事件
2話目です。あまりにも文章表現が乏しい自分が不甲斐ない…。絵は描きますが、漫画を描くわけにもいかず、文にして創作してます…。楽しんでいただけるといいな…。そわそわ…
「…かつばき、赤椿」
肩を揺すぶられてわたしは目を覚ました。目の前には兄・白菊の顔があった。薄めの青とムトラセテムらしいやや赤みを帯びた濃い桃色のオッドアイと目が合う。
「そろそろ着きます。用意しなさい」
眠い目を擦り、わたしは頷いた。肩に掛けていたコートを羽織る。
あの出来事から10年。わたしは成人まであと2年を残すのみとなった。
あれから、リルフィリア殿下には会うことができなかった。彼は煙のようにその姿を晦まし、10年が経った今もその動向は全く掴めないままである。彼の二人の兄と一人の姉は間も無く死亡が確認され、リルフィリアは今現在生存していると思われる、たった一人の王族。…もっとも、あれから死んでいなければの話なのだが。
わたしたち兄妹はそのリルフィリアを探して旅をしている。その旅も今回で4回目…だったのだが、結局見つけられずに帰路についた。どこにいるかはおろか、国内にいるのか国外へ逃げたのか、全く分からない中で会える確率は底なしに低かった。まずはバルトから探そうとしているのだけれども…。
港へ着けば、同期のシャネットが馬車を用意してくれているだろう。また状況を根掘り葉掘り聞かれるのだろうかと想像すると少し気力が削がれた。何も見つけられなかったのだ。リルフィリアどころか、まず人を探すのにも苦労する。荒廃した首都に人はいなかった。いるのは憎きクズリフナ兵ばかりだ。
「また行きます?それでも」
白菊はわたしの心を読んだかのように問うた。
「忠誠を誓い、命を懸けると約束したんだもの。わたしたちの大切な人だもの。幼い頃、見つけるまで諦めないって約束したじゃない」
わたしは唇を噛み締め、髪を結わえている髪留めを触った。紅玉が2つついた髪留めは、リルフィリアからもらった唯一の宝物だ。彼には言い切れないくらいの恩義がある。それ以前に、わたしは…。
船が大きく揺れた。波止場へ着いたのだろう。白菊は少し外を覗いてから革張りのトランクを持つ。
「帰ったら沢山仕事をしなきゃなりませんね…」
兄は細い眉を少しだけしかめる。
「あら、白菊お兄さまはお仕事大好き人間じゃなかったかしら?いつも机に張り付いてわたしが食事に誘っても全く出てこないくせに」
眉をしかめ、いやみっぽく文句を言うと、急に耳慣れない音が聞こえた。微かではあるが、ものすごく嫌な予感がする音…これは、多分…。
「「銃声」」
兄とわたしの声が重なった。暫し見つめ合い、頷く。
「いやー、まさか本部に着く前に仕事ですか…やれやれ」
「ほら、兄さん!行くわよ!」
「何やっちゃってくれてるのやら…こっちの労力を考えて欲しいものですね…」
手に取りかけたトランクを思いっきり座席に投げ捨て、代わりに剣と兄の手を掴む。ひやりとした剣を持つと心なしか気分が戦闘モードに切り替わった。
「私がいなくても十分でしょう、赤椿中佐」
「何を言ってるんだか…!行きますよ!白菊大佐!」
馬鹿みたいなゆるい会話をしつつ、音のした方へ駆け出す。音のし具合から考えると…甲板?廊下は野次馬の乗客で溢れかえっていた。
「危機回避能力に欠けてますねぇ…。野次馬って困るんですよー…。赤椿、あっちは頼みますよ」
手の中を白菊の手が擦り抜けた。
「分かりましたけど、あんまり不真面目にしないでくださいよ!」
後方に思いっきり声をかけ、人の合間を縫うようにして進む。…全く、なぜ人は危険を顧みず、わらわらと集まるのだろうかな…と心の中でため息をつきつつ、甲板へ上る階段を探す。と、目の前に錆びた鉄パイプの階段が目についた。周りには蹲った人、耳を塞ぐ人が群がっていた。これか…少しぼろぼろ過ぎる気がするが、しっかりと掴む。その時…
「剣士さま!白の剣士さま!」
背中に圧力を感じ、振り返ると真っ青な顔をした貴婦人がわたしのコートを掴んでいた。上等の服をきているあたり、貴族階級の女性だろうか?
「その剣の紋章はパレビオン騎士団のものですよね!お願いします、私の息子を助けて…私のテディが!」
「奧さま、落ち着いて!話はちゃんと聞きますから、お願い…」
わたしは彼女のドレスの膨らんだ袖を掴み、目を見て言った。彼女はわたしの声が届かないらしく、慌ただしく咽び泣いていた。激しく動転しているあたり、テディという男の子が人質に?それとも何者かに撃たれたのだろうか…。
とにかく、邪推をしても切りが無い。
「誰か、このご婦人の代わりに説明を!」
剣を掲げ、声を張り上げる。出先のせいで制服は着ていないがこれなら信用してもらえるだろうか…!
「わたしはパレビオン騎士団の者です!誰か話を!」
「今し方、その方の息子さんが突入してきた賊に攫われたんですよ…」
しわがれた声を耳が捉える。部屋の隅に立っていた老齢の男性が震えながら答えた。
「少し詳しく教えていただけますか」
男性はぶるん、とひとつ大きく身震いすると、口を開いた。
「船が港に着いたすぐ後、そこのドアから賊が沢山押し入ってきたんです…そして、そのご婦人の息子さんや女性が脅されながら…」
男性は口を閉じ、思い出したのを後悔するように目を伏せた。
「分かりました!ありがとうございます」
震える男性に近寄り、腕をさする。
「こんなことを聞いてどうするんだね、お嬢ちゃん。まさか…行くとは言わないだろうね?相手は多かった…武器も持ってた…行かない方がいい!お嬢ちゃんには無理だ!」
必死に腕を掴む男性に笑いかけ、わたしは口を開いた。
「わたしは一人ではありませんから。…今、怖がっている人がいるならわたしは向かわねばなりません。この方を頼みます。この方、きっと不安で仕方ないんだわ。どうか支えて、励ましてあげて!頼みましたよ!」
ガタガタと震え続ける貴婦人を男性に預け、わたしは甲板へ続く階段を登り始めた。
どうだったでしょうか…。まだ始まって2話目…面白いかと聞かれてもうーん…となると思います…これから面白くして行けるといいな…!
変なところ、よかったところ、ぜひ教えていただきたいです!
宜しくお願いします‼︎‼︎