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紅のエッダ  作者: 生烈
2/14

すすられる血液

『続いてのニュースです。昨日相次いで勃発した鬼たちの襲撃事件は全国各地で行われ……』



はぁ~~


やっさんのため息が耳につく。

緑はゆったりとした服を着ていてもやっさんの深いため息で微妙な表情になる。


「そんなに溜息なんかついてどうしたの?元気ないわね、やっさん。」

「テンちゃん、昨日の事件のことできっと落ち込んでるんだよ。」

「あら、そうなの?」


テンは、うーん、と考える仕草をしたあとに明るく声をかけた。


「そうよ!やっさん!人はいつか死ぬのだから!!

気にしないで?ね?」


「っはぁ~~~……」


「テンちゃん…それ悪化させてる」


「あ、あら…?どうしましょう…」


テン、という眷属神。

可愛い顔しているが平気で毒舌をはくのだから侮れない。

そもそも、テンが本当に眷属神なのか疑いたくなるくらいだ。


その理由として第一に挙げるべきことは、テンは綿陽家以外の人間はどうでもいいと思っていることだろう。

やっさんとは違って子供に駆け寄らないし、気にかけるのは綿陽の人間だけだ。

今では珍しい、綿陽家が初めて契約した眷属神だからなのかもしれない。


「もう、あまりこのことについて言わない方がいいかもね…」


いっそのことテレビを切ってしまおうと、リモコンの電源ボタンを押した。

お茶を飲んで一息つく。


「そういえばしばらくはお休みなのよね?」

「うん。防護結界を見直してるみたいだし、しばらくかかるんじゃないのかな。」

けれど、一斉の攻撃によって鬼の勢いもその分削がれたとニュースは推測していた。

そもそも鬼は先の大戦の影響で大幅に弱体化しているらしい。

これは初耳だった。なお、眷属神はそれをもともと知っていたらしい。

さらに、なぜそんな鬼たちが今になって攻撃を仕掛けてくるのか。それが疑問として強く残っているようだった。


「緑、出かける際は私かテンを連れていきなさい」

心配性のやっさんは真面目な顔して忠告するが緑も一人で出かけるのははばかれた。

「そりゃあ…もう怖い思いしたくないもん。もちろんだよ。」

「そうよね…緑ちゃん、昨日怖かったでしょうに…」

『凡人』の緑はここまで真剣に気にかけてもらえることが嬉しかった。

「大丈夫だよ。もうしばらくはこんなことなさそうだし。」

「でも油断は禁物よ?それに、次何かあれば私にも言うのよ?

言ってくれさえすれば…」

「すれば…?」


にっこり綺麗な笑みが輝いて見える。


「私がタコ殴りにしてあげるからね?」


「あ……ハイ……」

(テンに任せると地獄絵図になるな…)


