!?」


腰が抜けて階段の踊り場で尻を床につけながら後ずさりする。

突然の登場と、昼の光のおかげで改めて全体像を視認できた。

どう考えても緑にとっては悲鳴以外の言葉が出なかった。


「む、どうした?余に会えて歓喜の悲鳴を上げるほどに嬉しかったか?」

愛い奴め、とかのたまいやがるが緑にとってはただの迷惑である。


「いいい、一体何しに…!!」

「嫁に会うために理由がなければいかんのか」

「嫁!!?」

「ちと犯罪臭がするのは余もわかっておる。

だがその問題はおいおい時間が解決する。問題無いに等しい。」


大問題だよ!!!

と言いたくなったが両手で口を抑えて我慢する。

しかし見れば見るほど、完璧な人間の姿をかたどっている。

本来は、他の鬼同様に醜悪で嫌な外見をしているのだろうか。

というかなぜ鬼たちはあんなにみずぼらしい格好をしているのだろうか。

このフェンリルはこんなに整えているのに。


「どれ、昨夜はあまり顔を見られなかった。

見せてみろ。」

「ッ!!?」


階段を一歩ずつ降りて緑の前に片膝をつく。

黒い革の手袋が緑の目の前にくる。

その手がとたんに恐ろしく感じて目をつむって縮こまる。

小動物は人間が上から手を出せば怯えて逃げてしまう。

緑もそんな感じですっかり怯えた。


フェンリルは当初、顎でも掴んで顔を上げさせようと思った。

ただ見たかっただけだ。

しかし人間と鬼の確執を忘れたわけではない。

フェンリルも先の大戦で名を馳せ、この地で大暴れした記憶も自覚もある。

だから緑が怯えるのも無理はないと考えた。

それに、2回も襲われたことを知っている。



2回ほど、軽く、ぽんぽんと手が乗っかった。

緑は顔を上げられなかったがキツく瞑っていた瞼を開けることができた。


「緑は『凡人』だ。お前らの言う鬼を恐れるのは至極当然のこと。」

「…。」

「今日は余が直々にそばにいてやろう。」

「は!!?」


この突拍子のない言葉に、弾かれたように顔を上げた。

目にかかる赤毛の隙間からまるっとした黒い瞳にフェンリルが映る。

フェンリルはにこっと笑う。

この笑みに昨夜は人懐っこい、という印象を与えたが2度目は


(…笑い慣れてないのかな)


光に照らされていびつに見えた。

フェンリルは立ち上がり、緑も壁にもたれつつゆっくり立ち上がった。

身長差も、体格差もある。それでなくても緑がかなう相手ではない。

さらにフェンリルという生き物が大きく見えた。


「(というか、そういうことじゃなく…)あのぉ…なんで私に、つきまとうんですか…」

「嫁だからだ」

「あの!昨日断ったはずなんですけど…!!」

断ったから帰ったのだと思いきや堂々と嫁発言を繰り返す。

さすがの緑も目つきをキッとさせた。

「答えは確かに聞いた。

しかし諦めるとは言っておらぬ。

お前がなにを言おうと余は付きまとうぞ?」


ニヤニヤとした笑みは上手だった。

声に愉快の色を載せてからかうように言う。


「それに、有事の際は困るだろう?

余も嫁の肌に傷はつけたくないからな」

「そ、それは、あ、ああ、ありが、たい?のですが…

結界だって強化されてるし警備隊も巡回してるからそんなことは…」


ぴたりと止んだ。

笑みがなくなったフェンリル。

緑は急に緊張を持つ。


「…いろいろ言いたいことはあるが、まぁいい。

次で少しは自覚するだろう。」


色素がだんだんなくなっていく。

数秒で姿が見えなくなってしまったが、昨夜と違って闇に飲まれなかった。

ということはまだ目の前にいるのだろう。


そう思うと変な汗が出てくる。


静かな校内にチャイムが響き渡る。

いっぱいいっぱいだった思考が、今はとりあえず教室に行けと言う。

緑は垂れる汗を少し拭って教室へと向かった。



結局このあと姿を現さないまま時間が過ぎていった。

そのまま帰ったとは考えにくいので、まだ緑の背後にいるのだろう。

帰宅するまでには帰って欲しかったのだが、このまま家に帰るのはかなりまずい。

何より、家の場所がバレてしまう。


だが、帰ってくれと言って帰ってくれる相手ではないのは確かだ。


緑はハッと気づく。


(これって人質じゃない…!?)


