第5話 大会
今、俺と委員長は天ノ上総合体育館のメインアリーナで、開会式前のアップをしている。今日ここでは剣道の大会が行われるので、いつもの景観とは違い四つの試合会場が設置されている。
「ふう。アップはこれ位にしましょう」
「ああ。委員長がいいなら俺はいいぜ」
そう言ってアップを終わりにした俺達は、まだ続けている選手の間を縫うように進んで行き、マネージャー代わりの猛と雪奈が待つ壁際に辿り着いた(先生は顧問会議に参加していて、この場にはいない)。
そこで俺達は座って面を取り、渡されたスポドリを口につけ一息ついた。
「はあ。去年よりも参加人数が多いな」
「そうね」
俺がメンドくさそうに漏らした声に、委員長は肩を落として少し震えた声で答えた。
俺はそれに気付いていたが、気の利く言葉が見つからず悩んでいると、猛がいつもの調子で委員長を冷やかした。
「何だ薫。声が震えてるぞ。もしかしてビビってんのか?」
「…」
薫はそれを聞いて、さらに萎れてしまった。
「いやーそれもこの大人数ならしかたねぇよ」
「タケル…それフォローになってないよー」
薫の反応を見て慌ててフォローしたつもりの猛に雪奈がツッコミを入れた。
「うっ」
行き詰った猛は懇願するような目で俺の方を見てきた。
「はあ。ほら委員長昨日も言ったろ。自分に自信を持て、お前以上の努力家も実力者も、俺が見た分には一人もいねぇからよ。」
「本当に?」
「ホントホント俺の目を信じろよ」
「そっかぁ。分かった四音君を信じるよ。はあ。そう思うとさっきまで悩んでた自分が馬鹿みたい。」
仕方なく一声かけてやると少し元気になったが、その声はまだ震えていた。
「そうそう。その意気だ。それなら優勝間違いなしだな。頑張ってくれ」
「そんなことはないと思うけど…」
「大丈夫だ。それに委員長が優勝してくれれば俺が楽できるしな」
「駄目よ。戦う以上全力でやらないと相手に失礼よ」
「ああ。分かってるよ」
そんな会話をしていると、欠伸をしながら先生がやって来た。
今日は現地集合だったため、これが初顔合わせになる。
「ふぁーあ、よう。おっ薫。ちったぁいい面構えになったな」
「おはようございます、先生。ええ、四音君のおかげです」
「へぇ~それに比べて四音。お前は変わり映えしねぇな」
「ほっといてください!!いいじゃないですか。常に平常心でいる、これが俺のスタイルです」
「お前の場合、平常心ってよりボーっとしてるだけにしか見えねぇンだけど」
「先生の意見に一票!!」
「ボクもー」
「ひでぇ」
周りからの言の葉による攻撃をモロに受けてヘコんでいる俺の横を、先生と同じように会議を終えた他校の顧問も続々と会場に入ってきた。
そいつらの奇異の視線がさらに俺を痛めつける。
他の生徒達もアップを終え、自分達の顧問の元に集まっていた。
「そろそろ開会式が始まるぞ。さっさと並びに行け」
先生に促され、俺と薫は本部席前に、猛と雪奈はコート外に向かっていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
受験が間近に迫ってきたので、今まで以上に更新が滞ると思います。
すいません。