テンを敵に回すと恐ろしいのは知っている。

それは実際戦っている姿を見た…というわけではないのだが溢れ出るプレッシャーが確かにそうだと物語っていた。






やっさんはよく散歩にいく。

それはまるで縄張りを守るようだと常々思っている。

緑は見送って、家の中で課題を進めていた。

そして、テンを見てふと思った。


「あのさ…少し聞きたいことがあるんだけど…」

新聞に目を落としていたテンは微笑みを向ける。

「お勉強以外ならいいわよ?」

「あ、いや、勉強のことではないんだけども…」


長いこと生きているからその分知恵がつく。

故に綿陽の三兄妹は先入観を持って、幼い頃から勉強のことを聞いていた。

そういうことで、テンは勉強嫌いとなってしまったのだった……。


「鬼って、弱体化してるんだよね…」

「ええ、そうよ?」

「もともとの強さの鬼は、大人5人でやっと倒せるけど、今だとどうなのかな」

「そうねぇ…まぁ少なく見積もっても大人3人で撲殺可能ね。」

「え?少なく見積もって?」

「ええ。そもそも、その大人5人、っていうのが少なく見積もっているのよ。

本来なら生身の人間だと…9人…

9人いれば、運があれば犠牲なく鬼を仕留められるわ。」


へぇ~…

思わず感心の言葉を漏らすが、いや、逆に危ないぞ、と緑の危機感が高まった。

もしも、自分が鬼に襲われたとき、兄、姉が襲われているかもしれない。

ということは助けに来ない時が必ず来る。

事実鬼が弱い力のまま結界を突破したのだから、これから昨日のようなことがまた起こる可能性がある。


その時、どうすればいいのだろう。

そう考えていると、肩に手が乗る。


「大丈夫、緑ちゃんには綿陽家お墨付きの幸運があるから。」


「…うん、そうだね」


しっかり頷く。

すると椅子から立ち上がり、戸棚を探り始めた。


「この間、あさひが美味しそうなお菓子買ってたのよ~

あったあった!ほら食べなさい!

これもいいんじゃない?ほら!」


「あ、ありがとう…」






日が沈む前に兄の旭が家に帰ってきた。

ちょうど緑が食器を洗い終わって、旭が買った和菓子の証拠隠滅もして一服していた時だ。

「おかえりー…あれ、やっさんは?」

てっきり一緒に帰ってくると思っていた。

やっさんがいないとなると、おそらく両親と一緒に帰ってくるのだろう。

「途中までしっかり送ってもらった。

まだ歩き足りないんだとよ。」

肩をすくめてわらった。

パトロールなり縄張りの見張りなりなんなり、気が済むまでしていればいい。

やっさんの性質がわかっているから好きにさせているのだろう。

「テンは?」

あきら姉を迎えに行ったよ。」

旭も緑と同じく、ソファーに腰を落ち着けた。


「…あっ、ねえねえ明日は授業無いの?」

「ああ、土曜は入れてないけど、なんだ?」

「久しぶりに街にいきたい!」

緑の珍しいお願い事を聞いてやれない旭ではないが、なぜこのタイミングでそれを言うのかわからなかった。


「お前なぁ…世の中大変なことになってるっつうのに。

そもそも、昨日死にかけたんだろ?少しは家で大人しくしようとか思わねぇのか?」

「……だめ?」

ぐっと、続きが出てこなくて、溜めた息を吐いた。

「……仕方ねぇな

けど、そんならなるだけ俺らはひとかたまりになって行動したほうがいい。

いざって時にな。


まぁ、それでなくともついてくるとは思うけど…あきらも連れて行くか。」


「3人でお出かけ久しぶりだねー!」

「そーだなぁ

前に出かけたのはいつだったか?」

「旭兄ちゃんがずっと大学受験だったから、もう半年以上は行ってないよ」


そんな話に花を咲かせ、ようやく帰ってきた晃にもこのことを伝えた。

大した面倒事でなくても、とにかく何かあれば晃は「えー!」と声を出す。

これが口癖なのだろう。

「えーー!街にお出かけー!?」

「嫌ならついてこなくていいんだぞー?」

「誰もいかないって言ってないじゃん!

