第3話 日常Ⅱ
遅くなりました。
まだまだプロローグは続きます。
俺の目の前に鬼のような形相で立っている女子がいる。
「何すんだよ委員長!!」
「委員長って言わないで!!」
こいつは委員ちょ…もとい化灰薫。
俺たちのクラスの委員長であり、成績は学年トップで俺らが所属する剣道部の主将も務めている。
黒髪のおさげで眼鏡、その上巨乳という【ザ・委員長】という外見をしており、実際に委員長を務めているため、俺を含める多くのクラスメイトに“委員長”と呼ばれている。
猛や猛とつるんでいる俺らに話しかけてくる数少ない生徒の一人である。
昔助けてもらったことがあるらしく、猛に惚れていている。そのことを本人は隠しているが、当人以外はクラスにとって周知のことだ。
一年次に知り合っていて雪奈と仲が良く、俺の日常を構成する大切な一人だ。
「だって委員長じゃん」
「そうだそうだ♪」
俺がふざけて言った言葉に、意外にも雪奈が賛同してきた。
「はあ。もういいわよ。そんなことより二人とも、また遅刻したでしょ!!いい加減自分達の立場を考えて行動してよ!!」
「しょうがな…「そ・れ・に!!昨日部活サボったでしょ!!剣道部は私達しかいないんだから、このままだと廃部になっちゃうじゃない。私はそんなの絶対イヤなの!!それに四音君。またそんなの(・・・・)着て!!」
これは俺が委員長から耳にタコができるほど言われていることだ。
そして、俺もこのことに対する答えを、同じように委員長の耳にタコが出来るほど返している。
「これは俺が昔兄貴から貰った家族の次に大事な宝物だ。たとえ誰に何と言われようとも、俺はこのパーカーを脱ぐ気はねぇよ」
「だからって、そんな理由じゃ誰も納得なんてしないわよ」
このやり取りは毎日全く同じように行われているが、今日は日常と少し違っていた。
「そんな怒んなよ。折角の可愛い顔が台無しじゃねぇか」
そう言うと猛は委員長を抱き寄せ、顔を一気に近づけた。
「ひぇっ」
委員長はさっきまでの勢いが嘘のように、大人しく猛の腕の中に収まっていた。
「なんてな。なに顔赤くしてんだよ」
「…」
委員長は無言でロッカーまで行ったかと思うと、その手に愛刀である黒塗りの木刀を携え戻ってきた。
それを見た猛の顔がみるみる青くなっていき、俺の手を掴んで走り出した。
「やべぇぞ、四音。薫のヤツ本気だ。早く逃げないと、俺達殺されるぞ」
「なんで俺もなんだよ。怒らせたのはお前じゃねえか」
「二人とも待ちなさい!!今日という今日は私がその捻じ曲がった根性を叩き直してやる!!」
「だからなんで俺もなんだよーーーーー」
そんな心からの叫びも通じず、俺は委員長に捕まり文字通り叩き直され、今日の部活は必ず出ることを約束させられた。
ちなみに、猛は俺がボコボコにされているうちに逃げやがった。
あの野郎あとで殺す
+++++++++++
なんとか生き延びてから、俺はすぐに怪我の手当と称して保健室に逃げ込んで、午後の授業をバックレることにした。
「あーははは」
「笑い事じゃないですよ、先生。本気で死ぬかと思ったんですから。あいつ木刀で殴ったんですよ」
「お前がそれくらいでくたばるかよ。それにしても、久しぶりに来たと思ったらそんなことかよ。クククッ、あーダメだおもしれー。私を笑い殺す気ならいい線いってるぞ。あーははっは」
「…」
「ふう。まあそんな膨れんな。生きてて良かったじゃねえか。なんだかんだ言って薫も手加減したんだよ」
「これでですか?」
そう言う俺は、委員長の指導によって見るも無残な姿になっていて、まだ手当出来ていないところからは血が流れている。
この人…このお方は亜久間晴美。
天ノ上高校の保健医であり、我らが剣道部の顧問でもある。
しかしその正体は、ここら一帯を取り仕切る亜久間組という、“ヤ”のつくかなりアレなアレの組長の一人娘で、猛が去年まで頭をはっていたディーラーズの創設者にして歴代最強の初代リーダーである。
容姿は超がつく程の美人で、言い寄る生徒や先生は数知れず、その全てが数日後記憶喪失の状態で見つかるらしい。
余談だが当時の幹部の一人に聞いた話では、先生がディーラーズを創ったのは“惚れた男を振り向かせるため”だったらしい。
とんでもない男もいたものだ。
「これでよし!!」
先生は最後のガーゼを、その上から叩いて貼り付けた。
「ってぇ」
「ほら終わったからさっさと授業に行け。また薫に怒られんぞ」
「えーもう少しいいじゃないですか」
「ったくしょうがねえな。使うなら奥のベットにしな。担任には適当に言っといてやるよ」
「あざーす」
ガラッ
俺がベットに入ろうとしたとき保健室のドアが開いて、そこにはちょっと前の俺のような姿の猛が立っていた………
「あーははっは」
保健室には先生の笑い声が響いた。
+++++++++++
キーンコーンカーンコーン
「ほら二人とも起きろ!!放課後になったぞ。今日は部活に出ないといけないんだろ!!」
「うーん」
「もうちょっとだけ」
先生が声をかけてきたが、俺も猛も全く起きる気はない。
やっぱりこの世で最も強いのは、どんなに強い奴でも例外なく腑抜けにしちまう布団だと思う。
とふざけた事を考えているうちにも意識が………
ガラッ!!
