第30話 意志の刃
あれからルイの攻撃を避けるたびにこの部屋の景観が変わっていく。床にクレーターがたくさん出来てルイの攻撃を避けるのも辛くなってきたな。
「いい加減諦めて私のところに帰ってくる気はないかね?君が帰って来てくれればそのヴァルキリーは解放しよう」
トミマツが何か言っているが何を言っているのか頭に入ってこない。そこまで集中しないとルイの攻撃を避けきれない。刀で受けられればいいんだが能力せいでそれができない。
このままじゃ埒が明かない。少し不安だがここらで勝負に出るか。向こうじゃルカが不安そうに俺とルイの様子を伺ってる。
俺は今までの逃げから一転して一足でルイに肉薄する。もちろんルイは大槌を振りかぶり迎撃してくるが、背後に回ってそれをかわし小太刀でルイの首を一閃する。
ガキィン!
おいおい嘘だろ。まさかここまで化物染みてるとは思わなかった。ルイは俺の小太刀での居合を歯で受け止めやがった。そんなことするのは漫画の中だけにしとけ。
ルイはそのまま小太刀を噛み砕き大槌を振るった。何とかその一撃をかわしたが、ルイは大槌を振り切らずにそのまま突き出してきた。俺は反応が遅れて大槌の先端に取り付けられた槍に貫かれた。
「ガハッ」
ルイはなおも大槌を突き出して俺を壁に縫い付けた。その衝撃で壁に蜘蛛の巣状の罅が入った。折れた肋骨が肺に突き刺さり他の内臓もいくつか潰された。痛みで意識が飛びそうだ。
ぐちゅり
ルイは大槌を俺の体から引き抜いてトミマツの元に戻っていく。
「随分と呆気なかったね。まあ能力を封じてしまえばただの人間だ。こんなものだろう。さあDV004、あそこのヴァルキリーも始末しろ」
ルカはその言葉に大剣を抜いて構えるが剣に迷いがある。一瞬で間合いの中への侵入を許して背後から吹っ飛ばされた。
トミマツは足元に転がるルカをいると、
「殺れ」
ルイは無言で近づき俺の血で赤黒く汚れた大槌を振り上げ一気に振り下ろした。
トミマツに
トミマツはかわすことが出来ずに粉々になるが再び一か所に集まって再生する。その間にルイはルカを回収して俺のところまで後退する。
「ルイ姉ちゃん、一体……」
ルカは状況を理解できず混乱しているようだ。
「ルカちゃん、心配かけてごめんねぇ。今まで苦労したでしょう?でももう大丈夫だからぁ。そこの彼のおかげで元通りよぉ」
ルイはルカの不安を取り除くように笑顔で話しかけた。やっぱり美人は笑顔でこそ美人だな。
「感動の再会に水を差すようで悪いけど、とりあえず助けて」
「あらあら。じゃあルカちゃんこの人を回復させてあげてぇ」
何とか声を絞り出して助けを求めるとルイが反応してくれ、ルカが透明のビンを取り出してその中身を俺にかけてくれた。おかげで大分痛みも引いた。完治はしていないが刺さっていた骨は元あった位置に潰れた内臓は形だけは元の姿に戻った。
「ふう。助かった。ありがとう」
俺がお礼を言ってルカの頭を撫でてやると赤くなった顔を背けてしまった。どうした?また殴られるかと思ったんだけどな。
「貴様!一体どうやって傀儡化を解いた!」
再生しきったトミマツが顔を醜く歪めて怒鳴っている。別に教えてやる義理はないんだが、さっきの講義のお返しに教えてやるか。
「俺だってただお前の部下を殺してきたわけじゃない。お前が傀儡化に使う薬を独自に研究してきたんだ。そして見つけたんだよ。傀儡化に対抗する唯一の手段を」
「馬鹿な!私の傀儡化は完璧だ!その証拠に半神であるヴァルキリーですら完全に制御化に置いていたんだぞ!」
「お前だって腐っても科学者なら“反物質”って知ってるだろ?」
「反物質だと?まさか!」
「俺は薬の存在を喰らってその性質を知った。そしてそれと対をなす性質を付与した反物質を創り出すことに成功したんだ。こいつを飲めば進行の進んでいない奴なら助けることが出来るようになったんだ」
「だ、だがそんなものを飲ませる暇なんて無かったはずだ!」
「ああ、飲ませる時間は無かった。だから、自分で飲んでもらったんだ」
トミマツは訳が分からないようで眉間に皺が寄っている。顔を横に向けれと、ルカの頭から煙が出てた。
「こいつにその性質を付与しておいたんだ」
俺はそう言ってルイに噛み砕かれてしまった小太刀を鞘から抜いてトミマツに見せた。
「本当は体の中心にブッ差して直接吸収させようと思ってたんだが、まあ結果オーライってやつだ」
俺は小太刀を鞘に戻して代わりに太刀を抜刀した。
「これ以上時間をかけるつもりはない。さっさとお前を殺して帰るとしよう」
「フン!私は不死身だ。そんなもので斬っても無駄だ!」
「そうだな。確かにいくら斬っても無駄だろう。だが、お前は一つ間違っている」
トミマツが一瞬顔を引き攣らせたのを俺は見逃さなかった。
「お前は不死身なんかじゃない」
「何を言うかと思えば、くだらない。私は不死身だ。現に貴様らの攻撃を全てこの身に受けてもこうして生きているじゃないか」