緑もいくの?」

「うん。私が行こうって誘ったんだ。」


やっさんは家の守りに。

テンは三兄妹の守りにつくことになった。

こうやって二つに分かれることで、眷属神の負担を減らしつつ、有事の際は少人数でうまく逃げ切れるようにと旭は考えた。


「じゃあさ!双子コーデしようよ~双子コーデ服買おうよ~」

「え…?また…?もう同じ服着回せばいいじゃん…」

「ちっちっち!ダメだなぁ緑

二人でお揃いにするのが楽しいんだよ~」

緑は時々晃の言うことがわからないことがある。

考え方が全く違うのだから仕方がない。


言ってしまえば、旭と晃はよく似ている。それは根底にうまくいくという確信を持っているからだ。

しかし緑はそんなものを持ち合わせていない。

その原因は明白だ。眷属神がいるかいないかの差だ。

それが諸々に作用して差が生まれてしまう。


だから緑は時々学校でも浮いてしまう。

それを気にかけて晃はいろいろと世話を焼いてしまう。


「それにお兄ちゃんも入れてくれないのか?」


「は?」


旭の言葉に対し、この軽蔑するような目。

基本的に兄であろうとも男との服のお揃いは鳥肌が立つほどイヤらしい。


「…旭兄ちゃん、ブレスレッド一緒の買おう?」

「み、緑…っお前…!」

「えーー!!!じゃあ私もーー!!」


こんな3兄妹をみている眷属神はにこにこしている。

両親ももちろんこの仲の良さに、少しくらい大喧嘩してもいいのに、と苦笑するほどだ。


「本当に仲がいいわね

こんなに仲がいい兄妹、いつぶりかしら」

「ああ、お互いに気遣える立派な人格に育ったからこそだな。」


長男、旭は首都の国立大学に主席で合格し、さらに頼りになるので地域のおばちゃんたちからアイドル扱いされている。

長女、晃は言わずもがなモテる。さらに天然な性格が邪魔して目立たないが勉学、運動ともに非凡なものを持っている。

次女、緑はおとなしく、根っからの真面目で兄姉に言わせてみせばお人好しであった。

こんな具合で、仲が良い兄妹をあげるなら、と言われたらこの団地の者はこの兄妹を真っ先に挙げる。

そのくらい有名でもあり、羨む家庭でもあった。


「…けど、この光景を見れば見るほど、昨日の鬼がますます解せないわ」


笑顔を保ちつつ、目を細める。

テンはまるで眩しいものを見つめるように。






まさにお出かけ日より。

朝10時から3兄妹は揃って玄関から出る。


「いってきまーす!」


晃の元気のいい声に、2階から起き抜けの父の声が聞こえる。

「気をつけろよー……」


「ったく、オヤジ、明日が休日だからって夜更かしして…」

「まぁまぁ…」


街は緑の中学校との間に存在しており、電車でいけばすぐだった。

馴染み深い商店街からバスに乗ればすぐ街に行けるのだが、あまり遠出はしないようにと母親から歯止めを効かされたので今回は商店街だけのお出かけとなる。

そしてこの3人についてきているテンはどこかというと、晃の上着にくっついているてんとう虫だ。

本来あまりこの姿になりたがらないのだがテンなりの気遣いでこうなった。

胸元についているてんとう虫はブローチのようで可愛らしい。


春の花の匂いは昨日の出来事を忘れさせるほどのどかだった。

心なしか緑の気分は高揚だけでなく、落ち着いていく。

風がそれなりに吹くので晃と緑は、短パンまたはスキニーを着ていてよかったと思う。

前を率先して歩く旭は風で上着がはためくのでボタンを留めた。


「昨日、出かけるの久しぶりだなって話したんだけど

晃と緑は二人で出かけたりしなかったのか?」

「うん、だって私は男どもをぼこぼこにするので大変だったんだもーん」

「はぁ……テンがいるからってあんまり調子に乗るなよ

俺は庇ってやれないんだからな。」

「ヒューッ!!さすが兄貴!!盾になる兄貴カッケーー!!」

「盾!!?俺盾!!?」


ふたりの会話を聞いて自然と笑顔になる。

これからは緑が高校受験だからこうして3人で出かけるのはまたしばらく先になりそうだと感じた。

ほぼ直感だったから、どうしてか今日は足がくたくたになるまで遊びたい。

「ねえ、今日映画見たいんだけどいいかな?」

しかし晃はもともとそのつもりだったようだ。

「もちろん!!カラオケもいくよ~~!!