身代金を出せーでなければこの娘の命はないー

キャー助けてー!お父さんお母さーん!


こんなイメージだが実際はもっと修羅場なのだろう。

そう思うと胃が痛くなり、頭がクラクラしてきた。


(きっとそうだよ…じゃないと私に求婚とかいう意味のわからないこと言わないはずだし…)


となると、帰りたくない。帰りたいのだが帰りたくない。

かといって背に腹は変えられない。

ふと方向を変えると悪役のようにどこからともなく声が聞こえてきた。


『なんだ?余と逢瀬がしたいのか?』


いや、そういうわけじゃないのですが。

苦い顔して、ぎゅっとバッグの紐を握る。


『……逢瀬でなければなんだ。

日も沈めば元同胞の餌食になってしまうぞ。』

「…いや、だって…あなたに家がばれるとちょっと…困るっていうか」

『ふむ、そういえばお前の家には2体眷属神がいたな。

いいだろう。余がどれほどのものか観察しようではないか。』

「えっ!でも!」

『言っただろう。とって食うわけではないと。

それと、人間は婚姻する前にその親とやらに挨拶をせねばならぬのだろう?

余のパーフェクトな下調べでそこのところ理解しておる。』


余計帰りたくなくなったのは言うまでもない。




気まずい空気を背負いつつ、玄関をくぐった。

「ただいま……」

いつものように声高々と言えない。

リビングへのドアを通り過ぎて階段を上がる途中で旭が下から声をかけた。

「あれ、緑

帰ったのか。」

「う、うん」

「…どうした?何かあったか?」

「っそんなことないよ!」


悟られてはまずい。

かといってこのまま気づいてくれないのも心細く、淋しいものがあった。


「どうした旭…

おお緑、お帰り。」


(やっさん……!!)


にこにこと緑に笑いかける。

余計に緑は表情を固くする。

この間の鬼襲撃事件。その時やっさんは鬼の気配を察知していち早く駆けつけた。

だから気配がわかるかもしれない。


…のだが……。


「顔色が良くないようだ。

どれ、熱を測ろうか」


(気づいてない…!)


ホッとしているのか残念なのか、わけがわからなくてパンクしそうだ。


「だ、大丈夫」


階段を駆け上り、部屋に閉じこもる。

ドアを背にすれば罪悪感が湧き上がった。

自分は何をしているのだと、自分の背後には鬼がいるのに庇うような真似をして。


深く息を吐いたところで部屋のど真ん中に現れた真っ黒のフェンリル。

腕を組んでぐるりと部屋の中を見回した。


「あの…あんまり見ないで欲しいんですけど……」

「気にするでない。それよりもだ。」


くるりと振り返る。同時に黒のコートが揺れた。


「なぜあのカラスがいることを先に言わなかった!さすがの余でも肝が冷えたぞ…」

「か、カラス?」

「下調べが甘かったな…さらに用心して気配を消すか…」

(そんなことより帰って欲しい……)