トミマツは虚勢を張るのに必死だ。
「確かにお前は俺たちの攻撃を“ほぼ”全て受けた。だが一つだけ避けた。いや、当たるのを防いだ攻撃がある」
トミマツの顔は冷や汗でいっぱいだ。
「それは俺がドラゴンに変化しているときに放ったブレスだ。お前はそのタイミングでルイを召喚してブレスを防いだ。つまり、お前は打撃や斬撃に対してはほぼ無敵だが、炎には弱いということだ」
「都合のいいことに、俺はそういった特徴を持つ人外を一つ知っている」
ルイとルカも興味津々で俺の話を聞いている。
「その人外はスライム。お前は何らかの方法でスライムと一体化して擬似的に不死身になっただけだ」
俺が説明を終えると、トミマツは俯いていたが急に顔を上げて笑い出した。
「フフフッフーハハハハ!確かに貴様の言うとおりだ。私はスライムと融合して打撃と斬撃に対してのみ有効の限定的な不死の体を手に入れた。だが、それはもうほぼ不死身といっていいんじゃないかい?少なくとも現時点では私は不死身だ。君は能力を封じられていて変化できない。後ろの二人が魔法を使うのなら話は別だがね」
トミマツは大仰に腕を振って力説した。そうか。こいつは俺のあれを“知らない者”なんだな。だから、この状況で笑ってられるんだ。
「無知ってのは幸せだな」
俺の言葉に機嫌を悪くしたのかトミマツの顔から笑みが消えた。
「無知、だと……貴様、私に向かって無知と言ったか?」
「ああ、言ったぜ。だって、よく考えれば分かることだろ?お前の研究所から逃げる時、俺がどうやって闘って生き残ったと思ってる?」
「そんなもの貴様の能力があれば簡単なことだろう?」
「ああ、そうだ。確かに今の俺の能力なら簡単だ。しかし、その能力はあの時以降に手に入れたモンばかりだぜ?」
怒りで回らなくなっていた頭に冷静さが戻ってきたようだ。少し考える様な素振りを見せると、俺の方に顔を向けた。
「つまり、君にはあの状況で生き残れるほどの君本来の能力あるいは技術があるということか」
「その通り。そしてそれがこれ。俺の家に伝わる剣術、水引流剣術だ」
「刀一本で何ができる?」
「そうだな。そこが問題だ。本来二刀流の剣術だから一本でできることなんてたかが知れてる。けど」
俺は纏っていた殺気を太刀に載せる。その瞬間さっきまで何の変哲もなかった太刀が燃え上がった。トミマツもそれを見て驚いてるようだ。
「水引流剣術、特式、火剣」
燃え上がる切っ先をトミマツに向けて宣言する。
「お前を殺すには十分だ」
俺の言葉に呼応するように刀の炎が揺らいでいる。だが、この程度の火力じゃまだ足りない。トミマツのことだ。自分の弱点は理解していてそれを補っているはずだ。だから、俺も出し惜しみはしない。
「焔」
俺の言霊で溢れ出していた炎が刀に収束する。だが、これは火力が弱まったんじゃない。今まで見えていた炎が圧縮されただけだ。俺の炎はこんなモンじゃねぇ。
「業火」
刀の炎が密度をそのままに先ほどよりも大きくなる。
「紅蓮」
炎の勢いが更に増し離れているトミマツやルカたちのところにまでその熱が伝わる。
「煉獄」
これが俺の出せる最高の火力だ。あまりの熱に床が溶け始めた。
「おいルカ、お前結界張れるか?」
「あ、ああ」
「じゃあお前が張れる一番強力なのを張れるだけ張れ。じゃねぇと次の一撃の余波は防げねぇぞ。それとルイはルカのサポートをしてくれ」
「任せてぇ」
俺はトミマツに向き直った。俺の炎のせいで少し溶けてデロデロになってる。気持ちワルッ!
「さあ準備ができた」
「その炎は一体……」
「いいだろう。冥土の土産に教えてやるよ。元々水引流は乱世の世を嘆いた一人の僧が“人の意志が世を乱し、人の意志が世を救う”って理念で編み出した剣術だ。その仕様は覚醒者とよく似てる。極限まで高めた意志を刃に載せることで馬鹿げた力が手に入るってね。もし刃に斬るって意志を載せれば大陸を斬ることだって出来るし、逆に斬らないって意志を載せれば刃の上に木の葉を重ねることも出来る」
「そ、そんなことがあるはずがない!そもそも覚醒者だって確認されたのは最近のことなんだぞ!」
トミマツが何か騒いでるが無視して話を続ける。
「そんでこの炎ってのは俺の意志そのものだ。刃に載せた意志を滾らせることでその意思を炎として顕現させてるんだ。その中でもこの煉獄は最高火力だ。この状態から放たれる一撃は神ですらその座から引き摺り降ろすほどの威力がある」
俺は燃え盛る刀を頭上に構える。
「お前には世話になった。その恩を返してやる」
俺の意志に呼応してさらに火力が増す。
「神に成ることを望んだお前には丁度いい技だ」
そして神殺しの一撃を解放する。
「神堕ろし」
最早閃光のようになった煉獄の炎はトミマツを一瞬で焼滅するが、勢いが収まらずにそのまま直進して地上までの施設を破壊しても止まらず天を穿つ。