ひゃっほーー!!」

「あっ!ほら車気をつけろよ!ガキじゃねえんだから!!」

晃が走ると旭も追いかけていく。

緑もすぐに走り出した。






「はぁ…」


「だらしないぞ兄貴ー」


晃が先に言ったので緑はあえて何も言わずに膝に手を付く旭を見るだけだ。


「おま、お前ら…俺の身にもなれよ」

「だからさっきの喫茶店で待っててって言ったのに…」

晃の言い分も最もである。

女の買い物ほど男がつまらないものはない。

だから向かいの喫茶店で待てと言ったのにわざわざドヤ顔で

「俺のことは気にすんな」

と言い切った。

それがこのざまである。


「だってあぶねーじゃねーか!!

晃はすぐ変な男がひっつき虫みたいについてくるし、緑はときどきぼーっとして迷子になるし!!」

「私迷子にならないよ…」

「お前、去年晃の文化祭で迷子になったこと言い訳できねぇだろ」

「う…」


「ったく、じゃあほら、次こっち

兄貴のわがままに付き合って、ブレスレッド買うんでしょー?

あーシスコンコワーイ」

「っ!?

俺はシスコンじゃねえ!!」


これでシスコンではないとはむしろ恐ろしい限りである。

しかしそのシスコンな兄に付き合ってやっている妹たちも大概ブラコンだ。

何はともあれ今回の目的でもあるブレスレッドはあっさり買うことができた。

革紐に青、黄、赤、それぞれの飾りが付いている。


それぞれ、旭は青、晃は黄、緑は赤。

緑に赤、はもはや家族の中では鉄板のネタで、今回もそうなった。

本人は嫌がってはいないどころか、赤毛もそれなりに好きであるから喜んで赤のブレスレッドを受け取った。


それから3人は足を休ませるために喫茶店に入り、なんとなく話したり、黙ったりを繰り返していた。


すると緑は少しずつ落ち着いてきて、先日の鬼の襲来の話を始めた。

初めは言葉にできないような、つっかえる部分はあったものの、すらすらと最後は話せるようになっていた。

話ことで自分の中で整理をしたかったのだろう。

兄姉は相槌を打ちながら静かに聞いていた。


「やっさんが戦うの初めて見たから…

びっくりしたよ」


緑は一瞬で鬼が燃えていく光景を思い浮かべた。

黒い炎であったがまるで浄化していくような、そんなものだった。


「あれ、初めて?」


「え?」


「あの時は俺ら小学生だっただろ

緑はいねーよ」


何の話をし始めたかと思うと、小学生の時に一度だけやっさんが戦うところを見たことがあるらしい。


「小学校に上級の鬼が出てねー

まぁ私もそんなに覚えてないんだけどさ。

そりゃもうすごい戦いっぷりだったよ。」

「けどおもしれーのが、晃が小学校に上がってもなかなか子離れできなくてこそこそ付いて行ってたんだよな。

しかも学校の子供と先生にも好かれて昼休みは入り浸ってな!」

「あれは恥ずかしかった覚えがある…」


本当に子供が好きらしい。

朗らかな表情をしているので大抵の人間は毒気が抜けて感化されてしまうのがやっさんの最大の特技である。


「やっさんの子供好きはお手上げだよ。」

「ほんっと、仕方ないよねー」

「もうベビーシッターで働けるんじゃないかな」


それはそれでやっさんの言いそうな言葉が揃って思い浮かぶ。


『好きなことでお金は取れない!』


眷属神の話になるといつもこのような話になる。

生まれた時からずっと一緒にいた、もうひとりの親でもあり兄妹でもあり、友でもある。

一時期、3兄妹は眷属神が本当の兄妹であると勘違いしていた時期があるほどだ。

困ったときは傍にいたし、いつでも助けてくれた。

綿陽の眷属神が家の者が好きであると同時に、全員眷属神が好きだった。


そんな時だ。


鼓膜に叩きつけるような爆発音。

地響きがなるほどの衝撃と、爆風。

喫茶店のガラスが降り注ぐ前に、旭は咄嗟に妹たちをテーブルの下に引っ張った。


