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知る者、知らない者  作者: 螺旋の凡人
~第2章~
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第34話 最後の一仕事

俺とルカたちはミッチーの案内でこの人工島の最下層までやってきた。ここは実験を終えた“処分品”が管理されている部屋だ。俺たちの目の前にはなんとも物物しい扉がある。


俺はその扉の前まで行き、ルカたちに振り返った。


「正直、ここから先は気持ちのいいモンじゃねぇ。出来れば見ない方がいい。お前たちの目的は既に果たされているんだ。もう帰ってもいいんだぞ」


「ああ?ここまで来てノコノコ帰れっかよ。オレたちは最後まで見届けるぜ」


ルカは威勢良くしているが、扉の向こうから漏れ出してくる不穏な気配を感じているようだ。よく見ると体が小さく震えている。


「なら、後悔するなよ」


俺は二人が頷いたのを確認して扉を開いた。勿論鍵なんて持ってないから、創った刀で切り裂いてだ。


扉が開いた途端、中から溢れる気配が強くなる。ねっとりと絡みつくような気配を振り払いながら部屋に足を踏み入れる。


中には辺りを確認できる光源は無く暗闇が広がり何も見えない。時折呻くような音が聞こえる以外は不気味なほど静かだ。だが、それも目が慣れてくれば周りが見えるようになる。何度見てもこれだけは慣れない。


「ひっ」


後ろではルカが小さく悲鳴を上げた。可愛い声も出るじゃないか。


俺は指を鳴らして野球ボールくらいの光源を出して部屋全体を照らす。


そこに広がっていたのは……


鎖で縛られ壁に磔にされた人外たちだ。だが、ただの人外じゃない。あらゆる実験を繰り返され原型を留めていない。


手足が5本ずつある者、本来下半身があるべきところに別の人外の頭が付いている者、臓物がはみ出している者、皮が全て剥がされている者……


「おえぇぇ」


後からはルカが嘔吐する声が聞こえる。ルイが背中を摩ってやってるようだ。


「大丈夫か?」


「ああ、問題ない。それでこれからどうすんだ?」


俺は近くにいた人外の様子を観察した。そいつの原型は分からないが、どうやら人型だったらしい。手足に何本も杭を打たれ、体中にいくつもの切り傷があり、そこから肉や内臓が溢れている。


「酷いな……ミッチー、これで全部か?」


「ああ、こやつらを助けてやってくれ。それで今回の仕事は終わりだ」


「そうか。じゃあ皆はちょっと下がってくれ」


俺は皆が部屋の外に出たのを確認して能力を解放した。


ひらけ」


そう言うと俺の左腕が輝いて光の粒子が溢れ出す。


―左腕によって俺の能力は閃かれる―


俺は右腕を頭上に掲げた。


ひらけ」


そう言うと掲げた右腕から光の粒子が拡がり、部屋全体に満たされる。


―右腕によって俺の能力は拓かれる―


最後に部屋を見渡して被害者となった人外たちの姿を目に焼き付ける。


「喰らえ」


人外たちの身体が分解して光の粒子になっていく。それらが俺に集まり吸収する。


全ての粒子が吸収されたのを確認して、俺は“食休み”に入った。



気が付いたらミッチーに背負われ、家の近くの見慣れた道を歩いていた。そうか。あの後“食休み”で寝てたのか。ここまではルカたちが送ってくれたのかな。


「ミッチー、もういいぞ。下ろしてくれ」


「お!目が覚めたか。分かった。今下ろそう」


さっき喰った連中がまだ身体に馴染んでいないのか、地面に降りたとき、少しバランスを崩して踏鞴を踏んでしまった。


「大丈夫か?」


「問題ない。ルカたちは?」


「帰ったよ。君に伝言を預かっている」


「何だ?」


「“ありがとう”だそうだ」


それを聞いて思わず笑みが零れる。それを見逃さなかったミッチーが意地悪く顔を歪めた。


「雪奈君から心変わりでもしたのかな?」


「馬鹿言え。そんなことはあり得ないし、そもそも俺と雪奈はそんな関係じゃねぇ」


「おや、そうなのかい?私はてっきり2人はいい仲なのかと思っていたのだが?」


「俺と雪奈は家族だ。確かに愛しちゃいるが、それはただの家族愛だ。恋愛じゃない」


ミッチーはつまらなそうにしていたが、そのまま何も言わず俺の家に向かい始めた。


「ちょっと待て。今俺の家に鳴海さんはいないぞ」


「どういうことだ?」


「どっか行ったとかじゃないからそんな慌てんな。俺がこっちに来ちまったから、ちょっと先生の家に移動してもらったんだ」


「そういうことか。私はてっきり……」


ミッチーが安堵の溜息を漏らす。が、こいつは大事なことを忘れている。現実に戻してやるとするか。


「安心するのはまだ早いぞ。忘れてるかもしれないから言っておくが、お前は鳴海さんをずっと騙し続けていたんだぞ。そして鳴海さんはそれを知った。どんな顔して鳴海さんに会うつもりなんだ?」