「よう薫。来るの早かったな。四音なら奥、猛なら真ん中のベットに寝てるぞ」
ガバッ!!
「いやー今から行くとこだったんだよ。なあ猛?」
「そうそうその通り!!さぁ今日も部活を一生懸命頑張るぞ。四音!!」
「「だから許して!!」」
「「…」」
しかし、次に来るであろう脳天への衝撃が、いくら待ってもやってこない。
「「?」」
不思議に思い顔を上げると、そこに委員長がいない代わりに、先生が声を殺して笑っていた。
「あのー先生?委員長は?」
「あーはは薫なんていねーよ。さっきのは私の一人演技だ。お前らすっかり騙されてやんの。チョーおもしれー」
「はあ。なんてことするんですか。“悪魔”先生」
「あ゛あ゛?てめぇ今なんつった?」
「いいえ、何も言ってません。“亜久間”先生」
ちょっとした誤字も見逃さず、本気のメンチを切ってきた。
俺はその迫力に負けて即効で訂正した。だってチョーこえーもん。あんなんで睨まれたら鬼だって裸足で逃げ出すぞ。あっヤベー少しちびったかも。
「それにしても折角気持ちよく寝てたのにヒドいですよ。先生」
「ふぁーあ。委員長もまだ来てないことだしもう一眠りするか」
「そうす…」
ゴスッ!!
猛に同意の声を上げようとしたとき隣から物凄い音がした。
振り向くとそこにはさっきまでいた猛の姿はなく、下を見ると頭から血をドクドクと景気良く流して、まさに出血大サービスしている猛があった。
その後ろには、愛刀である黒塗りの木刀を血で濡らした鬼が佇んでいた。
鬼は次の標的である俺に木刀を振り上げ、何の躊躇もなく俺の頭に振り下ろした。
ゴキッ!!
ドサ
俺の意識はその木刀によって刈り取られた。
+++++++++++
ゴキッ!!
ドサ
私が止める間もなく、薫は二人を気絶させるとそれぞれの足を掴んだ。
「か…薫?二人をブチのめすもをいいけが、死なない程度にしてやってくれ?」
ニコッ♪
「先生。保健室を汚してしまってすみませんでした。掃除は必ずこの二人にさせるのでご心配なく」
薫は私の提案を無視して、笑顔のままそう言った。
ヤバい。このままだと二人が殺されるな。
しょうがない。今夜は仲間と飲み会があったけどキャンセルするしかないかな。
生徒から死人も殺人者も出すわけにもいかないからな。
「あーえーと薫。今日の部活は私も顔を出すから。よろしく」
「チッわかりました。なら今日はみんな来ることですし、いつも以上に頑張らないといけませんね?」
コイツ本気で二人を殺すつもりだったな。
ったくまあこれでその心配はいらねえな。
もし危なくなっても私が止められる。
「おう。そういうことだから先始めててくれ。私もすぐに行くから」
「はい。急がなくていいですから、ゆっくりしてて下さい」
そう言って薫は二人を引き摺って、保健室から出て行った。
私は薫を見送るとすぐ携帯を出した。
数回の呼び出し音の後相手が出た。
「おう私だ。実は今日これから予定が入っちまってな。悪いが飲み会行けそうにない。ああ。ああ。わっかた。じゃあそういうことだから、ホント悪かったな。みんなにも謝っといてくれ。今度奢る。じゃあな」
ピッ
さてと。用はすんだな。
じゃあ久しぶりに部活に行こうとするかね。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今はこんなペースですが、受験が終わりさえすれば、もっと速くなりますのでよろしくお願いします。