旭自身、とっさの判断でこれでよかったのかわからなかった。

何より自分もけたたましく心臓が鳴り響き、妹を庇う腕が情けないほどに震えていた。


「まさか、鬼!!?」

「早く逃げろ!!」


原因はいちいち調べるまでもなく鬼であると誰もが察知した。

客も店員も、爆破が起きた場所から離れるように、同じ方向へ逃げていく。


「あ、旭兄ちゃん」

「待て」


一瞬で閑散とした喫茶店の中には3兄妹のみとなった。

3人の声も、呼吸も震える。


「危険すぎる

全員同じ方向に、パニックになって逃げるなんて。

俺たちは裏口から逃げるぞ。


晃、テンは?」


「わ、わ、わかんないっ

ヒト型になれないみたいで…っ」


何故ヒト型になれないのかは今は考えているほどの時間はない。

どちらにせよ逃げなければここも危ないからだ。


「とりあえず、商店街を抜けよう。

それなら逃げる方法はいくらでもある。


あと、手繋いでいくぞ」


旭は晃の、晃は緑の手を握る。

旭は前を確認し、緑は背後を確認。

晃はテンを飛ばしつつ、逃げ道の経路を探る。


そこまで広い商店街ではないのだが、出口が鬼によって塞がれていたりして同じ道を行ったり来たり、店の中に隠れたりしていた。

夕日が3人の背中を追いかけるように沈む気がしているのは、先程から悲鳴が聞こえているからだろうか。

晃は恐怖に耐えかねて泣きそうになる。

その度に旭がアイコンタクトして、少し頷いた。


ふと、粘着質な音が聞こえた。

虎が唸るような声がする。

旭はゆっくりと角を覗く。



「っ!!?」


むわりと悪臭が漂う。

角の先には想像を絶する出来事が起こっていた。


膝をついて、左手で口を押さえる。

口の中が酸っぱくなって、こふ、と吐き気を押し込む。


(鬼が、人と眷属神喰ってた…)


鬼が人と眷属神を喰らうなんてことは、先の大戦でもなかった。

何故あの鬼は喰らっているのか。そんなこと今の旭には見当もつかない。


妹たちに絶対に見るな、と目で訴え、また逆方向へ逃げようとした。

しかし人間の生気で気づいたのだろう。

狂った叫び声を上げて角から這い出てきた。

3人の知る鬼のカタチをしていなかった。

鬼といえども角が全てあるわけではない。

中にはフェアリーと分類されるものも、全ては西の住民であるため、『鬼』と総称している。


目の前に現れた鬼は長い胴体に生々しい白い腕が生え、まるでムカデのようであった。

先ほど旭がみたソレは、長い胴体の一部であったのだ。

影で隠れて見えないだけで恐ろしい程に長かった。


悲鳴も上げられず、全員走り出す。

吐き気とか、嫌悪感は二の次だ。

本能で生命の危機を感じた。


腕が地面をしっかり掴み、這いずる音。

トラックに追いかけられているような響く音が恐怖を煽っていく。


「っきゃあ!?」


晃が転んだ。


「晃ァ!!」

「晃姉!!」


足を止めて晃を見るがが同時に背後に迫り来る化物も視界に入る。


「いいから走って!!」


いちいち悩む暇はない。

しかし緑は様々な単語が頭の中で駆け巡っていた。


逃げる、助ける、死ぬかも、全員


だが歯を食いしばって決めた。

そもそも悩みたくなどなかった。

姉を助けることと、自分が死ぬことを天秤に量りたくなかった。


咄嗟にその場に落ちていた広告の旗を拾い上げた。

足は震えたが今助けなければ、自分が生きる価値などないと頭の中で叫ぶ。


「緑っ!!?」


晃を追い越し、ガパリと開いた悪臭漂う口の奥。

器官に繋がる管に遠慮なく差し込んだ。

ぐちゃり、ブチブチブチッ

血管と脂肪と筋肉が細い棒によって簡単に侵食するその感覚は最悪だ。

しかも噴水のように血が吹き出て、手から腕が血の色に染まった。


ブギャアアアアア!!?