先ほどとは一転してミッチーの顔が冷や汗でいっぱいになる。オモロ。


「考えても始まらねぇ。帰って目の前にして頭に浮かんだ言葉をそのまま口にすればいいんだ。っと」


足を踏み出そうとしたとき、周囲の空間が歪む。一瞬雪奈かと思ったが、歪みの向こうから溢れてくるむせるような濃い神気に考えを改める。思った通り接触してきたな。


因みになぜ雪奈と間違えたかというと、雪奈も覚醒者アウェイクンだからだ。覚醒した能力は、かなり珍しい亜空間保有だ。雪奈はこの亜空間を相手との間に展開して擬似的なA○フィールドを作ったり、亜空間を挟むことでワープしたりすることができるのだ。


そんなことを考えている内に相手側に召喚されてしまった。周りには見渡す限り、神、神、神ばかりだ。と言ってもそのほとんどが成り上がりだ。だが、俺とミッチーの前にいる2人だけは違う。純粋な神の中でもさらに格が違う。


向かって右側が日本に数多いる神々の親であるイザナギ、左側が地獄の審判を下す閻魔だ。日本神話のツートップが並んで座っているとは滅多に見られない。


ミッチーは慌ててその場で跪き頭を垂れる。勿論俺はそんなことはしない。それを確認したイザナギはその口を開いた。


『ふむ、そなたが水引四音か。話にはよく聞いていたが、直接会うのは初めてであるな。カグツチは息才か?』


「おう。初めましてだな。カグツチなら元気だぜ。今も俺の中で頑張ってくれてるよ。何ならここに呼ぼうか?」


『貴様!イザナギ様に対し無礼であるぞ!』


イザナギの後ろに控えていた神が声を荒げると、一気に周りが殺気立つ。随分と短気な神がいるな。


「そんなこと言われても。俺とイザナギとの間には明確な実力差があるからな。いくら最高神とは言え、格下相手に礼儀もクソもねぇだろ」


俺の言葉が終わらない内に、俺の左腕が地に落ちる。短気な神が腰の剣で切り落としたんだ。


『ふん!口ほどにもない。分かったら身の程を弁えろ!人間風情が!』


自信たっぷりに言う姿が可笑しくて思わず笑ってしまう。


『何が可笑しい!』


「いや、ただイザナギも酷いことするな、と思って。それとこういうのが好きなのか?」


『貴様まだ言うか!』


短気な神が再び剣を抜こうとするが、柄に手を添えただけで剣が崩れて光の粒子になってしまった。剣だった粒子はそのまま復元した俺の左腕に吸い込まれていく。短気な神は何が起こったのか分からないといった顔をしている。


「ご馳走様でした。これが天叢雲剣か。なるほど、こうやって対象を斬ってるのか」


『貴様一体何をした!』


「ちょっと何でも斬れる剣に興味があってな。食わせてもらった。美味しかったぜ。で?武器が無くなっちまったけど、続きやるか?」


俺の言葉に神は殺気を強くして周りの神々も臨戦態勢に入った。そんな状況でも俺の態度は変わらない。この空間は既に俺の支配下にあるからだ。


『鎮まれ!』


一触即発の空気の中、突然に響き渡った声の主の全員の目が集中する。声の主であるイザナギは椅子から立ち上がり俺と神のことを睨んでいる。その隣では笑いを閻魔が笑いを堪えながら立ち上がりイザナギの言葉を引き継ぐ。


『別にそのまま闘ってもいいが、自分の周りをよく見てみろ。そこら中に漂ってる光の粒子に触れたら、さっきのスサノオの剣と同じように分解されて吸収されるぞ。それにその男の言っていることは事実だ。そいつの実力は俺たちを上回っている。俺たちを含めた全員でかかっても勝つのは無理だ』


閻魔の言葉が信じられないといった感じにスサノオと呼ばれた短気な神が目を見開いて俺のことを見る。俺は左腕から光の粒子を出してさらに追い打ちをかける。それを見たスサノオが身を引き、周りの神々も警戒を解くのを確認して俺は本題に入ることにした。