電光に晒されるフェンリルの顔はちょっとふけているように見える。

顔の彫りが深いだけではなく、少しだけだが目尻にシワがある。

実際にそういう年齢なのだろうか。

いや、鬼とはいえここでいう眷属神と同じく長命だ。

なんとも言えない。


ふと後ろからノックされた。

反射的にドアから離れて向かい合う。

緑の後ろにはニヤニヤ笑う鬼。


『緑ー?今いいか?』

「えっあっそのっ…!!」


容赦なく開かれるドアに顔がさらに青くなる。

今の緑は光の三原色を携えているレアな状況にあった。


「やっぱ今日何かあったんじゃ……って、なんだその顔」


緑の顔を凝視する旭。

後ろに居た鬼は姿を消したようだ。

こんな状況いつまで続けるのやら。


心なしか胃の痛みを覚えた。


「な、なんでもないよ……」

「何でもねぇってわけでもないだろ

こないだのこと、やっぱ引きずってんじゃないのか」


旭は少し腰をかがめて緑の顔色を伺う。

この間、とは肉片をただ足しただけのような鬼の中でも最悪なほど醜い鬼に襲われたときのことを指していた。

あれからたびたび兄と姉は妹を気遣っていた。


「そんなことないよ

ほんと…」

「…それならいいけど…まぁ、あんま無理すんな。

もうすぐで夕飯できるから、制服着替えて降りて来いよ。」

「うん」


部屋は再び密室になる。

階段を降りる音が聞こえなくなればまた背後から低い声。


「あれが長子か…不抜けた面構えだ。

カラスの契約者がアレでは宝の持ち腐れ同様ではないか。

いや、まぁカラスが宝とは言えんがな。」

「…あの、あんまり、兄のこと悪く言わないで…」


幼い頃から優しい兄だった。

周りからも羨ましがられて、すごいすごいと周りから言われていたために鬼から直に悪口を言われたことは緑にショックを与えた。


「フン…

先の件、姉が危機に晒されたとき真っ先に動いたのはお前だ。

あの長男ではない。

契約者以前の問題だ。」

「それは、咄嗟のことで」

「力があるはずの者が、力のない者に守られた。

その事実が有り得ぬと言っている。

この調子では今後さらに危ういな。」



何かを憂うようにため息をつく。

緑は一瞬思考が止まって、突然憤りが湧いて出た。



「ちょっと!!」



声を荒げれば、鬼は肩をビクッとはじけさせる。

目を丸くして緑を見下ろす。



「私が大人しいからって調子に乗って…!!

そもそも突然求婚した上にストーカーして、女の子の部屋を舐め回すように眺めた挙句人の兄を馬鹿にするって、

ありえない!!そっちのほうがありえない!!」


「なっ、だ、だから、その分、余がお前を…」


「鬼としてもありえないし生物としてもありえない!!!

そこの神経どうなってるの!!?」


「み、緑よ、声を抑えろ」


「あなたがどれだけ偉いのか知らないけど!!ここは私の、家族の家なの!!

敷居を跨ったからには大人しくしようとか考えないの!?」


「わかった、わかったから」


「ずいぶん好き勝手に生きてるみたいだけど!!

私は今殺されてもこれだけは言います!!

二度と私の家で調子に乗らないで!!

それから、家族を馬鹿にし……」




「緑。」




兄の声が背後から聞こえた。

首が痛くなるくらい勢いよく後ろを見た。

部屋に兄が入ってきていたのだ。



「怒らないから、ワケを話してくれるよな?」

「……はい」

「はぁ……やれやれだな」






かくかくじかじか、というわけでありのままのことを話した。

旭は腕を組んで、話終わった数秒後に口を開く。


「緑を嫁に………やれるわけねぇだろバカ野郎!!!」

「これだからシスコンは恐ろしい…」

「俺はシスコンじゃねえ!!

つか、結婚なんかできるわけねぇだろうが!!」


まぁ一般的な反応は得られた。

緑は秘密を共有できただけでもホッとする。


「そもそも、その…『鬼がこの国に渡ってきてる原因』を緑と一緒に解決するってあたり意味がわからない…」

そう、何故緑なのか。

ましてや『凡人』である緑にこんなことを言うのは不相応ではないだろうか。

もし本当にその原因を探りたいのであれば『契約者』が妥当だろう。


「余は貴様らの眷属神と派手に争ったからな。

どのみち契約者と協力しようとしても無駄だ。」


「えっ、お前、もしかして、やっさんと知り合い…か?」


旭の問いにはあっさりと


「知り合い?殺し合う仲だぞ。

舐めてるのか貴様。」


そう答えるのだった。

となるとやっさんと鉢合わせさせたら家が倒壊だけでは済まされない。

地区丸ごと焦土と化す。


「それよりもだ、言葉を慎めよアサヒ。

緑の兄だから許してやっているのだ。」

「うるせぇ。敵に恭しくお辞儀垂れるバカがいるかよ。」


バチバチと火花を散らす。

譲れない戦いがそこにはある……。


「けど…あなたは、人間と協力したいんですね…」

そうでなければここにはいないだろう。

わざわざ危険を冒してまで渡来してきたのだ。

事実、全く手出しされていない上にそういう気配すらもない。

そして眷属神がそこらじゅうに溢れている中に一人の鬼。

弱体化している鬼は集団でなければ勝ち目はない。

よって、戦闘に持ち込むのはフェンリルの死だけを意味している。

緑は冷静になれた頭でそこまで考えた。


「まぁ、一応はそういうことだ。

我が国は疲弊している。

幹部たちもグレてストライキし、東の国に密航して生活したほうがマシだなどと言いやがって実際に密航した。」


「へぇ……大変なんですね」


「東の国に密航ねぇ……

……は?ここに?」


兄妹は顔を見合わせてフェンリルを見上げる。


「そうだ。」


「おいーー!!なんだそれどうなってんだよ!!!」


「余が知るか!!

