第三話
「はー、けっこう疲れたー」
呉に帰ってきてから数日。ようやく仕事が一段落ついたところで、休憩のついでに街に出ていた。最近の仕事の量が増えている気がする。いや、確実に増えている。その事を冥琳に言ったが、はぐらかされた。
「ん?刹那か」
「冥琳殿」
ちょうど、冥琳殿を見つけた。その手には、本を持っていた。新しい兵法書か?
「お前は、なんでここに?」
「休憩です。せっかくなので甘いものでも食べようかと」
「そうか、ならついて来い。いい店を教えてやる」
そうして、冥琳殿の後について行くことにした。
「刹那」
「なんでしょうか?」
「そろそろ、仕事の時意外でいいから、冥琳と呼んでくれないか」
「えっと――その……」
「それとも、冥琳“お姉ちゃん”でもいいぞ」
「いっ、いつの話ですか!?」
かなり昔の話だぞ!?それより、なんでそんな事覚えてるんだ!?
「ふふ、冗談だ。まあ、無理には言わん」
「……善処します」
「それでいい。着いたぞ」
連れてきた場所は、館から少し離れたところにある店だった。
「ここのゴマ団子はなかなかの物だ。でわな」
「冥琳殿は入らないのですか?」
「私はまだ仕事があるのでな」
そして、来た道に進み、館の方に戻っていく。
「めっ、冥琳っ!」
「?」
「あまり、無理はしないでください」
「分かっている。あと、敬語もその時は抜きにしてくれ」
一度振り向き、その後戻っていった。
ちなみに、その店のゴマ団子は美味かった。
「際殿」
「ん?おお、刹那か」
館に戻る時に、店で酒を飲んでいる際殿を見つけた。
「際殿。昼間から酒ですか?」
「これくらい、飲んだ内に入らぬ」
「ちゃんと、仕事してるんですか?」
「仕事など、酒を飲みながらでもできる。それに最近仕事の量が減ってきて助かるの」
「…………………」
仕事が増えている原因が目の前にいた!いつもの事なんだろうけど、冥琳殿が俺に仕事を回してくる気持ちが分かったきがする。
「お主も飲まぬか?」
「いえ、まだ仕事が残っているので」
「なんじゃ、つれんの」
「ほどほどにしないと冥琳殿がっ…………」
「…………………」
すぐ後ろに冥琳殿が立っていた。しかもかなり怒ってる。どうする?ここは仕事に行くように、誘導するべきか。
「そっ、そろそろ仕事に戻らないと、冥琳殿が怒りますよ」
「冥琳? なぁに、あんなひよっこに何を言われようと気にせんわい。そもそも周家のご令嬢は、今でこそああやってエヘンと威張っておるが、昔は……」
ダメだ。俺には不可能だ。この二人を上手く仕事させるように誘導する事は。
「際殿。後ろ」
「うん?Σ( ̄□ ̄;)」
「……………」
「め、冥琳……いつからおったのだ!?」
「そうですな…そもそも周家のご令嬢は…の辺りですかね?」
「ぬぅぅ。せ、刹那!」
「…………ぷい」
触らぬ神ならぬ、関わらぬ冥琳殿に祟りなし。関わらないのが身のため。申し訳ありません。際殿。自業自得ですが……
「この薄情者が〜!」
「では祭殿、場所を変えてゆっくりお話しましょう」
冥琳殿は祭殿の腕をつかみ、引き摺っていった。
「離せ、離すのだ!」
抵抗するものの、城の方に連れて行かれた。
その翌日の仕事の量が、今日より少なくなっていたのは、また別の話。