「で?何で俺たちをここに召喚したんだ?俺たちだって暇じゃないんだから、さっさと済ませてくれ」


『まあ、そう慌てるでない。今回はそなたに世話になったからな。その礼をするためにここへ呼んだのだ。それで何か希望はあるか?』


「そういうことなら遠慮しねぇぜ」


『ああ』


俺は隣でに跪いているミッチーを指示す。


「じゃあ、ミッチーと鳴海さんの生活の安寧を約束してくれ」


俺の願いを聞いたイザナギの顔が僅かに歪む。隣に座る閻魔は相変わらず笑いを堪えている。


『お前への礼なのだぞ。本当にそれで良いのか?』


「ああ、ミッチーたちは俺の家族だ。家族の幸せは俺の幸せでもある。それにこれでもうお前らはミッチーに手を出せなくなるからな」


隣を見れば、ミッチーが驚きすぎて目玉が飛び出そうなくらい見開いている。


『ハハハ!聞いていた以上に剛毅な奴のようだ。見事に裏をかかれたな。これで手を出したら恥をかくのは俺たちだぜ。どうするんだ?イザナギ』


イザナギは少し考えるような仕草をしたあと、ミッチーのことを見る。ミッチーはそれだけで蛇ににらまれた蛙のように固まってしまった。


『ふむ。確かに閻魔の言うとおりだな。分かった。その願い聞き入れよう。それから道真よ』


イザナギに名前を呼ばれたミッチーはビクッと反応してその場に立ち上がる。


「はい。ここに」


『うむ。そう固くなるな。先ほども言った通りもう我々はそなたに何もできない。もし手を出そうものなら四音に何をされるかわからないからな。そうであろう?』


イザナギが俺に同意を求めてきたので頷く。


「そうだな。とりあえず、地獄からイザナミを連れて来てやる」


それを聞いたイザナギが顔を歪める。俺の中でもカグツチが悲鳴を上げた気がした。そんなに嫌か。

『そういうことだ。そなたは安心して愛する女と一生を添い遂げろ』


「はっ有難き幸せ」


『さて、用も済んだことだ。そなたらを帰すが良いな?』


お開きムード全開の中、閻魔が待ったをかける。


『ちょっと待てや。四音、俺はお前の男気に惚れたよ。何か困ったことがあったら俺を頼りな。それだけだ。引き留めて悪かったな』


『うむ。今回は本当に世話になった。代表して礼を言わせてもらう』


椅子から立ち上がりこちらに頭を下げるイザナギと閻魔の姿を最後に、俺とミッチーは元の空間に戻っていた。イザナギの気遣いなのか、先生の家が目の前にある。これで俺の仕事も終わった。


「目の前にあるのが先生の家だ。ここに鳴海さんがいる。いろいろあったけど覚悟はできたか?」


「ああ、ここまで来てしまったのだ。まだ会うのは怖いが、行こう」


そう言って、ミッチーがドアに手をかけたとき、内側からドアが開けられた。そして、そこには目の前のものが信じられないといった顔の鳴海さんがいた。ミッチーはいざ目の前にすると何も口から出てこない。


先に復活したのは鳴海さんの方だ。鳴海さんは何も言わずミッチーに抱き付いた。


「え?あっ、え?」


ミッチーは突然のことで完全にフリーズしてしまった。


「お帰りなさい」


鳴海さんの言葉でミッチーは堰を切ったように泣き始めた。それを見て鳴海さんも泣き始めてしまった。


「た、ただいま」


ミッチーは息を詰まらせながら鳴海さんに応える。


何も心配はいらなかったみたいだな。2人の泣き声に家の中からゾロゾロと人が出てくる。皆はミッチーたちの様子を見て何があったか納得したらしい。その中に雪奈の姿を見つけたので、近づくと向こうも俺に気付いて飛びついてきた。俺は慌ててそれを受け止める。


「四音、お帰り♪」


「おう、ただいま」


雪奈をその場に下ろし頭を撫でていると、猛と委員長と先生も俺に近寄ってきた。先生の手には俺が預けたパーカーが握られている。先生はそれを俺に投げてよこしてきた。


「よう。ちゃんと帰ってきたな。元気みてぇだし、早速ウチで宴会か?」


「ただいま。いや、今は2人にこの余韻を味合わせてあげたいんで、宴会はまた今度俺の家でやりましょう。今度こそ本当に祝賀パーティーをやりますよ」


俺の言葉で全員がミッチーと鳴海さんに目を向ける。2人の嬉しそうな表情を見れただけでも今回頑張った甲斐があったな。今回は多くの命を喰ったしトミマツのこともあった。精神的にかなり参っていたが、それも報われた気分だ。


俺たちは日が暮れて周りが暗くなるまで抱き合っていた2人を見守り続けた。


人物紹介

氷澄雪奈ヒズミユキナ

本作のヒロインにして四音とチセの幼馴染。小5のころに四音の家の隣に引っ越してきてからずっと三人で遊んでいた。また髪の色のせいでイジメられていたのを四音に助けられてから淡い恋心を抱くようになる。

とても明るく活発な性格で運動全般が大の得意だが、その代償として学習面はよろしくない(中学の2年間が丸々抜けている四音や学校をサボっていた猛よりは良いが)。高校ではほぼ全ての運動部に所属している。

覚醒者――保有者スペーサー――想い:感謝、対象:四音

覚醒者として“時間の概念が無い無限の広さの亜空間を持つ”という珍しい能力を持つ。亜空間の中には、着替えや食料や四音の武器などが入っていて例え今すぐ無人島で暮らせと言われても問題ない仕様になって、かなりご都合主義になっている。今のところその活躍はないが、今後おういに役立ってもらう予定です。また、能力の応用で保有する亜空間を板状に展開することで絶対に敗れない障壁することが出来る。他にも入り口と出口を別の場所に開くことで転移の真似事も出来る。雪奈はよくこれで遅刻を免れている。




作者的に元気なボクッ娘は鼻血ものです。

次回は薫を紹介します。

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