第9話 決心
急いで作ったので至らないところがあると思います。
相坂達が立ち去った後、俺は薫の腕の具合を診ている先生に何があったのかを話した。
「へぇ~猛の殺気を感じたから来てみたけど、そんなことがねぇ…」
「殺気を感じた、って俺そんなに出してましたか?」
「ん?ああ、そこはほれ、私だから」
「あーなるほど」
猛の不安と疑問はその一言で解決された。
「それで先生、私の腕はどうですか?」
今度は薫が先生に尋ねた。
だが、そこはやはり自分の体だ。
おそらく自分ではもう分かっているのだろう。
明らかに声が震えている。
「ああ、完全に罅が入ってるな。とりあえず医務室に行って手当をしてもらってこい」
「それってつまり…」
「ああ、次の試合は棄権だ。私はこれからそのことを申請してくるから、その間にさっさと医務室に行け。雪奈、お前は薫について行ってやれ」
薫にはその言葉が死刑宣告に聞こえた。
自分の小さなミスがこんな事態を引き起こすなど考えていなかった。
「……ます」
「ん?何だって?」
「私はまだやれます!だから棄権なんてしません!」
パンッ!
その場いた全員がその人物の行動に驚いた。
突然のことで何の反応も出来ずにいる薫の前には、薫の頬を叩いた後のままの姿勢で止まっている猛がいた。
「いい加減にしろよ」
「な、何するの?」
薫は信じられないものを見るような目を猛に向けていた。
「いやなに、お前があまりにもフザけたことを言ってたからな」
「ふざけたこと?」
「気付かないのか?お前は今先生のことを侮辱したんだぞ」
「…どういうこと?」
猛が呆れた顔で溜息を吐いた。
「はあ。分からないか?前に剣道部が廃部になりかけたとき、先生はわざわざ理事長に直談判してくれたんだぞ。そんな人のことをお前は信用してない、って言ってんだ」
猛は先ほどではないにしても、確かにその目には怒りの感情があった。
「それに試合のこともだ。お前が棄権しても四音が入賞すればいいだけだろ。
それが出来ないってことは四音のことも信じてないってことになるんだぞ。お前はいつからそんな恩知らずになったんだ?」
猛の言葉を聞いて薫は明らかに動揺していた。
「わ、私は…そんなつもりは…」
すると、猛は怒りを収めて優しく薫に諭すように話しかけた。
「お前が剣道を好きなのは良く知ってるし、俺もそんなお前のことが好きだ。でも、お前は何でもかんでも一人で背負っちまう。そこがお前の悪いところだ」
薫は猛に向き直った。
「お前には頼りないように見えちまうのかもしれねぇけど、たまには周りの奴らのことを信用して頼ってみたらどうだ?」
猛が薫の頭に手を乗せて撫でてやると、薫は頬を綻ばせて先生の方をに顔を向けた。
「先生、すみませんでした。私少し冷静さを失っていたようです。でも、猛のおかげで目が覚めました」
そこで薫は一拍置き、深呼吸してから自分の決断を下した。
「この大会は棄権します。後のことは四音君に任せて医務室にいってきます。だから棄権の申請お願いします」
「おう、任せとけ。万が一四音が負けるようなことがあっても、そん時はまた理事長を説得して(脅して)何とかしてやるよ」
「さすがに今回は俺も本気でやりますよ!」
何か変なエコーが聞こえたが無視しておこう。触らぬ神に祟りなし、だ。
「それじゃあ四音君、後のことお願いね。これ以上先生に迷惑をかけないためにも、絶対に入賞してよね」
「ああ、任せとけ。入賞どころか優勝してやるよ」
俺は拳を握り締めて、自分のやる気を示した。
「じゃあ行こうか、雪奈ちゃん」
「は~い。それじゃあ行ってきま~す♪」
そして、薫は雪奈に連れられて、医務室へと向かった。