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おかしな転生プロジェクト  作者:
侯爵令嬢リオレッタ
6/12

4話 マリオとヨッシー

「おい、キラキラまでどうしたのだ」


 セドリックの言葉で、リオレッタもキラキラの異変に気がついた。キラキラが驚いたような表情で、リオレッタを見詰めていたのだ。

 リオレッタの容姿は、前世とほぼ同じだ。周りの人間と比べるとややあっさりしているが、目鼻立ちのくっきりとした顔立ちで、この国にいても違和感のない容姿だった。

 魅入られるような容姿ではないし、そんなにおかしな顔をしているだろうか。リオレッタが自らの顔に触れた時、キラキラは金縛りからとけたようにハッとして礼をとった。


「御婦人に対しての不躾な振る舞い、どうかお許しください。私は殿下の下で騎士見習いをしております、キラキラ・ゲキカワと申します」

「お気になさらないで下さいませ。わたくしはリオレッタ・アウトブレイク・ダークサイドでございます。どうぞ、お見知りおきを」


 キラキラに倣い、リオレッタも礼を取る。

 リオレッタはこの自己紹介が苦痛だった。フルネームを名乗るたびに、私は危険人物です、と公言しているようで、気恥ずかしさはいつまでたっても消えない。

 もっとも、その名前に対して異常性を感じているのはリオレッタのみだ。周りの人間は特におかしいとは思わないらしい。そういう設定だからなのだろうが。

 だがキラキラは違った。彼は笑いたそうに口元をひくひくと引きつらせていた。


(あれ? 転生者だからかな?)


 キラキラは転生者だ。デスメタル★コンチェルトの日本からの。だから彼には名前の意味も解るのかもしれない。


(笑いたくなる気持ちもわかるよ、キラキラ!)


 笑われても、それが最愛の主人公なら気にならない。むしろ出会えた事で嬉しくなったリオレッタは、彼に向かってにっこりと笑った。

 するとその様子を見守っていたセドリックが、朗らかに笑い出した。


「ご機嫌は直ったようだね。君がものすごい顔をしていたから気になってしまってね」


 ということは、中庭に来てからの挙動を見られていたということか。リオレッタは恥じ入ってうつむいた。


「見ていらしたのですか……」

「おおかたエドワードがまた何かしたのだろう? 君も苦労するな」


 流石に「はい、まったくその通りです」とは言えないので、リオレッタは笑って誤魔化した。

 それにしても王太子殿下は優しい。エドワードにも爪の垢を煎じて飲ませてやりたい、とリオレッタは常々思っている。


(他人への気遣いも出来て、お優しい方なのに。エドワードの方が人気があるとか、ないわ)


 原作ではセドリックの出番はない。そこまで進んでいないからだ。設定も考えていなかったので、リオレッタは、きっと兄も変なやつなのだろうなと思っていた。弟がああなのだから。

 だが会ってみれば、セドリックは気さくで大らかな好青年だった。だからエドワードに対する賞賛の声を聞くたびに、リオレッタは首を傾げてしまうのだ。


 セドリックとの会話はリオレッタにとって癒しになっている。なので、日ごろの感謝の意味も込めて、リオレッタはセドリックに感謝の気持ちを述べた。


「セドリックさま、お気遣いありがとうございます」

「いや、礼には及ばぬ。いつも元気なリオレッタが沈んでるのは放っておけない」

「まあ、ふふ。セドリックさまも散策していらしたのですか?」

「いや、これから教練に向かう。もう少リオレッタと話していたかったが、生憎と時間がな。またの機会に」

「はい」


 名残惜しくはあったが、引き止めるわけにはいかない。リオレッタは笑顔で二人を見送った。

 しかしリオレッタを通り過ぎて中庭を後にするセドリックとは対照的に、キラキラはリオレッタの傍まで来ると、立ち止まって小声で囁いた。


「二時間後、お時間をとっていただけないでしょうか。お話したいことがあります。出来れば二人きりで」


 深刻な表情だった。それを見たリオレッタは、ろくに考えもせず返事をしていた。


「……わかりました。翠の間でよろしいでしょうか」

「はい、感謝致します。では後ほど」


 そう言うと、キラキラはリオレッタの返事を聞くことなく、セドリックの下へ走り去っていった。


(迂闊だったかな。でもキラキラだし、大丈夫なはず)


 普段は男性から誘いを掛けられても、立場が立場だけに断っている。しかしキラキラは設定通りなら純真無垢な男の子だ。二人きりで会っても、ばれなければ問題ないだろう。それに二人きりといっても、リオレッタには常に侍女が付き従っている。危ない目にあうこともないはずだ。


(しかし何の用だろ。告白だったりして)