痛みにのたうち回る。

そこに旭も同じく旗を持って振りかざす。


「完璧だ緑!!」


ギョロギョロと動く目玉に串刺し。

化物は建物にぶつかり、暴れまくる。

そのせいで建物にヒビが入ったのを晃は目視した。


「二人共!!早く!!」


血まみれの2人の手を引いて物陰に隠れる。

すると晃の思ったとおり、建物が倒壊し、化物は身動きがとれない状態になったようだ。


「は、はぁ、はぁ」

「大丈夫か、緑、晃」

「私は平気

緑、なんであんな無茶…」


今更恐怖が湧き出て、涙が溢れる。

両腕が血だらけなので拭えない。代わりに晃が袖で拭ってやった。


「ありがとう、緑

でも、もう無茶しないでね…」


「…うんっ」


「兄貴もだよっ!!」


「ああ…気をつける」


旭は辺りを確認し、ふと夕日が強く差し込む通りをみつけた。

向こうは閑散としているものの道路があり、さらに向こう側はバスの停留所だ。


「この通路を出れば商店街を抜ける。

鬼がこないうちに駆け抜けるぞ!!」


「うん!」


血まみれになろうとも、再び強く手を握って駆け抜ける。

血なまぐさいニオイで余計に鬼が集まってこないかが心配であったが、駅の近くまでいけば一安心だった。


「はぁ、こ、ここまでくれば、もう大丈夫だろ…」

「死んだかと、思った……」

「商店街にもういけないかも…」

「俺なんてグロイとこ見ちまって…夕飯食えね…」


それぞれに感想と愚痴を漏らしつつ、息を整える。


「っそだ、テンちゃん!

ヒト型に…」


商店街を抜けたため、もしかすればヒト型になれるかもしれない。

できるかどうか試してもらおうと思った矢先、緑は息を呑む。


「鬼っ!!」

「っまたか!!?」


今回は先程のような化物ではないものの、それでも3体もいる。

それぞれに襲いかかられたら死ぬことは間違いない。

だが、眷属神がいれば問題ない。


「ご機嫌よう下水に汚らわしい血と悪臭を詰め込んでできた鬼ども」


「テンちゃ~~ん!!」


晃のテンションが上がる上がる。

清楚な女性に見えるこの眷属神・テンはとてもじゃないが鬼にとってそれほど脅威になるとは思えなかったのだろう。

引くこともなくそのままじりじりと距離を詰めてきた。


「私の愛する兄妹に与えた恐怖を倍にして返してあげるわ。」


目を閉じて開けば、瞳の中に黒い斑点が浮かび上がり、本気でボコすつもりであるのがよくわかる。

溢れる殺気に余裕をかましていた鬼も後退りを始めた。


(後ずさりする鬼なんて…初めて見た…)

(テンは怪力で力勝負ではやっさんでも勝てないからな…)


「さぁ、覚悟しやがれ糞豚やろう」


にこにこと優しい笑みと、肉を断ち、骨を粉砕し、内蔵を破裂させる拳を連続でぶつける。


「いっけ~!!やっちまえ~~!!」


契約者である晃がその拳の威力をわかっていないとは言いにくいのだが、知っていてなおそんな声援を送れるのならとんだ主従だ。

ドン引きしながらその光景を眺めるしかなかった緑と旭であった。

ぐちゃぐちゃなのを書けて楽しかったです。

けれど結構物騒な世の中だからこそ兄妹愛があると光りますよね…


次からは展開がガラッと変わってきます!たぶん!

読んでくださった方ありがとうございました!!

次回をお楽しみください!

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