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おかしな転生プロジェクト  作者: ■
プロローグ
1/12

1話 ひところスイッチ

 麗らかな春の昼下がり、浅沼莉緒は上機嫌で自転車を漕いでいた。今日は莉緒が前々から楽しみにしていた品物が届く日なのだ。ずっと我慢していたけれど、これからは買い放題! 次はあれも欲しいし、これも欲しい――


「うわっ!?」


 などと悦に浸っていたら、溝板が外れているのを見逃し、前輪が溝にはまった。前につんのめった莉緒は、そのまま一回転して道路に投げ出されてしまった。


「うう、ちょー痛い……」


 パンプスは片方脱げてどこかにいってしまったし、背中は涙が出るほど痛かった。マジ最悪、と思いながら、のろのろと体を起こして、前輪を持ち上げようとする。


 が、見事にピッタリはまっているせいか、車輪はびくともしなかった。莉緒は顔を真っ赤にさせて踏ん張った。


「こ、のっ、あっ、がっ、れっ! ふんぬぅぅうううううううううおおおおおお!!」


 乙女にあるまじき踏ん張り声を上げている莉緒は、背後に迫る脅威にまったく気づいていなかった。


「あっ!?」


 一瞬の違和感の後、莉緒の意識はぷっつりと途絶えた。




「おい、いい加減目を覚まさぬか」

「……んあ?」


 寝ぼけ眼で声を上げた莉緒は、自分の顔を覗き込む男性をみて一瞬で覚醒した。

 艶のある黒髪、すっと通った鼻筋、ピシッとした高級そうなスーツに、セルフレームの眼鏡が良く似合う男性だったからだ。まさしく白皙の美青年、しかも眼鏡。莉緒は眼鏡萌えだった。


 莉緒は俄然、やる気になった。もう大学生になったのだし、いい加減彼氏が欲しい! もろに自分好みの男性が目の前に現れるなんて、きっとこれは運命の出会いに違いない! 周りの異様な状況にも目もくれず、莉緒は目の前の男性に食らい付いた。


「あの、あたし、浅沼莉緒です! あなたは?」

「私はこういう者だ」


 と言って、男性は懐から名刺を取り出した。名刺にはこう書かれていた。


「……かみの…………お、つかい、です?」

「…………」


 男性の眉がぴくりと釣り上がった。どうやら莉緒の呟きにイラッとしたようだ。

 男性は面倒だという態度も顕わに、盛大にため息をついた。


「神の御使い(みつかい )だ。名前はデス」

「…………宗教の勧誘とかは間に合ってますんで……」


 それを聞くとデスはまたため息をつき、これはない、といった感じで頭を振った。


「ここまで知能の低い人間とは、いささか不安……」


 今度は莉緒がイラッとする番だった。馬鹿なのは自分でもよくわかっているが、他人に図星をさされると腹が立つ。しかも初対面でここまで言われる筋合いはない。


(イケメンでも無神経なのはないわー。ムカツク)


 莉緒が腹立ち紛れの文句を返そうとしたそのとき、一人の少年がパッと現れてデスに向かってにっこり笑った。


「まあまあ! さっきの取り乱した少年よりは、話が通じやすそうでいいじゃないですか~。死んだばっかりでもこんなに落ち着いてるわけですし!」


 あっけに取られていた莉緒だったが、少年の聞き捨てならない一言に、さっと顔を強張らせた。そしてようやく自分が今いる状況を認識した。

 周りは真っ暗で何もない。いるのは無神経男と金髪少年、それに自分の三人だけだ。光源がないのに、これほどくっきり人が見えるのは、さすがの莉緒でも異様なことだと気が付いた。


「あたし、死んだの!? じゃ、ここって天国!?」

「なんと図々しい娘なのだ。己が天国にいけるほど高潔な魂だと思っているのか」


 少年に答えを求めたのに、返ってきたのは陰険眼鏡の見下しきった嫌味な言葉だった。何ていちいち嫌な奴なんだろう! 莉緒にとって最早デスは、視界に入ると不愉快な存在、道端のうんこ程度にしか思えなくなっていた。


「うるさい! あんたに聞いてないよ! 陰険眼鏡!」

「何だと……この●×#■で△*※○な◇※■×#め! このような無礼な人間は、即刻地獄へ送り更正させねばなるまいな……」


 莉緒の言葉に激怒したデスの体から、紫色の炎が立ち上る。莉緒は動物的本能でヤバイ、と悟った。


「あっ、ごめんなさいそれはいやです。何でもするからゆるしてください」


 これはうんこではなく、触れるとやばい猛獣だ。そう瞬時に察知した莉緒は、あっさりと態度を変えて謝った。莉緒は長いものには巻かれるタイプだった。

 変わり身の早い莉緒に、デスはゴミでも見るような視線を投げつけ、「パルピー」と言ったきり押し黙る。

 その言葉に二人のやり取りを面白そうに見守っていた少年が、お任せください、と請け合い、莉緒の前に進み出て、可愛らしく微笑んだ。


「ぼくはパルピーと言います。莉緒さん、よろしくね」

「うん、よろしく……」

「いや~、しかし死んだことに気が付いてなかったとはね!」


 妙な衝撃が体を襲ったのは覚えているが、一瞬だったしまさか死ぬとは。変な空間にはいるものの、体を動かすことには違和感がないし、自分が死んだなどとは莉緒にはまったく信じられなかった。


「何で? いつのまに?」

「じゃあ何で死んだのか、教えてあげます」


 パルピーがそう言うと、莉緒の目の前に巨大なスクリーンが現れ、ある場面を映し出した。


 それは莉緒がにやつきながら自転車を漕いでいるシーンから始まった。そして例の溝にはまり、莉緒は一回転する。脱げたパンプスは綺麗な放物線を描き、塀の上で丸くなっていた茶斑の猫にヒットした。しかも踵が頭に、である。うわっ、これは痛い。莉緒は思わず手で口を覆った。

 哀れな猫は驚いて飛び起き、塀をかけ上がり、横付けされていたトラックの開け放たれた窓に入り込んだ。しかしそこにはすでに先客がいた。やけに物が散乱している座席の上に、一匹の黒猫。

 突然の侵入者に、黒猫は毛を逆立たせ、茶斑の猫に飛びかかった。猫たちの乱闘により、荷物がなだれを起こし、パーキングブレーキの上に圧し掛かかる。

 トラックの停車場所は急勾配の坂道だった。そしてその坂道の終点には、前輪を持ち上げようと相撲取りのごとく踏ん張る莉緒の姿。


「あ、まさか……」


 そしてトラックは動き出す。徐々に加速を増し、トラックは自転車と一緒に莉緒を跳ね飛ばした。


 こうして莉緒は死んでしまったのである。


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