 なんちゃってー。などと能天気に鼻歌を歌い、リオレッタは自室へと戻った。




 王城にある翡翠の間は不吉な場。それがここに住む者の常識だった。何でも、どこぞの誰某が毒をあおって死んだらしく、幽霊がでるとの噂だった。そしてその付近にある翠の間も気味が悪いということで、皆近寄りたがらない。だから秘密の話をするには最適な場所だと思い、ここを指定した。

 幽霊に興味がないリオレッタは、一人になりたい時よく翠の間に来ていた。だから不審に思われることもないはずだ。


 指定の時間に翠の間に入ると、そこにはすでにキラキラが待ち構えていた。


「お越し頂きありがとうございます」

「それで、お話とはどのような?」


 彼は少し躊躇った後、意を決したように口を開いた。


『日本と言う国をご存知ですか』


 キラキラの放った言葉は懐かしい日本語だった。久々に聞くその音に、リオレッタの胸が熱くなる。

 込み入った話かもしれないと思い、リオレッタは侍女を下がらせキラキラに向き直った。


『よく知っています。以前そちらで暮らしていましたから……』


 しかしリオレッタの感動をよそに、キラキラは返事を聞くなり秀麗な顔を怒りに染めてつかつかと詰め寄った。


『やっぱり! お前、マリオだな!』

『!?』


 マリオ、それは莉緒のあだ名だった。

 莉緒はそのあだ名が好きではなかった。髭を生やしたこともなければ、「ドゥルッフー!」などといってレンガに激突ジャンプをしたこともない。自分のセンスにそぐわないし、可愛くない。あさぬマリオ。名前だけでそんな風に言われるのは、莉緒にとって許しがたい限りだった。

 そしてそんなあだ名を付け、莉緒のことをそう呼ぶのは一人しかいなかった。

 小中と同級生だった坂上由樹(さかがみよしき)だ。莉緒は彼のことを仕返しの意味も込めてこう呼んでいた。


『もしかしてヨッシー!?』

『そーだよ! そんなことより、マリオ! お前のせいで俺、また死んだんだけど!!』


 そうだった。キラキラは友人の掘った落とし穴に落ちて死ぬ設定だった。


(ってことはヨッシー、一度死んでこの世界に生まれてまた死んだってこと? 悲惨!)


 でも自分がこの世界を作ったわけじゃないし、由樹を送り込んだわけでもない。やったのは全部デスだ。リオレッタは慌てて弁解した。


『あたしが殺したわけじゃない!』

『マリオの小説が基になった世界って聞いたぞ! うんこくせー中世ものなんか書いてるんじゃねーよ!』

『うんこ臭いのはあたしのせいじゃないって! あのデスっていう鬼畜眼鏡のせいなの!!』

『それにしたって、この名前はひどすぎるだろ! 人としてありえねーよ!!』

『そんなことない! キラキラの名前は一週間も考えて決めたんだよ!! あたしが考えた最高の名前なの!』


 主人公なのだから、名前だって凝らなければいけない。そうして考えた末に出来た名前がキラキラ・ゲキカワだ。フルネームを呼ばれるたびに、彼が賞賛されるのだ。最高だ! 前世の莉緒はそう思っていた。もちろん今でも最高だと思っている。


『はあ!? 最高にセンスが狂ってるの間違いだ! お前、自分がこんなアホみたいな名前だったら嫌だろ!!』

『…………』


 狂ってるやらアホみたいというのにはムカついたが、確かにそれは嫌かもしれない。キラキラの言葉に、リオレッタは不本意ながら同意せざるを得なかった。現に今自分も馬鹿みたいな名前で嫌な思いをしているのだから。

 それに元はと言えば莉緒がデスを怒らせたのが原因だ。由樹にしてみれば、完全なとばっちりだった。

 結局全部自分のせいか。そう思ったリオレッタは、キラキラに申し訳なくなって消沈してしまった。


『…………ごめん』


 項垂れるリオレッタに対して、言いたいことを言い切ったキラキラは落ち着きを取り戻したようだった。そして気まずげに視線を逸らした。


『…………いや、最近嫌なことが続いてちょっと八つ当たりしたかも。マリオが仕組んだわけじゃないのにな。ごめん』


(ヨッシーって、いいやつ……)


 エドワードと婚約してからというもの、言い争いというものを頻繁にやりあうようになった。言葉が通じているようで通じていない野蛮人との勝負は、いつもこちらが屈服させられるのだ。

 キラキラのような素直な反応は、リオレッタをとても感動させた。


(でもデスを怒らせてヨッシーにとばっちりがいったのは内緒にしとこ)


 世の中には知らないほうがいいこともある、とリオレッタは見当違いなことを思った。

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