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知る者、知らない者  作者: 螺旋の凡人
~第1章~
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第6話 大会Ⅱ

薫が一歩前にでると相手は手元を上げてしまった。気が付いたときにはもう遅い。まるで昨日の俺と薫やった最後の試合のようだった。


「コォォォテェェェェ!!!!」


「小手有り。勝負あり」


試合を終えた薫が先生と一緒に試合場の外に出る。


「お疲れさん。いやーさっきの試合すごかったな」


猛が面を外して雪奈からスポドリを受け取った薫に声をかけた。


「はあ。ありがとう。昨日の四音君との試合がためになったわ。雪奈ちゃん次は何試合後?」


「んー。しばらくあるから、今のうちに何か少し食べておいたら?試合が近くなったら、ボクが呼びに行くから♪」


「分かった。そうするわ。三試合前にお願いできる?」


「任せて♪」


猛はいつもと違う薫の背中を見送った。






++++++++++++






私が二階にある自分たちの荷物置き場に到着したとき、そこには先客がいた。


四音君はアップのときに着けていた防具を外し、タオルを顔にかけて、周りの目を気にする風もなく、気持ちよさそうに眠っていた。


私がそれを注意しようとすると、四音君は突然跳ね起きた。


「っ!ビックリさせないでよもー」


「はは。悪かったな」


「ちょっと詰めて」


「おう」


………


嫌な沈黙が私達の間に流れる。


「さっきの試合見てたぞ」


その言葉に私は少し身構える。


「どう…だった?」


「率直に言うと……その左手どうした?」


「…何のこと?」


「とぼけても無駄だ。昨日は何もなかったのに、アップから様子がおかしかった。それにさっきの試合だ。お前ほとんど右手だけで構えてるだろ」


「…」


「もう一度聞く。何があった?」


「…昨日部活が終わって家に帰って着替えてるときに、急にフラついて転んじゃって…そのとき変な風に手を突いちゃったみたいで、それで…」


「そうか。ちょっと見してみろ」


私は少し躊躇ったけど、観念して四音君の言葉に従って左手を差し出した。


私が出した左手を、四音君は少し強めに掴んで引き寄せた。


「っ!」


それだけで左手には今まで経験したことがない激痛が走った。

自分でも分かるくらいに顔色が青くなり、歯を食いしばって声が出るのを我慢する。

冷や汗も一気に噴き出してきた。


こんなんじゃ誰でも一目で無理をしていることが分かってしまう。


それを見た四音君は溜息を吐き私の目を見て、自分の見立てを伝えた。


「完全にヒビが入ってるな。次の試合は出ない方がいい」


「そんなことない!!こんなの全然平気だから!!何の問題もないから!!」


必死に弁明したが、叫ぶ度に左手に痛みが走る。


「随分痛そうに見えるけど?」


「うっ。だけど私が入賞しないと条件が…四音君強いけどいつも本気でやらないから、一回戦で負けちゃうんだもの」


「はあ。ちょっと貸せ。テーピング巻いてやる」


「止めないの?」


「まあ、次でお前の入賞が決まるからな。一試合くらい何とかなるだろ。先生達にも黙っといてやる」


「…ごめんなさい」


「気にすんな。ただし、一試合だけだ。それ以上はお前の選手生命に関わるだろうからな。お前だって二度と剣道ができないなんてイヤだろう?」


「うん…わかった」


「じゃあ、はいこれ弁当。俺はもう食ったから」


「ありがとう」


不安も痛みも消えなかったけど、試合に出れることに安心した私と不安百パーセントの四音君は、影で会話を聞いていた存在に気付けずにいた。


「へっ、いいコト聞いたぜ」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

また、しばらく投稿できそうにありません。

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