とにかく!下級の鬼が狂ってここに密航するのとは全くの別物だ!それは一応……たぶん…安心しろ……たぶん」

「めちゃくちゃ小声になってんぞ!!把握しろよ!!」

「ええーい!!黙れ黙れ!!

余は地位名誉金全て揃ってる大人だぞー!!」

「説得力ねぇんだよ!!」


取っ組み合いのケンカに発展でもしたら明らかに旭が危ない。

慌てて緑が止めに間に入ろうとすると…



「ちょっと~晩御飯できてるって……」


ツインテールのあきらが緑の部屋に入ってきた。

兄と妹は深いため息をつく。


「あれ?誰?何?どゆこと?」

「…頭の悪そうな女だな」


同じく、晃にもかくかくじかじかと説明した。


「えー、鬼の件ならうちに来ないで政府に言えばいいじゃん」

「それはならん」

「なんで?」

「余は数百年前に脱獄した。

のこのこ政府の前に行ってみろ。即、全力で余を捕らえに来るだろうな。」

「えー…ダメじゃん

おうちに帰りなよ。」


晃のこの『家に帰れ』発言にフェンリルは妙に視線を逸らした。

今まで威風堂々としていた態度が一変したので緑と旭はすぐに気づく。


「…まさかお前」

「地位名誉金とか言ってたのに……」


「ちがう。余のせいではない。

幹部がストライキとかするからだ。」


追放されたらしい。

何がどうなってそうなったのかはわからないが、旭は大方見当が付いていた。

幹部がいなくなったことで権威が失墜。それを契機に鬼たちがぞくぞくと密航。

遂には追放されて泣く泣くこちらに来た、というわけだ。

一応、ホントに西ではかなり偉いのだろう。だが追放されてしまえばただの元・王様だ。


そして鬼がこちらにきた原因の半分ほどはこの元・王様のせいだということもわかった。


「じゃあもう俺らに関わるなよ。

そもそもメリットがない。

鬼がこっちに流れてきた原因はあんたにあるわけだしな。」


「…本当にそう思うか?」


今までの雰囲気が壊れた。

言い合い、声を荒らげたりしていたのにフェンリルは突然、年老いた賢者のような物言いをする。


「貴様ら、我が同胞の腐りきり、堕落しきった体をみたであろう。

アレを見て、余が原因と言えるか?」

「…別の何かがあるってのかよ

尚更、俺らが巻き込まれるなんてごめんだな。」

「…でも、眷属神…食べてたよね…

テンちゃんに言っても、そんなの前の大戦ではなかったって、言ってたし…」


「……二三言いたいことはあるが、ひとまず改めて余の目的を教えてやろう。

余はあの堕落しきった同胞を見たくはない。

ゆえに、『同胞を狂わせる原因を突き止める』

そして、権威回復のため『幹部を探し出したい』

最後に、『緑を余の后とする』」


真面目な話をしているのだろうが、最後にそんなこというのだから旭はカチンとくる。


「だぁーーれがテメェみたいなやつに!!」

「顔はいいけど鬼だし…おっさんだしねぇ。緑年上好き?」

「ま、まぁまぁかな…」

「晃もなんか言えよ!!緑は嫌だって言えよ!!」


妹たちを守るように旭はフェンリルの前に立つ。

睨み上げる顔に、馬鹿にしたような笑いをふっかけた。


「兄の役目はどの種族も大変だな。

次は妹に守られるなよ。

緑、また会おう。」


赤い目が細く笑う。

緑を呼びかける声はわざとらしいくらいに優しかった。

フェンリルは足元から現れた闇にあっという間に包まれ、消えた。

旭は文句を言い足りないらしい。唸っている。



「こらこら、さっきから奥方が呼んでいるのにお前たちときたら…」


3兄妹は一斉にビクッとする。

たった今フェンリルが消えた。その直後にやっさんが来たからだ。


「わっ、悪いやっさん!!今行く!!」

「きょ、今日の晩御飯なんだろ~!」

「お腹すいた~!」

どたばたと階段を駆け下りてリビングに向かう。

やっさんは、何か隠し事をしているな、と気づくのだがそれが敵に関することだと知る由もない。

今日もただ、3兄妹を見守るだけだ。

無理やり感があるのは否めないですね。

でも王様(笑)が出てきて個人的に楽しいです。

王様は動かしやすいので…

そもそも自分の趣味がたくさん詰め込まれたキャラクターなので緑とセットで動かせていけたらなぁと思います。


次回も頑張ります!読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